• お問合せフォーム

    通常1〜2営業日以内でご回答いたします。

レーバー先天性黒内障(LCA)|色褪せていく世界

シェア Facebook Twitter Line
2022年7月13日

「目は心の窓」と言われています。もし、その窓が閉ざされ、世界が見えなくなってしまったら、あなたはどう感じるでしょうか?暗闇の世界で生きる自分を想像できますか?そんな失明の恐怖に苦しんでいる人たちがいます。レーバー先天性黒内障(LCA)の患者たちです。

2021年6月、中国で初めてLCAに対する遺伝子治療の臨床試験が上海で正式に開始されました。数ヵ月後、試験に登録された6人の患者は無事に手術を終え、程度の差こそあれ、全員の視覚機能が改善され、RPE65遺伝子治療製剤の安全性が確認されました。このニュースは、「忘れ去られた盲人」という特別な方たち、新たな希望を与えたに違いありません。

 

一、 レーバー先天性黒内障について

レーバー先天性黒内障 (leber congenital amaurosis、以下、LCA:OMIM 204000) は、失明の恐れのある視覚機能障害を早期に発症する、まれな遺伝性網膜ジストロフィー(Inherited retinal dystrophies、IRD)です。LCAは網膜疾患全体の5%以上を占め、また、10~20%の小児が失明する疾患でもあり、現在の世界的な有病率は、1:30000∼1:81000と言われています。主な臨床症状は、生後1年以内に重度の視覚障害、眼球振盪、眼底色素沈着、重度の網膜電位図の異常が生じます。近視または遠視、アイポーキング症候群、固視障害、神経症状を伴うことがあります。

 

二、LCAの臨床的特徴について

LCAは臨床的異質性が高く、臨床表現型としては網膜機能障害(色覚異常、夜盲症)、中枢・周辺視野の喪失、視神経杆体・錐体細胞の障害による完全失明などが挙げられます。本疾患の患者は、出生時に眼球振盪の症状が現れ、視神経の萎縮、黄斑の欠損や萎縮、骨細胞の色素移動、眼底が白くなるなどの症状が見られます。また、羞明、夜盲症、アイポーキング症候群、知的障害などの症状が現れることもあります。

現在認められている臨床診断基準は、1.出生時または出生後数ヶ月の視力低下または視力喪失、2.瞳孔反応の鈍化、3.眼球振盪、4.アイポーキング症候群、5.視網膜の生理信号の消失、6.眼底異常となっています。

01 アイポーキング症候群

指の関節や指で眼球を突いたり押したりする行為を繰り返す「アイポーキング症候群」は、眼球が凹んでいる子どもに多くみられます。眼球が押されることで深く沈むため、LCAの方の中にはそういった特徴を持つ方もいます。

02 視覚機能

LCA患者の多くは、視覚機能が比較的安定しています。一部では視覚機能を失う方がおり、改善する方もごくわずかです。また、 この疾患の患者は、強度遠視や近視を患っていることも多いです。LCA患者の視覚機能と視力は、光覚なし、から20/200までとかなりの差があります。対して、CRB1、LRAT、RPE65遺伝子に変異を持つ患者の視力は、光覚なし、から20/50までです。

03 眼底異常

本疾患では、典型的な網膜色素変性症、網膜白斑、黄斑部欠損、視神経乳頭病変、色素沈着など、さまざまな眼底異常が認められます。網膜色素変性症や白点状網膜炎は最も一般的な眼底異常であり、通常、年長児に見られます。黄斑部欠損はLCAにおける網膜の顕著な特徴とされていますが、この欠損は発育異常ではなく、中心窩網膜組織の完全喪失によるものです。

04 円錐角膜と白内障

円錐角膜は、角膜が薄くなり、円錐形状への変化、曲率半径の変化などを特徴とする角膜の変性・非炎症性疾患です。円錐角膜の多くはLCAを併発し、患者の視覚機能をさらに低下させ、時には白内障を併発することもあります。

05 その他の身体的異常

LCA CEP290とIQCBの原因遺伝子は繊毛タンパク質をコードしているため、この2つの変異はLCAのみならず、Joubert症候群、SenioreLoken症候群、Bardete-Biedl症候群、MeckeleGruber症候群などの繊毛障害の原因となります。これらの症候群は中枢神経系や腎臓、肝臓、骨、心臓などの他の臓器に影響を及ぼすことがあります。

 

三、LCAの原因遺伝子

LCAは遺伝性で、主に常染色体劣性遺伝です。これまでに、300以上の遺伝子が遺伝性網膜疾患に関連していることが判明しており、そのうち28個が異なるLCAの原因となっています。これらの遺伝子は網膜や色素上皮において重要な役割を担っており、主にグアニン合成(IMPDH1)、網膜分化(OTX2)、視細胞形態形成(CRB1、CRX、GDF6)などが含まれます。毛様体輸送過程(CEP290、CLUAP1、IFT140、IQCB1、LCA5、RPGRIP1、SPATA7、TULP1)、光伝達(AIPL1、GUCY2D、RD3)、レチノイドサイクル(LRAT、RDH12、RPE65)およびシグナル伝達(CABP4、KCNJ13)などがあります。LCA患者の大半は、上記の遺伝子に変異があるとされていますが、未だ確認されていない新たな変異もあります。

 

名称

病因遺伝子

タンパク質

タンパク質機能

LCA1

GUCY2D

グアニル酸シクラーゼ2D

光シグナル伝達

LCA2

RPE65

レチノイン酸イソメラーゼ

レチノイドサイクル

LCA3

SPATA7

精子形成関連タンパク質7

光受容体繊毛の輸送

LCA4

AIPLI

アリール-炭化水素相互作用タンパク1-様

光伝達/タンパク質の生合成

LCA5

LCA5

レベシリン

光受容体繊毛の輸送

LCA6

RPGRIPI

網膜色素変性症GTPase調節因子タンパク質1

光受容体繊毛の輸送

LCA7

CRX

錐体rod体ホメオボックス

光受容体の形態形成

LCA8

CRBI

Crumbsホモログ1

光受容体の形態形成

LCA9

NANAT

ニコチンアミドヌクレオチド・アデノシルトランスフェラーゼ1

補酵素NADの生合成

LCA10

CEP290

中心体タンパク質290

光受容体繊毛の輸送

LCA11

IMPDHI

イノシン5-一リン酸デヒドロゲナーゼ1

グアニン合成

LCA12

RD3

タンパク質RD3

タンパク質の輸送

LCA13

RDH12

レチノールデヒドロゲナーゼ12

レチノイドサイクル

LCA14

LRAT

レシチンレチノールアシルトランスフェラーゼ

レチノイドサイクル

LCA15

TUP1

管状タンパク質

光受容体繊毛の輸送

LCA16

KCNJ13

Kir 7内向き整流性カリウムチャネル

光シグナル伝達

LCA17

GDF6

成長分化因子6

光受容体の形態形成

 

LCAは、主に網膜機能に影響を与える重要な遺伝子の変異により、機能低下が引き起こされます。。LCAは、変異のある染色体番号と特定の影響を受ける遺伝子の位置により、17ものタイプに分類されます。最も一般的なものは、LCA2とLCA10で、それぞれ第1染色体上のRPE65遺伝子と第12染色体上のCEP290の変異によって引き起こされるものです。眼科疾患のさらなる研究が進むにつれ、関連するモデル動物の開発により、眼科疾患研究に大きなブレークスルーがもたらされました。現在、LCA2、LCA10、網膜色素変性症(RP)、網膜変性症、黄斑変性症、角膜内皮ジストロフィーなどの眼科疾患に対して、Cyagen(サイヤジェン)はノックアウト、ノックイン、点変異、ヒト化マウスモデル、外科用マウス・ラットモデルなどの遺伝子編集マウスモデルを提供または共同開発し、薬理作用の検証実験をますます加速させています。

 

四、LCAに対する遺伝子治療研究の進展

LCAに対する遺伝子治療薬は主に2種類あり、それぞれLCA2用とLCA10用があります。

LCA2の遺伝子治療製品は、Spark Therapeutic社によって開発され、2017年に米国で発売された「Luxturna」です。片眼で43万米ドルの費用がかかるこの薬剤は、網膜疾患の治療にAAVデリバリーを用いた世界初の遺伝子治療薬です。この方法では、機能性RPE65タンパク質を網膜色素上皮に送り込むことで患者の網膜機能を回復させるものであるため、定期的に注射する必要があります。

LCA10に対する遺伝子治療薬は、Editas Medicine社によって開発された「EDIT-101」があり、現在も臨床試験中です。この薬剤は、AAVを介したCRISPR/Cas9を導入し、sgRNAにより変異領域の上流と下流を標的として、変異領域の欠失または逆位を引き起こすことで、LCA10を治療します。この治療法では、1回の投与で完治することが可能です。

LCAは、その分類の多さ、研究データの少なさ、患者募集の難しさなどから、有効な治療法がありませんでした。上記2つの遺伝子治療は、「LCA完治」という希望を患者にもたらしましたが、2種類のLCAしか対象でないため、ほとんどの患者に使用できる薬剤がないという課題を解決するには至っていません。

このような遺伝性網膜疾患の克服には、臨床研究に関する豊富な情報を得ることがカギとなります。清華大学珠江デルタ研究所とCyagen社が共同開発した希少疾患データセンターであるRDDC(rddc.tsinghua-gd.org)は、各方面と協力し、データの障壁を取っ払い、臨床診断と治療をより正確かつ効率的に行うことを目指しています。

 

図1 LCA10の疾患関連情報

出典: 希少疾病データセンター(RDDC)

 

RDDCでレーバー先天性黒内障タイプ10(LCA10)と検索すると、疾患表現型、疾患関連情報、標的薬、臨床試験などが表示されます。

 

図2 CEP290の関連情報

出典: 希少疾病データセンター(RDDC)

 

RDDCでレーバー先天性黒内障タイプ10の原因遺伝子であるCEP290を検索すると、遺伝子配列相同性、ゲノム情報、CEP290の臨床変異、転写物、関連疾患、表現型、遺伝子発現レベルに関する情報が得られました。

 

遺伝性眼科疾患に対するソリューション

Cyagenは、遺伝性眼科疾患が長く直面してきた様々な苦境を打開すべく、積極的に遺伝性眼科治療のプラットフォームを構築しています。小動物用の最新鋭の眼科機器や、経験豊富な専門チームが備わっています。遺伝性眼科疾患のための標準化された前臨床ソリューションを提供できるよう日々改善、邁進しています。また、関係者の努力により、より多くの遺伝子治療が早期に臨床試験をスタートし、一日も早く、先天性視覚障害者に再び光が訪れることを、心より願っています。ご相談や資料のご請求などは、400-680-8038 または [email protected] までお問い合わせください。

お問合せフォーム
通常1〜2営業日以内でご回答いたします。
マウスモデルカタログ