ヒト遺伝子をマウス遺伝子に直接配置、またはヒト細胞を免疫不全マウスに移植することでヒト由来マウスモデルは作られる。これらは、ヒトの遺伝子機能、腫瘍免疫薬開発、感染性疾患薬の前臨床評価など、生物医薬分野の研究において広く利用されている。
現在、マウスモデル構築には、主にどのような技術が使われ、それぞれどのようなメリットとデメリットがあるのか、また、どのような最適化策と新しい技術が生まれているのか、サイヤジェン株式会社(以下、サイヤジェン)技術部長のDr. Steve Yu 氏にお話を伺った。
技術部長 Dr. Steve Yu 氏
ヒト化マウスモデル(ヒトゲノム、細胞および組織を遺伝子修飾または免疫不全マウスに移植する方法で構築されたマウスモデル)は、ヒトの病気を研究する為に非常に重要な前臨床動物実験モデルである。
人間の細胞や組織を直接に利用する研究は論理的・倫理的に制約がある。動物モデルが人間生物学研究の代替的な選択肢となる中で、マウスは体積が小さく、繁殖周期が短く飼育が容易で、ヒトとゲノムや生理学的な点で似た特徴を持っており、更に、確立された遺伝子編集方法が既にあり、動物実験モデルとして広く普及している。
マウスを利用した多くの研究は基礎生物学的分野で成果を上げているが、実は人間の生物学的な側面を明らかにするには限界がある。特に免疫系統は、マウスとヒトでは生まれつき持つ免疫分子に多くの違いがあり、刺激に対し異なる反応を示すことがある。このことよりも、通常のマウスモデルが人間の生物学的システムなどを本格的に明らかにするツールになることが制限されている事が分かる。
この問題を解決する方法の一つとして、ヒト化マウスモデルは今後ますます重要な役割を果たすことになるだろう。ヒトの特異的感染病原体の研究、がん生物学および免疫治療の前臨床モデルの構築など、ヒト化マウスをトランスレーショナル医療のモデルとし、再生医学、移植、免疫学などの生物学的研究でのニーズが高まっている。
「ヒトの細胞や組織を免疫欠陥マウスの体内に移植しヒト化マウスモデルを作成する事で、マウスのヒト化が簡単に、高効率で低コストになる。このようなヒト化マウスモデルの構築には、一般的に3種類の方法がある。」と Dr. Steve 氏は言う。
ヒト末梢血白血球を免疫不全マウスに注入して作られる。この方法を利用すれば、ヒトの CD3 + T細胞を早期(第一週)に得られ、マウス体内でヒトのT細胞機能を研究できる優れたモデルである。致死性の移植片対宿主病(GVHD)が形成される為、実験観察期間が短い(通常4〜8週間)のが短所だが、これはNSG マウスの MHC-I や II をノックアウトすることで幾分延長できる。
ヒトの骨髓、臍帯血、胎仔肝臓細胞、G-CSF によって活性化されたヒト末梢血のCD34 + HSC細胞などをマウスの静脈や大腿骨に注入することで作られる。このモデルはヒトの免疫システム全体を移植することができる。このマウスは、ヒト末梢血造血母細胞の中にB細胞、T細胞、骨髄系細胞、抗原提示細胞(APCs)を持つが、血液の中で観察される骨髄由来の粒細胞、血小板と赤血球の量が非常に少ない。また、マウスの胸腺には通常、ヒトT細胞の成熟に必要な特異因子が不足する。
腎嚢胞と静脈血管へヒトの胚幹と胸腺を移植するモデルである。より強く反応する粘膜免疫システムと自家移植のHLA制限のあるヒトT細胞を形成することができる。しかし、やはりマウスに移植片対宿主病(GVHD)が現れ、実験期間が制限される。
それぞれのモデルには利点と欠点があり、研究者は自身の研究目的に基づいて解決すべき生物学的問題を選択し、適切なモデルを選ぶ必要がある。
上記で紹介したヒト由来マウスモデルは、免疫不全マウスをベースにヒトの細胞や組織を移植することによって作られたものである。
サイヤジェンは、遺伝子編集技術を通じマウスの遺伝子を直接に置き換え、ヒト化する方法も確立している。既にヒトの遺伝子機能の研究、腫瘍免疫薬の研究開発、感染症薬物の研究開発の場において多くの導入実績がある。
現在、遺伝子の組換えヒト化マウスモデルを構築する為に、主に下記4種類の方法を使い分けている。
マイクロインジェクションによるトランスジェニック法は簡便、迅速で低コストだが、DNA がランダムに挿入されてしまう特性から、内部遺伝子への干渉や、挿入位置効果による遺伝子抑制のリスクがあり、研究に不確実性をもたらす可能性がある。
CRISPR/Cas9 技術は、デザインと操作が比較的簡単で、一般的に遺伝子修飾効率が高く、また適応できる動物の種類に制限がないため、ヒト化動物モデルの構築に大いに貢献した。しかしながら、オフターゲット効果のリスクや、また、複雑な遺伝子編集用途には対応できない場合がある。
ES 細胞を利用した遺伝子ターゲティング技術は、その成熟性と安定性により、マウスの遺伝子を修飾するための基準であり続けてきた。しかし、操作のステップが多く複雑であるため、長い準備期間が必要になる。
ES 細胞遺伝子ターゲティング法を発展させたこの技術は、修飾が正確で、成果が安定しているという利点を持つだけでなく、従来の手法に比べ2世代分の子育て期間を省略でき、作製期間をわずか6ヶ月に短縮。CRISPR/Cas9 技術の速さと、ES 細胞遺伝子ターゲティング技術の正確さ両方を持ち合わせた手法である。
サイヤジェンは上記様々な遺伝子修飾技術を活用する事で、用途目的に沿ったマウスモデルを用意しており、研究者へより多くの選択肢を提供している。しかし、多くの場合(核酸酵素技術(TALEN/Cas9)がより発展し主流になる可能性も勿論あるが)、TurboKnockout® 技術が研究者にとって最良の選択肢になるだろう。
免疫欠陥マウスベースのヒト化マウスモデルはまだまだ発展できるポテンシャルを秘めており、サイヤジェンは特に以下の5点において現在研究を進めている。
「マウスモデルは感染性疾患、がん、再生医学、移植と宿主、アレルギーと免疫などの研究発展に大いに寄与してきた。ヒト化マウスモデルを利用することで、究極的には「個人化」された臨床医療を実現することができる。」と Dr. Steve 氏は語る。
サイヤジェン株式会社技術部長のDr. Steve Yu氏は「日本の研究」の協力を深く感謝します。
記事の源:日本の研究.com
Dr. Steve Yu 氏 は、有名なモデル動物と細胞生物学の専門家で、イェール大学医学部、iTL遺伝子標的会社、ニューヨーク大学医学部、米国ASCバイオ技術会社などを経て、遺伝修飾モデル動物分野で20年以上研究開発経験を持っている。Dr. Steve Yu 氏は現在、サイヤジェン株式会社の科学か兼技術部長を務め、その研究成果は Nature Immunology、Molecular and Cellular Biology などの専門性の高い雑誌に何度も発表されている。
Cyagenは遺伝子改変動物モデルサービスを提供するアメリカの企業で、SPF動物の健康標準、AAALAC認定とOLAWの保証付き動物施設があり、100%の成功保証で、年間数千以上の齧歯類モデルが作製できます。当社ではノックアウト、ノックイン、コンディショナルノックアウト、大フラグメントなど全ての遺伝子編集が対応でき、業界最安価格と成功報酬(100%の成功保証)で知られております。
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サイヤジェン株式会社について
サイヤジェン株式会社は15年間の発展を経て、全世界の数万人の科学研究者にサービスを提供しており、製品と技術は直接にCNS (Cell、Nature、Science)の定期刊を含む5,200余りの学術論文に応用されています。弊社の「ノックアウトマウスライブラリ」は低価格だけでなく、遺伝子名称を入力すれば、ワンクリックで注文まで操作できます。 ノックアウトマウス、ノックインマウス、コンディショナルノックアウトマウス、トランスジェニックマウス、GFPマウス、免疫不全マウス、無菌マウスなどのカスタマイズサービスを提供する以外、専門的な手術疾患モデルチームがあり、多種の複雑な小動物手術疾患モデルも提供できます。