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SARS-CoV-2変異株は、どのようにして免疫反応を回避しているのか?

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2023年1月25日

最近、中華人民共和国国家衛生健康委員会(NHC)は、「新型コロナウイルス肺炎」(NCP)という用語を「新型コロナウイルス感染症」に変更すること、および、同感染症を「乙類乙管」に引き下げることの2点を発表しました。全国で規制が緩和された結果、中国は「共存期」に入り、コロナウイルス感染者が急増しています。なぜ新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の対策は難しいのか?それは、自然感染とワクチン接種により、一部の抗体の中和作用を回避できるウイルス変種を複数生み出したことに起因しています。

L452R変異を持つデルタ株が出現し、アルファ株、ベータ株、ガンマ株、カッパ株に代わって、世界中で急速に広まっています。初期に流行したオミクロン株BA.1は抗体に反応したが、L452Rを含む亜種がすぐに出現し、世界の多くの国や地域に広まりました。

広州生物医薬保健研究所の研究チームはこのほど、SARS-CoV-2感染に対する群衆の免疫反応を検証しました。また、SARS-CoV-2亜種がどのように出現し、宿主の免疫反応を回避するかについても検討しました。この研究成果は、2022年9月下旬に学術誌『Nature Microbiology』に掲載されました。

 

 

研究材料と方法

本研究では、回復期のコロナ患者6名から全血を採取し、Expi293F細胞とヒトACE2トランスジェニックマウス(Cyagen提供)を用いた試験が行われました。ファージディスプレイライブラリーを構築し、スパイクタンパク質RBDに結合する抗体を単離しました。抗原と抗体の結合をクライオ電子顕微鏡で解析し、結合速度、親和性、競合結合をバイオレイヤー干渉法(BLI)で評価しました。

 

技術ルート

01 ファージディスプレイライブラリーの構築とスパイクタンパク質RBDに結合する抗体の単離

02 クライオ電子顕微鏡によるR1-32とスパイクタンパク質との複合体の構造解析

03 スパイクタンパク質変異体への抗体の結合によるRBD置換の免疫回避への影響の解析

04 SARS-CoV-2感染に対する群衆の免疫応答の検証

 

研究結果

1. 抗体R1-32はSARS-CoV-2変異株を中和します

研究者らは、コロナ回復期の患者6人の末梢血単核細胞から抗体遺伝子のファージディスプレイを構築し、スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)に強い親和性を持つ6種類の抗体を単離しました。その結果、R1-32抗体が偽ウイルスに対して最も高い中和活性(IC90 = 9.95 nM)を示すことが判明しました。R1-32はベータ株とオミクロンBA.1偽ウイルスに対して良好な中和活性を示したが、デルタ株に対して著しく低下しました。ヒトACE2トランスジェニックマウス(Cyagen提供)を用いた実験では、R1-32がSARS-CoV-2野生型ウイルス感染に対して保護作用があることが示されました。

クライオ電子顕微鏡による解析の結果、R1-32 Fabはスパイクタンパク質のN末端ドメイン(NTD)の上方からRBDに接近し、結合することが確認されました。Fabの量を変化させることで、R1-32の結合がRBDの開口を促進することを見出しました。その後の解析で、R1-32のHCDR2およびHCDR3がRBDとの相互作用を媒介することが明らかになりました(図1)。HCDR2エピトープには疎水性残基L452、F490、L492があり、複数の新しいコロナウイルス変異株のHCDR2エピトープのアミノ酸置換により、R1-32のRBDへの結合親和性が著しく低下したことから、HCDR2エピトープにおけるL452、F490が抗体結合に極めて重要であることが示されました。

 

図1 R1-32とSARS-CoV-2スパイクタンパク質が形成する複合体の構造

 

RBDがダウンコンフォメーション(ダウン型構造)にあるとき、R1-32エピトープは部分的にマスクされ、HCDR2エピトープのみが完全に露出します。R1-32結合がRBDをアップコンフォメーション(アップ型構造)に移行させる理由は、このセミマスクされたエピトープによって説明されます。さらに、R1-32とインキュベートした天然のスパイクタンパク質が小さな構造に分解したことから、R1-32の結合により、不安定なオープン型スパイクタンパク質が生成されたことが示唆されました。研究者らは、R1-32がスパイクタンパク質の構造を変化させ、ウイルスの細胞侵入を阻害し、ウイルスを無力化する可能性が高いと結論づけました。

さらに、VH1-69遺伝子が、R1-32と関連抗体FC08、52の重鎖可変領域(VH)として機能していることを発見しました。これらは非常によく似た方法でRBDに結合し、RBDを標的とするユニークなクラスの抗体となります。

 

2. L452のRBD置換は免疫回避と関連しています

インドでは、カッパ株などのいくつかの変異株に代わって、デルタ株(L452R/T478K)が流行株として出現しました。研究者らは、デルタ株のT478Kは抗体結合に影響を及ぼさないが、L452RはR1-32とFC08のRBDへの結合を大きく低下させることを見出しました。CDR2エピトープL452を置換することで、R1-32抗体を回避できるのではないかと推測されました。

この発見は、最も初期のオミクロン株BA.1がL452とL490の置換を欠いていた事実と一致します。R1-32がオミクロン株BA.1のRBD/スパイクタンパク質3量体に高い親和性で結合し、オミクロンBA.1偽ウイルスを中和することが見出されました。

研究者らは、R1-32抗体が人口に膾炙しているのではないかと考え、COVID-19患者20人と健常者25人の免疫グロブリン重鎖(IgH)ライブラリーを検索しました。彼らは、COVID-19患者の50%、健常ドナーの24%にR1-32IgH配列を検出しました。IGHV1-69コーディングライブラリにおけるR1-32IgH配列の割合は、COVID-19患者の方が健常者よりも有意に高く、SARS-CoV-2に曝露した後にこの抗体プロファイルが有意にクローン増幅することが示されました(図2参照)。

 

図2 健常者とCOVID-19患者におけるR1-32抗体の高発現率

 

より多くのR1-32抗体を解析することで、L452とL490の置換がRBDへの結合を頻繁に損ねることを見出しました。R1-32とFC08はファージディスプレイによって発見されたにもかかわらず、その重鎖と軽鎖の構成は、自然に対になっているR1-32抗体と非常に類似しています。彼らは、これはSARS-CoV-2のスパイク抗原が、幅広い集団で共通の抗体反応を誘導する証拠であると結論づけています。

また、オミクロンBA.1株はR1-32抗体で中和されるが、その後に出現した亜種はL452置換により大規模な免疫回避を示すことも明らかになりました。これらの亜種出現と拡散が急速に進んだことから、R1-32抗体がSARS-CoV-2ウイルスに対して強い免疫プレッシャーを発揮したことが示唆されました。

 

研究結論

今回の研究では、HCDR2エピトープのL452とL490の繰り返し置換が、集団抗体反応からの免疫回避に関連していることが判明されました。これらの置換(デルタ株のL452Rを含む)は疎水性HCDR2が介在する相互作用を破壊し、それによって抗体-抗原結合が阻害され、新しいコロナ(SARS-CoV-2)変異株が免疫反応を回避できるようにします。彼らは、これらの突然変異のホットスポットを継続的にモニターする必要があると結論づけました。

 

推奨SARS-CoV-2マウスモデル

サイヤジェンは、独自のTurboKnockout技術と最適化されたCRISPR-Pro技術により、BALB/c、C57BL/6J、C57BL/6Nの3種類のバックグラウンド系統のACE2マウス作製を提供しています。、基礎研究・創薬における動物モデルとしてお客様のご要望に応じた様々な遺伝子ターゲティングスキームをデザインしています。

 

製品番号

製品名

タイプ

C001191

hACE2-All CDS-B6J

ヒト化/SARS-CoV-2マウスモデル

C001227

hACE2-All CDS-BALBC

ヒト化/SARS-CoV-2マウスモデル

C001244

K18-hACE2-2A-CreERT2

ヒト化/SARS-CoV-2マウスモデル

C001226

hACE2-EGFP

ヒト化/SARS-CoV-2マウスモデル/蛍光標識モデル

C001246

ROSA26-LSL-hACE2

ヒト化/SARS-CoV-2マウスモデル

C001281

loxP-hACE2-CDStm

ヒト化/SARS-CoV-2マウスモデル

C001228

Ace2 KO

SARS-CoV-2マウスモデル

>> 詳しくは: ACE2 Mouse Models For Coronavirus (COVID-19) Researchをご覧ください

 

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参考文献:

[1] He, P., Liu, B., Gao, X. et al. SARS-CoV-2 Delta and Omicron variants evade population antibody response by mutations in a single spike epitope. Nat Microbiol 7, 1635–1649 (2022). https://doi.org/10.1038/s41564-022-01235-4

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