in vivo CAR-Tが臨床検証段階へ:作用機序と前臨床評価の次の課題


in vivo CAR-Tの臨床検証が進む背景
in vivoキメラ抗原受容体(CAR)療法の開発は、ここ数年で急速に加速しています。2025年がin vivo CAR-Tをめぐる戦略的買収の年であったとすれば、2026年はその臨床的妥当性が本格的に検証され始めた年と位置付けられます。
2025年には、AstraZenecaによるEsoBiotec買収、AbbVieによるCapstan Therapeutics買収、KiteによるInterius BioTherapeutics買収計画、Bristol Myers SquibbによるOrbital Therapeutics買収発表が相次ぎました。これらの動きにより、大手製薬企業は、患者体内でCAR発現免疫細胞を直接生成するための標的化レンチウイルスベクター、脂質ナノ粒子(LNP)、mRNA、環状RNAなどの技術基盤を獲得しました。
図1. 大手製薬企業の買収と初期臨床データが、in vivo CAR技術の開発と戦略的価値を加速させています。
2026年には、科学的根拠もさらに強まりました。EsoBiotecのBCMA標的ESO-T01の第1相試験では、再発または難治性多発性骨髄腫患者において、白血球アフェレーシス、体外細胞製造、リンパ球除去化学療法を行わずに機能的なCAR-T細胞を患者体内で生成できることが、査読付き論文として報告されました。投与された5例中4例で奏効が認められ、そのうち3例は厳格完全奏効でした。一方で、臨床的に重要な有害事象やサイトカイン放出症候群(CRS)も報告されており、慎重な安全性評価の必要性が示されています。
その後、KeloniaのKLN-1010プログラムでも、より大きな多発性骨髄腫コホートにおける初期奏効が報告され、内在性T細胞を体内で直接プログラムするアプローチの生物学的実現可能性がさらに支持されました。LillyがKeloniaを最大70億米ドル(うち32.5億米ドルを前払金)で買収する予定と発表したことは、信頼性のあるヒト臨床データがin vivo細胞エンジニアリングプラットフォームの戦略的価値をどれほど急速に高めるかを示しています。
in vivo CAR-Tとは:患者自身を製造拠点とする治療概念
従来のCAR-T細胞療法では、白血球アフェレーシス、集中型の細胞増殖・品質管理、患者ごとに異なる製造期間が必要であり、治療開始までに数週間を要することがあります。
これに対し、in vivo CAR-Tは、標的化レンチウイルスベクター、LNP、環状RNAなどの送達システムを用いて、遺伝情報を患者体内へ直接届けます。患者自身の体を細胞製造拠点として利用し、内在性免疫細胞にCARを発現させ、CD19やBCMAなどの標的細胞を認識・除去できる状態へ再プログラムするという点が、従来法との大きな違いです。
図2. ex vivo CAR-Tは患者T細胞を体外で改変するのに対し、in vivo CAR-Tは患者体内の免疫細胞へ遺伝情報を直接送達します。[8]
標準モデルでは十分に評価できない前臨床課題
in vivo CAR療法が臨床開発へ進むにつれ、開発者はパイプライン全体に関わる重要な問いに直面します。意図した免疫細胞サブセットへどれほど選択的に導入できるのか。オフターゲットの遺伝子導入リスクはどの程度か。CRSや神経毒性はどこまで予測できるのか。これらは、in vivo CARの有効性と安全性を左右する中心的な評価項目です。
こうした問いは、標準的な免疫不全腫瘍モデルだけでは十分に答えられません。in vivo CAR開発では、送達媒体、ヒト免疫細胞サブセット、周囲の組織微小環境が複雑に相互作用します。受容体発現やベクター指向性には種差があるため、マウス免疫系のみではヒト免疫細胞を標的とする送達技術の評価に限界があります。
HSCヒト化マウスでトランスレーショナルギャップを埋める
in vivo CAR療法の意味ある前臨床評価には、機能的かつ多系統のヒト免疫系を再構築し、治療活性、細胞薬理、組織分布、安全性リスクを同一の生物学的文脈で評価できるモデルが求められます。
Cyagenの強化型HSCヒト化マウスプラットフォームには、huHSC-NKG-ProFマウスが含まれます。これらのモデルはヒトCD34陽性造血幹細胞の生着により作製され、ヒトT細胞、B細胞、NK細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、その他の骨髄系細胞集団の発達を支持します。そのため、免疫細胞への導入、CAR発現、標的細胞除去、CAR-T細胞の増殖と持続性、組織分布、免疫表現型、ベクター指向性を、より広いヒト免疫環境の中で評価できます。
huHSC-NKG-ProFによる探索的評価例
huHSC-NKG-ProFプラットフォームのトランスレーショナルな有用性は、探索的なin vivo CAR評価で示されました。この試験では、治療前にヒト免疫細胞の生着を確認し、42日間の観察期間を通じてモニタリングしました。ベクター投与後には末梢血を毎週採取し、実験終了時には脾臓と骨髄を解析しました。ヒト免疫細胞の生着は試験期間中を通じて検出可能であり、確立したヒト造血背景を基準として治療関連の薬力学的変化を評価できました。
in vivo CAR投与後、処置群では末梢血中のヒトCD19陽性B細胞が持続的に減少しました。ヒト白血球集団内のhCD19陽性細胞の割合、ならびに循環hCD19陽性細胞の絶対数は、Day 7からDay 42まで対照群と比較して低下しました。この変化はヒトCD3陽性T細胞の相対比率上昇を伴っており、ヒト免疫細胞生着全体の喪失ではなく、標的B細胞集団の選択的減少を反映していると考えられます。
図3. 末梢血におけるin vivo CAR介在性B細胞除去効果の評価。
B細胞減少と並行して、ヒトCD3陽性T細胞集団内にはCAR陽性細胞が出現し、末梢血中で動的に増加しました。循環CAR-T細胞の頻度と絶対数はいずれも治療後に上昇し、約Day 14で最大値を示した後、以降の時点で低下しました。この時間的推移は、体内で直接生成されたCAR-T細胞の生成・増殖動態をモデルが捉えられることを示しています。
図4. 末梢血におけるin vivo生成CAR-T細胞の動的増殖。
Day 42の終点解析では、CAR-T細胞は脾臓と骨髄の双方で検出され、末梢循環を超えた分布と持続性が示されました。ヒトCD3陽性T細胞中のCAR陽性細胞比率は、脾臓よりも骨髄で高い傾向を示しました。また、両組織でB細胞減少が観察されましたが、多くの動物の骨髄ではCD19低発現の残存B細胞も検出されました。これらの所見は、末梢血解析だけでは見えにくい組織依存的なCAR-T細胞分布と標的細胞除去の違いを明らかにできることを示しています。
図5. 脾臓および骨髄におけるB細胞除去とin vivo生成CAR-T細胞分布の評価。
CAR-T細胞の量だけでなく、分化状態の解析も可能でした。CCR7およびCD45RA発現の解析では、in vivo生成CAR-T細胞が対照T細胞と比べてエフェクターメモリーおよび終末エフェクター表現型に偏ることが示されました。この傾向はDay 14の末梢血増殖ピーク時だけでなく、終点の脾臓および骨髄でも確認され、循環と組織にまたがるCAR-T細胞表現型の変化を評価できることが示唆されます。
図6. in vivo生成CAR-T細胞のエフェクターおよびメモリー表現型。
さらに、CAR-T細胞では末梢血、脾臓、骨髄のいずれにおいても、対照T細胞よりPD-1陽性細胞の割合が高い傾向を示しました。PD-1発現は直近の活性化と機能的疲弊の双方に関連し得るため、この所見は、in vivo治療中の活性化および疲弊関連表現型を評価できることを意味します。
図7. in vivo生成CAR-T細胞におけるPD-1発現。
CAR-T細胞集団のCD4陽性およびCD8陽性構成比も、細胞表現型を理解するための追加指標となります。骨髄では、評価した治療群のCAR-T細胞において、対照T細胞と比べてCD8陽性細胞の割合が高い傾向が認められました。これは、組織内に存在するCAR-T細胞集団が、より広いヒトT細胞集団とは異なるCD4/CD8構成を示す可能性を示しています。
図8. in vivo生成CAR-T細胞のCD4陽性およびCD8陽性構成。
重要な点として、CAR発現は意図したT細胞集団に限定されませんでした。終点解析では、脾臓および骨髄のヒト単球、ならびにhCD45陽性CD3陰性のその他の免疫細胞集団にもCAR陽性細胞が検出されました。これらの「その他」の集団には、表現型上定義されるT細胞、B細胞、NK細胞、単球は含まれていません。この所見は、全身投与ベクターによる非T細胞コンパートメントへのオフターゲット導入の可能性を示しており、薬力学的有効性と並行してベクター指向性を評価すべき理由を明確に示しています。
図9. 潜在的なオフターゲットCAR発現のフローサイトメトリー評価。
今後のin vivo CAR開発で求められる評価軸
以上の結果は、huHSC-NKG-ProFプラットフォームが、ベクター送達、機能的有効性、細胞表現型、体内分布、安全性に関わるアウトカムを一つのモデル内で結び付けられることを示しています。研究者は、どのヒト免疫細胞集団がCARペイロードを受け取るのか、CAR-T細胞がどのように増殖・分化・持続・組織分布するのか、複数の解剖学的区画で標的細胞除去がどの程度起こるのか、非T細胞集団への意図しない導入が生じるのかを統合的に評価できます。
2025年の買収動向と2026年の臨床データは、in vivo CARがプラットフォーム投資の段階から臨床検証の段階へ移行しつつあることを示しています。今後、より広範な臨床開発へ進むうえで、送達選択性、有効性、安全性関連反応を事前に評価できるトランスレーショナルなヒト化免疫系モデルの重要性はさらに高まるでしょう。
in vivo CAR研究向けのCyagen HSCヒト化NKGマウスモデルについては、免疫系ヒト化マウスモデルをご覧ください。また、免疫細胞標的化、CAR発現、体内分布、持続性、薬力学的活性の評価に関する前臨床試験については、細胞免疫療法CROサービスの活用もご検討いただけます。
参考文献
- AbbVie. AbbVie to acquire Capstan Therapeutics, further strengthening commitment to transforming patient care in immunology. 2025 Jun 30.
- Gilead Sciences, Inc. Kite to acquire Interius BioTherapeutics to advance in vivo platform. 2025 Aug 21.
- AstraZeneca. AstraZeneca to acquire EsoBiotec. 2025 Mar 17.
- Bristol Myers Squibb. Bristol Myers Squibb strengthens and diversifies cell therapy portfolio with acquisition of Orbital Therapeutics. 2025 Oct 10.
- An N, Wang D, Zhang P, et al. In vivo generation of anti-BCMA CAR-T cells in relapsed or refractory multiple myeloma: a phase 1 study. Nat Med. 2026;32(4):1257-1266.
- Kelonia Therapeutics, Inc. Kelonia Therapeutics presents updated first-in-human data from Phase 1 inMMyCAR study of KLN-1010 in vivo BCMA CAR-T therapy at ASCO 2026.
- Eli Lilly and Company. Lilly to acquire Kelonia Therapeutics to advance in vivo CAR-T cell therapies. 2026 Apr 20.
- Xu J, Chen Z, Su L, Ren A, Mei H. In vivo CAR cell therapy: from bench to bedside. J Hematol Oncol. 2025;18(1):105.
Cyagenの研究支援プラットフォーム
ワンストップ・マウスモデル検索プラットフォーム:MouseAtlas
MouseAtlas(マウスアトラス)は、KOマウスからヒト化マウスまで、遺伝子や製品モデル名で検索できるプラットフォームです。生体マウスか精子凍結状態か、リアルタイムの在庫状況、検証データ、詳細な説明を直感的に確認でき、直接注文も可能です。社内の製品管理システムと連携して常に最新情報が更新されており、現在39,000種類以上のモデルマウスを収録しています。研究者の皆様にとって非常に便利なワンストップソリューションです。
Cyagen Biosciences Inc.(「サイヤジェン(Cyagen)」)は2006年、医薬品開発業務受託機関及び細胞関連製品メーカーとして創業しました。現在、世界に1000名以上の社員が勤務しています。本社をアメリカ・カリフォルニア州シリコンバレーに置き、中国の蘇州と広州を製造拠点にしています。2016年に日本支店(サイヤジェン株式会社)を開設しました。遺伝子改変アニマルモデル作製のリーディングカンパニーとして、リーズナブルな価格帯で、高品質の試薬・ツールを提供しています。Cyagenはマウスモデルの提供だけでなく、眼科、神経科学、腫瘍免疫など様々な分野で契約研究機関(CRO)サービスも提供しています。私たちは遺伝性疾患の研究を支援し、遺伝子治療薬の開発を促進することを目指しています。
よくある質問
in vivo CAR-Tと従来のex vivo CAR-Tの違いは何ですか?
従来のex vivo CAR-Tは患者由来T細胞を体外で回収・加工・増殖して再投与します。一方、in vivo CAR-Tはレンチウイルスベクター、LNP、mRNA、環状RNAなどの送達技術を用いて、患者体内の免疫細胞へCAR発現指示を直接届ける点が異なります。
in vivo CAR-T評価で標準的な腫瘍モデルが不十分な理由は何ですか?
in vivo CAR-Tでは送達媒体、ヒト免疫細胞サブセット、組織微小環境の相互作用が重要です。マウスとヒトでは受容体発現やベクター指向性が異なるため、標準的な免疫不全腫瘍モデルだけではヒト免疫細胞への選択的送達やオフターゲット導入を十分に評価できません。
HSCヒト化マウスではどのような評価が可能ですか?
ヒトT細胞、B細胞、NK細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞などを含む多系統のヒト免疫環境を背景に、CAR発現、標的細胞除去、CAR-T細胞の増殖・持続性、組織分布、免疫表現型、ベクター指向性を統合的に評価できます。
huHSC-NKG-ProFモデルの探索的評価から何が示されましたか?
in vivo CAR投与後、末梢血でヒトCD19陽性B細胞の持続的な減少が観察され、ヒトCD3陽性T細胞内にCAR陽性細胞が出現・拡大しました。CAR-T細胞は約Day 14でピークを示し、Day 42時点では脾臓および骨髄にも検出されました。
安全性評価で特に重要な観察項目は何ですか?
意図したT細胞以外へのCAR導入、単球やその他のhCD45陽性CD3陰性細胞でのCAR発現、PD-1陽性細胞比率、CRSや神経毒性に関連する免疫表現型の変化などが重要です。これらは有効性と並行して評価する必要があります。



