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代謝・肥満研究

保護的遺伝変異からGalNAc-siRNAへ:MTARC1がMASH創薬の新たな焦点となる理由

Cyagen Technical Content Team | July 31, 2026
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目次
01 MTARC1を裏づけるヒト遺伝学エビデンス 02 なぜsiRNAが選ばれるのか 03 公開されているMTARC1標的RNA療法パイプライン 04 なぜMTARC2にも注目するのか 05 huMTARC1/huMTARC2マウスモデルの価値 06 まとめ 07 参考文献 08 サイヤジェンの研究支援プラットフォーム 09 よくある質問

MTARC1を裏づけるヒト遺伝学エビデンス

短期間のうちに、MTARC1はミトコンドリア関連遺伝子の一つから、代謝機能障害関連脂肪性肝炎(Metabolic dysfunction-associated steatohepatitis:MASH)領域で注目される新興標的へと位置づけが変化しました。この変化の背景にあるのは、従来型の薬物スクリーニングではなく、ヒト遺伝学から得られた一貫したエビデンスです。

MTARC1はミトコンドリア酵素mARC1をコードし、mARCシステムを構成するモリブデン酵素ファミリーの重要なメンバーです。全ゲノム関連解析(GWAS)では、MTARC1の一般的なミスセンス変異rs2642438(p.A165T)が、脂肪肝、肝線維化、肝硬変、肝細胞癌のリスク低下と関連することが報告されています[1]。小児MASLD/MASH患者でも、この変異はより軽度の肝脂肪変性および線維化関連経路の低下と関連していました[2]。

こうしたヒト遺伝学上の知見は、動物実験によっても支持されています。複数の食餌誘導性MASHモデルにおいて、Mtarc1の遺伝的欠損、または肝細胞特異的なノックダウンにより、肝脂肪変性、炎症、線維化が改善されることが示されています[3–6]。つまり、MTARC1の機能を下げること自体が治療的利益につながる可能性があるという点が、この標的の大きな特徴です。

ヒト遺伝学から動物モデルまでの一連の知見は、MTARC1機能の低下がMASH治療の新たな戦略となり得ることを示しています。

なぜsiRNAが選ばれるのか

MTARC1が注目される理由は、単に肝疾患と関連するからではありません。既存研究では、MTARC1の発現または機能を下げることで保護的な作用が得られる可能性が示されており、この標的特性はRNA干渉戦略と非常に相性が良いと考えられます。

現在公開されている開発プログラムの多くはRNA干渉を中心としており、その中でもGalNAc-siRNAが主流の技術ルートになっています。GalNAcは肝細胞表面のASGPR受容体を介して肝臓特異的な送達を実現できるため、肝臓を標的とするRNA薬物開発に広く利用されています。GalNAc結合型のMtarc1標的siRNAは、Mtarc1発現を効率的に低下させ、複数のMASHマウスモデルで病理学的改善をもたらすことが報告されています[7–8]。

公開されているMTARC1標的RNA療法パイプライン

MTARC1を標的とするRNA療法のグローバル研究開発パイプライン

表1. 2026年時点で公開開示されているMTARC1標的RNA療法パイプライン。

企業 薬剤・コード モダリティ 送達 標的 開発段階 補足
Novo Nordisk / Dicerna NNC0581-0001(NN-6581) siRNA GalNAc MTARC1 第I相(中止) 自社開発を停止し、潜在的な提携機会を探索。
Eli Lilly / OliX Pharma OLX75016(OLX-702A) siRNA GalNAc MTARC1 第I相 Lillyによるグローバルライセンスを通じて開発が進展。
Beijing Winsunny Pharma W02024222898(CN121759452A) siRNA GalNAc MTARC1 特許・探索段階 中国で公開された特許情報に基づく初期段階プログラム。

公開情報に基づくと、MTARC1関連プロジェクトは探索段階から第I相臨床段階に分布しています。各社の開発方針には差があるものの、GalNAc-siRNAによってMTARC1発現を抑制する方向性は、現時点で最も明確な開発戦略の一つです。

なぜMTARC2にも注目するのか

MTARC1が有望な標的であるとしても、MTARC2を同時に検討する必要があります。その理由は、MTARC1がmARCシステムの唯一の構成要素ではないためです。

哺乳類ゲノムには、MTARC1とMTARC2という高度に相同性のある2つの遺伝子が存在します。MTARC2は肝細胞癌で発現が低下し、疾患進展や予後不良と関連することが報告されています[9]。一方で、MASLD/MASHにおけるMTARC2の具体的役割は、まだ十分に体系化されていません。

さらに重要なのは、ヒトとマウスの間に明確な種差がある点です。ヒト肝臓ではMTARC1が主要な研究対象となる一方、マウスではMarc2がより主要なmARC関連機能を担う可能性が示唆されています[10]。したがって、MTARC1標的RNA薬物を評価する際に従来のマウスモデルのみに依存すると、ヒトのMTARCシステムの生物学的特徴を十分に反映できない可能性があります。

ヒトMTARC1およびMTARC2の遺伝子構造模式図

図1. ヒトMTARC1およびMTARC2の遺伝子構造模式図[11]。

huMTARC1/huMTARC2マウスモデルの価値

MTARC1標的RNA療法が進展するなか、ヒトとマウスの間に存在するMTARC1/MTARC2の発現・機能差をどのように評価するかは、前臨床研究の重要な課題です。こうした背景を踏まえ、サイヤジェン(Cyagen)はhuMTARC1/huMTARC2マウス(製品番号:C001912)を開発しました。このモデルは、MTARC1/MTARC2関連メカニズム研究および標的薬物開発に活用できる研究ツールです。

huMTARC1/huMTARC2マウスにおけるヒトMTARC1、MTARC2およびマウスMtarc1、Mtarc2転写レベルのRT-qPCR解析

図2. RT-qPCRによるhuMTARC1/huMTARC2マウスのヒトMTARC1、MTARC2およびマウスMtarc1、Mtarc2転写レベルの解析。

サイヤジェン関連モデル

製品名 製品番号 モデルタイプ 主な用途
huMTARC1/huMTARC2マウス C001912 MTARC1/MTARC2二重ヒト化モデル MASH関連機構研究、GalNAc-siRNAなどの肝臓標的RNA薬物評価、MTARC1/MTARC2標的薬物開発

まとめ

保護的遺伝変異の発見から、GalNAc-siRNA技術を利用したRNA療法の進展まで、MTARC1はMASH創薬で注目される新興標的となりつつあります。一方で、MTARC2の機能やMTARC1との関係は今後さらに解明される必要があり、この点は二重ヒト化モデルの価値を高めています。

RNA療法と高精度な動物モデルの発展により、MTARC標的研究はMASHに対する新しい創薬アプローチを提供する可能性があります。

参考文献

  1. [1] Emdin CA, Haas ME, Khera AV, et al. A missense variant in Mitochondrial Amidoxime Reducing Component 1 gene and protection against liver disease. PLoS Genet. 2020;16(4):e1008629.
  2. [2] Hudert CA, Adams LA, Alisi A, et al. Variants in mitochondrial amidoxime reducing component 1 and hydroxysteroid 17-beta dehydrogenase 13 reduce severity of nonalcoholic fatty liver disease in children and suppress fibrotic pathways through distinct mechanisms. Hepatol Commun. 2022;6(8):1934-1948.
  3. [3] Tie M, Hu L, Yang Y, et al. MTARC1 Inactivation Remodels Lipid Droplets to Protect Against Metabolic Fatty Liver Disease. Liver Int. 2026;46(3):e70539.
  4. [4] Jones AK, Bajrami B, Campbell MK, et al. mARC1 in MASLD: Modulation of lipid accumulation in human hepatocytes and adipocytes. Hepatol Commun. 2024;8(5):e0365.
  5. [5] Yin X, Bickerton C, MacDonald B, et al. Loss of Mtarc1 Protects Against Steatotic Liver Disease in Mice. Liver Int. 2026;46(2):e70507.
  6. [6] Coyne ES, Nie Y, Lee D, et al. Loss of mitochondrial amidoxime-reducing component 1 (mARC1) prevents disease progression by reducing fibrosis in multiple mouse models of chronic liver disease. Hepatol Commun. 2025;9(2):e0637.
  7. [7] Guo Y, Gao Z, LaGory EL, et al. Liver-specific mitochondrial amidoxime-reducing component 1 (Mtarc1) knockdown protects the liver from diet-induced MASH in multiple mouse models. Hepatol Commun. 2024;8(5):e0419.
  8. [8] Lewis LC, Chen L, Hameed LS, et al. Hepatocyte mARC1 promotes fatty liver disease. JHEP Rep. 2023;5(5):100693.
  9. [9] Wu D, Wang Y, Yang G, et al. A novel mitochondrial amidoxime reducing component 2 is a favorable indicator of cancer and suppresses the progression of hepatocellular carcinoma by regulating the expression of p27. Oncogene. 2020;39(38):6099-6112.
  10. [10] Smagris E, Shihanian LM, Mintah IJ, et al. Divergent role of Mitochondrial Amidoxime Reducing Component 1 (MARC1) in human and mouse. PLoS Genet. 2024;20(3):e1011179.
  11. [11] Wahl B, Reichmann D, Niks D, et al. Biochemical and spectroscopic characterization of the human mitochondrial amidoxime reducing components hmARC-1 and hmARC-2 suggests the existence of a new molybdenum enzyme family in eukaryotes. J Biol Chem. 2010;285(48):37847-59.

サイヤジェンの研究支援プラットフォーム

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MouseAtlas(マウスアトラス)は、KOマウスからヒト化マウスまで、遺伝子や製品モデル名で検索できるプラットフォームです。生体マウスか精子凍結状態か、リアルタイムの在庫状況、検証データ、詳細な説明を直感的に確認でき、直接注文も可能です。社内の製品管理システムと連携して常に最新情報が更新されており、現在39,000種類以上のモデルマウスを収録しています。研究者の皆様にとって非常に便利なワンストップソリューションです。

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Cyagen Biosciences Inc.(「サイヤジェン(Cyagen)」)は2006年、医薬品開発業務受託機関及び細胞関連製品メーカーとして創業しました。現在、世界に1000名以上の社員が勤務しています。本社をアメリカ・カリフォルニア州シリコンバレーに置き、中国の蘇州と広州を製造拠点にしています。2016年に日本支店(サイヤジェン株式会社)を開設しました。遺伝子改変アニマルモデル作製のリーディングカンパニーとして、リーズナブルな価格帯で、高品質の試薬・ツールを提供しています。Cyagenはマウスモデルの提供だけでなく、眼科、神経科学、腫瘍免疫など様々な分野で契約研究機関(CRO)サービスも提供しています。私たちは遺伝性疾患の研究を支援し、遺伝子治療薬の開発を促進することを目指しています。

よくある質問

MTARC1がMASH創薬で注目される理由は何ですか?

ヒト遺伝学研究で、MTARC1の保護的変異が脂肪肝、肝線維化、肝硬変、肝細胞癌のリスク低下と関連することが示されたためです。さらに、Mtarc1の欠損または肝細胞特異的な発現低下により、複数のMASHモデルで脂肪変性、炎症、線維化の改善が報告されています。

なぜMTARC1ではGalNAc-siRNAが有望な開発戦略とされるのですか?

MTARC1は機能を下げることで治療的な保護作用が期待される標的です。GalNAc-siRNAはASGPRを介して肝細胞へ選択的に送達されやすく、肝臓を主な作用部位とするRNA薬物開発に適しています。

MTARC2を同時に研究する意義は何ですか?

MTARC1とMTARC2はmARCシステムに属する高相同性遺伝子ですが、ヒトとマウスの間で発現や機能に差があります。特にマウスではMarc2がより主要なmARC関連機能を担う可能性があり、MTARC1標的薬の評価ではMTARC2の理解も重要です。

huMTARC1/huMTARC2マウスはどのような研究に利用できますか?

huMTARC1/huMTARC2マウスは、MTARC1およびMTARC2の機構解析、GalNAc-siRNAなどの肝臓標的RNA薬物評価、MASH関連創薬研究において、ヒトに近いmARCシステムを検討するための研究ツールとして利用できます。

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C001912huMTARC1/huMTARC2C57BL/6NCya
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