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神経科学

中枢神経系(CNS)ドラッグ開発の新展開:ヒト化マウスモデルによる血脳関門(BBB)の課題克服

Cyagen Technical Content Team | May 14, 2026
B6-hTFRC(CDS) マウスモデル
ヒト由来の血脳関門(BBB)標的タンパク質を発現するヒト化マウスモデル ヒト特異的治療薬の正確なin vivo評価を実現
B6-hTFRC(CDS) マウスモデル
目次
01. 戦略的焦点:グローバル・バイオファーマが次世代BBB通過技術に重点投資 02. BBB:脳の「守護者」であり、薬物送達の「障壁」 03. 解決策:受容体介在性トランスサイトーシス(RMT) 04. 種差という課題とサイヤジェン(Cyagen)のソリューション 05. RMTの実践応用:CNS疾患および神経筋疾患における革新 06. サイヤジェン(Cyagen)の「モデル・ツールキット」 07. モデルを超えて:包括的な神経科学CROサービス 08. 参考文献

戦略的焦点:グローバル・バイオファーマが次世代BBB通過技術に重点投資

中枢神経系(CNS)疾患に対する有効な治療法の開発競争は、かつてないほど激化しています。過去1年間には、大型取引、共同研究、画期的な研究成果が相次ぎ、医療分野における最大級の課題の一つ、すなわち血液脳関門(BBB)を越えて治療薬をいかに効率よく送達するかに、市場の関心が明確に集まっていることが示されています。

主要企業の戦略的動向は、この重要なペインポイントを浮き彫りにしています。例えば、AbbVieは、TfR1およびCD98hcに基づく送達プラットフォームを有し、アルツハイマー病などの脳疾患に注力するAliada Therapeuticsを14億米ドルで買収しました[1]。GSKはABL Bioと提携し、IGF1Rを標的とするBBB通過プラットフォームGrabody-Bを用いて、アルツハイマー病およびパーキンソン病に対する治療薬の開発を進めています[2]。AstraZeneca傘下のAlexionは、JCRファーマのJUST-AAVプラットフォームについて非独占的ライセンスを取得しました。同プラットフォームは高効率なBBB送達能を有することで知られており、投資規模は8億2,500万米ドルに達します[3]。これらの動向をはじめとする業界全体の進展は、高分子医薬をCNS標的へ到達させるためのBBB通過プラットフォームに、業界が大きな期待を寄せていることを示しています。

日付 企業 送達プラットフォーム 標的 治療モダリティ 主な情報(提携・研究)
2024/10/28 AbbVie MODEL® TFR1&CD98HC 抗体 AbbVieは、アルツハイマー病などの脳疾患に注力するAliada Therapeuticsを14億米ドルで買収しました。同社のプラットフォームには、BBB透過性抗Aβ抗体Alida-1758も含まれます。
2025/1/7 Sanofi AntiClastic / ASO Sanofiは、CNS創薬プロジェクトにおいてAlloy Therapeuticsと提携しました。SanofiはAntiClasticプラットフォームの非独占的権利を取得し、投資規模は4億米ドルに上ります。同プラットフォームは、神経疾患および神経変性疾患の治療薬開発に用いられます。
2025/4/7 GSK Grabody-B IGF1R 抗体、ASO、siRNA GSKはABL Bioと共同研究を開始し、IGF1Rを標的とするBBB通過プラットフォームGrabody-Bを活用して、アルツハイマー病およびパーキンソン病の治療薬開発を進めます。
2025/7/8 AstraZeneca JUST-AAV TFR1 AAV AstraZeneca傘下のAlexionは、JCRファーマのJUST-AAVプラットフォームについて、8億2,500万米ドル規模で非独占的開発権を取得しました。同プラットフォームは、高効率なBBB送達能を有し、遺伝子治療の推進に寄与します。
2025/7/9 Novartis BDM / 抗体、遺伝子治療 Novartisは、神経疾患、神経変性疾患、希少疾患に注力するVesalius Therapeuticsを1億2,000万米ドルで買収しました。同社のBDMプラットフォームは高効率なBBB送達能を有します。
2025/7/16 Acumen J-Brain Cargo® TFR1 抗体 JCRファーマとAcumenは、JCRのJ-Brain Cargo®プラットフォームを用いた新規神経変性疾患治療薬の共同開発を通じて、CNS創薬・開発における協業を拡大しました。
2025/7/22 Denali Therapeutics Dual ATV TFR1&CD98HC 抗体、ASO、siRNA Denali Therapeuticsは、CNS疾患および神経筋疾患治療の推進を目的として、最大22億5,000万米ドル規模となるDual ATVプラットフォームに関する提携を発表しました。
2025/7/28 Roche BrainshuttleTM TFR1 抗体 Rocheは、BBB透過性Aβ抗体Trontinemab(Brainshuttle™)に関する有望な臨床データを発表しました。最高用量群では、28週時点で91%の患者がAβ-PET陰性化を達成し、ARIA-E発現率は<5%であり、同プラットフォームの可能性が実証されました。
2025/8/5 Dyne Therapeutics FORCE™ AOC TFR1 ASO Dyne TherapeuticsのDYNE-251は、DMDを対象としてFDAのFast Track指定を受けました。同社のプラットフォームはTfR1標的Fabを用い、筋組織への精密な分布を実現します。
2025/8/6 Novartis AOC TFR1 ASO、siRNA 報道によると、NovartisはAvidity Biosciencesの買収を検討しているとされています。同社は、TfR1標的抗体プラットフォーム(AOC)を活用し、RNA治療薬を筋組織および神経組織へ送達しています。
2025/8/7 Biogen ATV:cisLALA TFR1 抗体、ASO、siRNA *Science*誌掲載論文において、ATV:cisLALAプラットフォームはARIA副作用を効果的に低減しつつ、CNS薬物送達の安全性および安定性を高めることが示されました。
2025/8/11 University of South Carolina T-CeNP RAGE 抗体 University of South Carolinaの研究チームは、T-CEnP BBB通過プラットフォームを構築しました。同プラットフォームは、酸化ストレスおよび炎症を抑制することにより、アルツハイマー病治療に向けた抗酸化因子および神経保護因子の送達改善に寄与します。
2025/8/13 Galibra&Emugen TFR1 CapX TFR1 AAV Apertura Gene Therapyは、TfR1 CapXプラットフォームをGalibraおよびEmugenなどのパートナーへライセンス供与しました。脳内における遺伝子治療送達効率を高め、複雑な神経疾患の克服を目指します。

BBB:脳の「守護者」であり、薬物送達の「障壁」

BBBは、密に結合した脳血管内皮細胞、アストロサイト、ペリサイト、および基底膜から構成される高度に選択的な「要塞」であり、病原体や毒素から脳を保護する防御システムとして機能します[7]。

血液脳関門(BBB)の基本構成要素(Terstappen GC et al., 2021より改変)[7]
図2.血液脳関門(BBB)の基本構成要素(Terstappen GC et al., 2021より改変) [7]

解決策:受容体介在性トランスサイトーシス(RMT)

このボトルネックを克服するため、研究者らはさまざまなBBB通過戦略を開発してきました。その中でも、非侵襲的な受容体介在性トランスサイトーシス(RMT)機構は、最も有望なアプローチの一つです[10]。理想的なRMT標的は、脳血管内皮細胞で高発現し、末梢組織での発現が低いことで、副作用を最小限に抑えることができます。単一の完全な標的は存在しないものの、TfR1およびCD98hcは主要な開発標的となっています。Roche、Aliada、Denaliなどの企業のプラットフォームでは、治療分子をTfR1またはCD98hcを標的とする抗体に結合させ、これら受容体の輸送機構を利用して血液中からCNSへ薬物を「シャトル」することで、脳内曝露量および治療効果の向上を図っています。

RMT機構によるBBB通過の候補標的 [10]
図3.RMT機構によるBBB通過の候補標的[10]

種差という課題とサイヤジェン(Cyagen)のソリューション

これらのプラットフォームにおける大きな課題の一つは、種差により、多くのヒト特異的治療薬がマウスBBBに結合できない、または通過できない点です。例えば、ヒトTfR1を標的とする多くのプラットフォームは、げっ歯類TfR1に結合できず、マウスBBBを通過できません[11-12]。この課題に対応するため、サイヤジェン(Cyagen)はBBB研究向けの新規ヒト化マウスモデル群を開発しました。当社のモデルは、TfR1、CD98hc、IGF1R、およびRAGEを含む主要なヒトBBB標的を発現するよう設計されており、ヒト特異的治療薬をin vivoで精密に評価できます。

当社のB6-hTFRC(CDS)マウスは、その代表例です。このモデルは、マウス版ではなくヒトTfR1タンパク質を特異的に発現します。TfR1を分子レベルの「トロイの木馬」として利用する抗体ベースのプラットフォームを評価するための理想的なツールです。さらに、アルツハイマー病、パーキンソン病、ALSなどの疾患特異的ヒト化モデルも提供しています。

製品番号 系統名 標的 種類 ステータス
C001584 B6-hTFRC(CDS) TFRC (TFR1) BBB送達標的 提供可能
C001840 B6-hFcRn/hTFRC TFRC (TFR1) & FcRn 提供可能
C001730 B6-hALB/hTFRC TFRC (TFR1) & ALB 提供可能
C001608 B6-hC3/hTFRC(CDS) TFRC (TFR1) & C3 提供可能
TBD B6-hTFRC(Genomic) TFRC (TFR1) 研究開発中
C001623 B6-hIGF1R IGF1R 提供可能
C001624 BALB/c-hIGF1R IGF1R 提供可能
TBD B6-hCD98HC CD98HC 研究開発中
TBD B6-hRAGE RAGE 研究開発中
B6-hTFRC(CDS)マウスモデル:マウスTfR1タンパク質ではなく、ヒトTfR1タンパク質を特異的に発現
図4.B6-hTFRC(CDS)マウスモデル:マウスTfR1タンパク質ではなく、ヒトTfR1タンパク質を特異的に発現

RMTの実践応用:CNS疾患および神経筋疾患における革新

BBB通過技術の領域は、神経変性疾患に対する活発な「競争の場」となっています。例えば、Rocheの次世代Aβ抗体Trontinemabは、有望な臨床データを示しています[5]。最高用量群では、28週時点で91%のアミロイド除去が確認されました。この結果は、神経変性疾患におけるTfR1標的プラットフォームの大きな可能性を示しています[13]。

Aβモノクローナル抗体医薬品 企業 抗TFR1 アミロイドβ完全除去 効果発現までの期間 ARIA-Eリスク
Trontinemab Roche √ 91%(28週) 約8週 <5%< /td>
Leqembi Eisai/Biogen × 68%(18か月) 約6か月 約13%
Donanemab Eli Lilly × 71%(12か月) 約3か月 約24%

CNSに加え、筋細胞におけるTfR1の高発現は、筋組織への効率的な送達も可能にします。Dyne TherapeuticsやAvidity Biosciencesなどの企業は、TfR1ベースのプラットフォームを活用し、筋ジストロフィーやポンペ病などの希少筋疾患を標的としています。BBB通過技術の可能性は、ほかにも多発性硬化症などのB細胞関連自己免疫疾患を含む多様な領域へ広がっています。

サイヤジェン(Cyagen)の「モデル・ツールキット」

BBB通過技術の革新には、正確な検証と最適化を可能にする堅牢な「モデル・ツールキット」が不可欠です。サイヤジェン(Cyagen)では、この研究領域を支援するため、包括的なヒト化モデル群を先行して構築しています。主なラインアップは以下の通りです。

  • BBB標的ヒト化モデル: TfR1、CD98hc、IGF1R、およびRAGE。
  • 疾患特異的ヒト化モデルおよびKOモデル: AD、PD、ALS、MS、DMD、およびSMAに対応。

当社は、体系的なin vivo薬効評価ソリューションを提供し、種間トランスレーションの障壁を取り除き、革新的な創薬プロセスの加速を支援します。

モデルを超えて:包括的な神経科学CROサービス

サイヤジェン(Cyagen)は、適切なモデルの提供が研究支援の第一歩にすぎないことを理解しています。当社の包括的な神経科学CROプラットフォームは、研究の開始から完了までを支援するよう設計されており、前臨床試験に対するワンストップ・ソリューションを提供します。主なサービスは以下の通りです。

  • CNS疾患モデルの作製および繁殖:遺伝子改変モデルから誘発性疾患モデルまで、お客様の研究目的に合わせてカスタマイズします。
  • In vivo薬理薬効評価:多様なCNS疾患および神経筋疾患モデルを用いて、候補薬の有効性検証を支援します。
  • 行動・認知機能評価:先端的な行動試験設備を活用し、化合物の治療効果を定量的に評価します。
  • 病理組織学的解析およびバイオマーカー解析:組織染色、イメージング、バイオマーカー解析に関する専門性を通じて、より深い知見の取得を支援します。

当社は、先進的なモデルと包括的な研究サービスを組み合わせることで、研究開発における一般的な障壁を取り除き、臨床応用への道のりを加速します。

参考文献

[1] AbbVie. (2024, October 28). AbbVie to acquire Aliada Therapeutics, strengthening focus in Alzheimer’s disease and neuroscience pipeline. Retrieved from https://news.abbvie.com/2024-10-28-AbbVie-to-Acquire-Aliada-Therapeutics,-Strengthening-Focus-in-Alzheimers-Disease-and-Neuroscience-Pipeline

[2] ABL Bio. (2025, April 7). ABL Bio announces Grabody-B brain delivery platform license agreement with GSK to develop novel medicines for neurodegenerative diseases.

[3] Pharmaceutical Technology. (2025, July 9). JCR Pharmaceuticals and Alexion partner on JUST-AAV gene therapy platform. Retrieved from https://www.pharmaceutical-technology.com/news/jcr-pharmaceutical-alexion-just-aav-gene-therapy-platform/

[4] Reuters. (2025, August 6). Novartis weighs deal with biotech Avidity Biosciences – FT reports. Retrieved from https://www.reuters.com/business/healthcare-pharmaceuticals/novartis-weighs-deal-biotech-avidity-biosciences-ft-reports-2025-08-06/

[5] Genentech. (2025, July 27). Interim biomarker results for trontinemab, a novel Brainshuttle™ antibody in development for the treatment of Alzheimer’s disease.

[6] Apertura Gene Therapy. (2025, August 13). Apertura licenses blood-brain barrier-penetrant AAV capsid to multiple partners advancing CNS treatments.

[7] Terstappen GC, Meyer AH, Bell RD, Zhang W. Strategies for delivering therapeutics across the blood-brain barrier. Nat Rev Drug Discov. 2021 May;20(5):362-383.

[8] Wu D, Chen Q, Chen X, Han F, Chen Z, Wang Y. The blood-brain barrier: structure, regulation, and drug delivery. Signal Transduct Target Ther. 2023 May 25;8(1):217.

[9] Jankovic J, Goodman I, Safirstein B, Marmon TK, Schenk DB, et al. (2018). Safety and Tolerability of Multiple Ascending Doses of PRX002/RG7935, an Anti-α-Synuclein Monoclonal Antibody, in Patients With Parkinson Disease: A Randomized Clinical Trial. JAMA Neurol. 2018 Oct 1;75(10):1206-1214.

[10] Haqqani AS, Bélanger K and Stanimirovic DB (2024) Receptor-mediated transcytosis for brain delivery of therapeutics: receptor classes and criteria. Front. Drug Deliv. 4:1360302.

[11] Metin Yesiltepe, et al. (2025). Humanized TfR1 and transferrin gene-replacement rats for in vivo evaluation of BBB transport. bioRxiv. doi: 10.1101/2025.07.25.666792.

[12] David M, Cohen R, Beuzelin D, et al. (2025). Identification and optimization of trans-species reactive TfR1-binding VHH as tools for drug delivery across the blood-brain barrier. bioRxiv. https://doi.org/10.1101/2025.05.23.649291v1

[13] Alzheimer’s Weekly. (2025). Trontinemab: A new hope for Alzheimer’s. Alzheimer’s Weekly.

[12] David M, Cohen R, Beuzelin D, et al. (2025). Identification and optimization of trans-species reactive TfR1-binding VHH as tools for drug delivery across the blood-brain barrier. bioRxiv. https://doi.org/10.1101/2025.05.23.649291v1

[15] Denali Therapeutics. (2025). Crossing Barriers and Defeating Degeneration: Corporate Overview – March 2025. Investor Relations, Denali Therapeutics.

[16] Dyne Therapeutics. (2025). Our FORCE™ Platform. Dyne Therapeutics.

[17] Avidity Biosciences. (2025). Pipeline Overview. Avidity Biosciences.

[18] Genentech. (2025). RG6035 BrainShuttle™ CD20. Genentech Pipeline for Medical Professionals.

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