BRGSF重症免疫不全マウスの応用におけるCAR-T細胞免疫療法の有効性と安全性の評価

BRGSFマウス背景の振り返り

 

BRGSF(BALB/c Rag2tm1Fwa Il2rgtm1Cgn SirpaNOD Flk2tm1lrl)マウスは、現在、市場で最も重症な免疫不全マウスの一種として知られている。その中で、Rag2Il2rg遺伝子のノックアウトによってBRGSFマウスのT、BとNK細胞欠損細胞株を作製する。SIRPaNODを通じて、マウスのマクロファージのヒト由来細胞の食作用を抑制する。Flk2-/-遺伝子のノックアウトによってマウス骨髄系細胞の構成成分(特に樹状細胞、DC)を大幅に削減する(図1)。免疫系におけるこのような高度な欠陥により、BRGSFマウスは各種のCDX及びPDX移植片との高度なる適合性をもち、移植効率も高くなり、抗がん剤の薬理学的・薬力学的研究に非常に適することになる。さらに、N*Gマウス(NODの遺伝的背景:補体C5-/-)と比較すると、BRGSFマウスはBALB /cを背景とし、体内に完全な補体系を持っているので、補体依存性細胞毒性(complement-dependent cytotoxicity,CDC)研究の為の強力なツールとされている。例えば、CDCメカニズムでCAR-Tをオンデマンドで除去する薬物の有効性と安全性を評価することができる。

図1. BRGSF重度免疫不全マウス

図1. BRGSF重度免疫不全マウス

 

CDCメカニズムの紹介

補体(complement)は、活性化後に酵素活性を持つ血清タンパク質の一種であり、主に肝細胞とマクロファージから産生され、体の炎症反応と微生物に対する免疫反応に参与する。

 

補体依存性細胞毒性(complement-dependent cytotoxicity,CDC)とは、補体系が活性化された後、標的細胞膜の表面に膜侵襲複合体(membrane attack complex,MAC)が形成され、細胞膜への穴開けを通じて、最終的に細胞溶解という細胞致死効果を引き起こすことを指す。

 

補体活性化には、古典的経路、MBL経路及び代替経路の3つの経路がある(図2)。これらの3つの経路はすべて補体5(C5)の関与を必要とし、最終的にはC5b6789(C5b-9)で構成されたMACが形成される。NODの遺伝的背景を持つマウスのC5遺伝子は喪失し、体内の補体系が不完全な為、CDC機能を発揮できなくなる。その反面、BRGSFマウスはBALB/cを背景とするため、体内に完全有効な補体系をもち、CDC研究の有力ツールとして、CDCメカニズムによって効果を発揮する薬物への有効性と安全性の評価に利用できる。

図2.補体活性化の3つの経路

図2.補体活性化の3つの経路[1]

 

CAR-T細胞免疫療法の案内

CAR-T細胞免疫療法は、人体自身の免疫系を駆使して腫瘍細胞を攻撃する新型抗腫瘍療法である。 2017年末、FDAは2種類のCD19を標的とするCAR-T療法(Novartis社のKymriahとKite/Gilead社のYescarta)の上場を承認し、2020年7月、Kite/Gilead社のCD19を標的とするCAR-T療法のTecartusの上場も承認された。そして最近(2021年2月5日)のグッドニュースとしては、FDAが、ブリストルマイヤーズスクイブ(BMS)傘下のJuno Therapeutics社によって開発された同様のCD19を標的とする第4種目のCAR-T療法のBreyanziの上場を認可し、再発性或は難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の治療に使用できるようにしたことである。

 

現在、CAR-T細胞免疫療法は、主に選別された患者のT細胞に対して遺伝子修正改造を行ってから、その表面上に腫瘍特定性キメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor, CAR)を発現させた後、体外増幅後に患者の体内に再注入することによって、腫瘍の治療目的を達成する(図3)。この種の治療法は、抗原と抗体の高特定性と高親和性の利点、及びT細胞の致死効果を結合して、腫瘍細胞を標的に殺傷できる。しかし、これと同時に、幾つかの要素もCAR-T療法のさらなる発展を阻害している(サイトカイン放出症候群(cytokine release syndrome,CRS)と神経毒性などCAR-T療法の通常の副作用などが含まれる)。その中で、CRSは致命的な急性全身性炎症反応の一種であり、活性化された免疫細胞の炎症誘発性サイトカインの大量分泌によって発生する。従って、これはCAR-T療法の有効性の一種とも見なされる。

図3. CAR-T細胞免疫療法プロセスの概略図

図3.CAR-T細胞免疫療法プロセスの概略図[2]

 

Case study:CDCメカニズムに基づくCAR-T細胞のオンデマンド除去

CAR-T療法の有効性の低下を防ぐと同時に、患者の体への深刻な傷害の副作用を回避する為に、研究者たちは、CAR-T細胞の一種に対して、「只命これ従う」方法の一種、即ち、CAR-T細胞の治療効果を発揮した後、迅速にオンデマンドでそれらを除去する方法の発見しようとする。

 

2018年、フランスのバイオ製薬会社Cellectisの科学者たちはScientific ReportsにCDCメカニズムを使用してCAR-T細胞をオンデマンドで除去することに関する一本の論文:A Versatile Safeguard for Chimeric Antigen Receptor T-CellImmunotherapiesを発表した。当該論文では、彼らが設計した、検出(detection)、精製(purification)、オンデマンド除去(on-demand depletion)の3つの機能を一体としたCAR-T細胞、即ち、CubiCAR-Tを使って多発性骨髄腫細胞(multiple myeloma,MM)を治療する方法が説明された。

 

このCubiCAR-T細胞のCARには、B細胞成熟抗原に対抗する抗体一本鎖抗体(anti-BCMA ScFV)、即ち、BCMAを含む。これは、多発性骨髄腫細胞の表面に広く存在する重要な治療標的の一種である。 CD34エピトープ(epitope)は、CD34モノクローナル抗体と結びづいて、CAR-T産生過程における細胞の検出及び精製に利用される。それに加えて、CD20ミモトープ(mimotope)は、CD20に対抗するリツキシマブ(Rituximab,RTX)と特異的に結合し、CDCメカニズムを利用して細胞をオンデマンドで除去することができる(図4)。CD20は、cubiCAR-T細胞の中で「安全スイッチ」として機能する。

図4. CAR構造設計計画

図4. CAR構造設計計画[3]

 

インビトロ実験では、CubiCAR-T細胞の除去動態は、添加されたRTXの濃度に左右されるものであることが示された(図5)。補体と50μg/mLのRTXの存在下では、CubiCAR-T細胞の半減期が約10分であり、この濃度が、報告された患者のRTXの最高血中濃度(Cmax)より約10倍低かった[4]

図5.補体によるCubiCAR-T細胞への除去動態実験

図5.補体によるCubiCAR-T細胞への除去動態実験[3]

2×105個のCubiCAR-T細胞の中に異なる濃度のRTX(10-100µg/mL)と補体を注入、或は非処理とする。

細胞相対活量(relative viability)=処理後の細胞活量/非処理の細胞活量×100

 

CubiCAR-T細胞の有効性及びRTXによる特定的除去性を更に検証する為、研究者たちはBRGSマウスを選択してインビボ実験を行った(図6)。この種のマウスは、「バージョンアップ」されたBRGSFマウスと同様に、T、B、及びNK細胞を欠いており、マクロファージのヒト由来細胞に対する食作用が弱く、且つ、機能的な補体系も持っているので、RTXのCDCメカニズムによるCAR-T細胞除去の有効性と安全性評価の為に利用可能である。

図6. BRGSマウスのインビボ実験プロセスの概略図

図6.BRGSマウスのインビボ実験プロセスの概略図[3]

 

マウスの蛍光イメージング実験の結果は、次の通りである(図7)。

(1)Mockグループ(CAR-T細胞の注射なし)のマウスの体内では、腫瘍細胞の増殖が抑制されず、RTX注入とIgG注入との間に、はっきりした差異が見られなかった。

(2)CAR-Tグループ(CARにCD20が含まれない)マウスの体内では、腫瘍細胞の増殖が著しく抑制されたが、RTX注入とIgG注入との間に、はっきりした差異が見られなかった。

(3)CubiCAR-Tグループのマウスの体内では、IgG参照グループの腫瘍細胞の増殖が顕著に抑制されたが、RTXグループの腫瘍細胞の増殖が影響を受けなかった。

 

これらの結果から見ると、CubiCAR-T細胞は、再構成されていないCAR-T細胞と同様に、腫瘍細胞の増殖抑制に顕著な効果がある。それからCubiCAR-T細胞はRTXによって迅速かつ特定的に除去できる。

図7. CubiCAR-T細胞はマウス体内で抗腫瘍活性を示し、且つ、RTXによって特異的に除去されることができる

図7.CubiCAR-T細胞はマウス体内で抗腫瘍活性を示し、且つ、RTXによって特異的に除去されることができる[3]

BRGSマウスにルシフェラーゼとGFP標識ヒト多発性骨髄腫細胞(MM1S-Luc GFP)を接種し、17日目にCubiCAR-T、CAR-T或はT細胞(mock-transduced T cells)を無作為なグループに注射し、注入或は非注入のRTXで処理し、その第21日と第26日及び第31日の蛍光イメージング分析を行った。

 

まとめ

CAR-T細胞免疫療法は腫瘍治療において幅広い見通しを持っているが、それと同時に深刻な薬物の副作用を含む一連の課題にも直面している。多くの研究者たちは各種のCAR-T細胞をオンデマンドで除去できる様々な「安全スイッチ」を設計したが、それらはすべて多かれ少なかれ欠点を持ち、例えば、薬物の過大なサイズ、潜在的な免疫原性、認可されていない小分子の活性剤などである。

 

このほか、それらの一つ重要な共通点としては、これらの「安全スイッチ」が、すべてCARから分離された細胞表面に存在し、この種の設計がCARと安全スイッチの比率(CAR/safeguard)の不均衡の可能性があり、「安全スイッチ」を携帯しないCAR-T細胞が現れる恐れがあることである。

 

もう一方では、CubiCAR-Tの設計は、その「安全スイッチ」のCD20をCARの中に注入する設計にし、FADの認可を得た抗体薬剤のRTXを使用し、CDXメカニズムでCubiCAR-T細胞に対しオンデマンドで除去することで、薬剤の有効性を保証するとともに、薬物の安全性も向上させた。

 

この上、CubiCAR-T細胞はCD34エピトープをCARの中に注入することで、企業の生産過程におけるCAR-T細胞の検出と精製効率の向上にも可能になる。特に、研究者たちはCubiCAR中の標的BCMAのScFVを標的CD123、CD22とCD19のScFVsへの代替を試した結果、これらのCubiCAR-T細胞はインビトロ実験中でも抗腫瘍活量を示し、RTXに特定的に除去できた。これらのデーターはCubiCARが一種の色々な腫瘍種への「ユニバーサル安全スイッチ」になる見込みがあることを示唆している。

 

References:

[1]Tegla CA., et al. Membrane attack by complement: the assembly and biology of terminal complement complexes[J]. Immunologic Research 51(1):45-60 (2011).

[2]Kenar D. Jhaveri and Mitchell H. Rosner. Chimeric Antigen Receptor T Cell Therapy and the Kidney. Clinical Journal of the American Society of Nephrology 13(5)796-798(2018).

[3]Valton J., et al. A Versatile Safeguard for Chimeric Antigen Receptor T-Cell Immunotherapies. Scientific Reports 8:8972(2018).

[4]Rubenstein JL., et al. Multicenter phase 1 trial of intraventricular immunochemotherapy in recurrent CNS lymphoma. Blood 121:745–51(2013).

 

 

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サイヤジェン株式会社は15年間の発展を経て、すでに全世界の数万人の科学研究者にサービスを提供しており、製品と技術はすでに直接にCNS (Cell、Nature、Science)の定期刊を含む4,800余りの学術論文に応用されています。弊社の「ノックアウトマウスライブラリ」は低価格だけでなく、「遺伝子ID」を検索すれば、ワンクリックで注文まで操作できます。 ノックアウトマウスノックインマウスコンディショナルノックアウトマウスCRISPR Cas9 ノックアウトマウスのカスタマイズサービスを提供する以外、サイヤジェン株式会社は専門的な手術疾患モデルチームがあり、多種の複雑な小動物手術疾患モデルを提供できます。国際レベルで無菌マウス技術プラットフォームは無菌マウス、無菌動物カスタマイズサービス、微生物移植サービスなどの無菌動物モデルに基づいた各種製品とサービスを提供でき、サイヤジェン株式会社の成熟で安定なトランスジェニックマウスプラットフォームと結合し、遺伝子とフローラの相互作用機序を研究することもできます。

 

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