慢性B型肝炎の機能的治癒研究を支援:ヒト-マウスIFNキメラ受容体マウス(hIFNAR1/R2-EC)の提供を開始


慢性B型肝炎における機能的治癒の難しさ
慢性B型肝炎(CHB)は、現在も世界的に重要な公衆衛生上の課題です。世界保健機関(WHO)によると、世界には約2億5,400万人の慢性B型肝炎ウイルス(HBV)感染者が存在し、HBV関連の肝硬変および肝細胞癌による死亡者数は年間約110万人に上ります[1]。CHBは進行性の肝機能障害を引き起こすだけでなく、肝癌や肝不全などの重篤な合併症とも関連しており、患者および医療体制に大きな負担を及ぼしています。
図1. 2022年時点の地域別にみた慢性B型肝炎およびC型肝炎の疾病負荷推定[2]。
臨床では、ペグ化インターフェロンα(Peg-IFN-α)は投与期間を限定できる治療選択肢として、慢性B型肝炎の機能的治癒(HBsAg消失およびHBV DNA陰性化)を目指す治療で重要な位置づけにあります。一方で、従来のマウスモデルはヒトIFNへの応答性が低く、ヒト由来IFN製剤のスクリーニングや作用機序の検証において、種差に起因する外挿性の課題がありました[3-4]。この課題に対応するため、Cyagenはヒト-マウスIFNキメラ受容体マウスモデル(hIFNAR1/R2-EC、製品番号:C001998)の提供を開始しました。本モデルはヒトIFN-α/βに応答するよう設計されており、ヒトIFNを介した抗HBV免疫応答の解析に利用できます。慢性B型肝炎の機能的治癒研究を支援するin vivoモデルとして活用できます。
図2. 慢性B型肝炎に対する新規併用療法戦略における主な未解決課題[5]。
慢性B型肝炎では、HBVの持続感染に伴う免疫寛容とウイルス排除機構の低下が問題となります。HBVが肝細胞に侵入すると、そのDNAは細胞核内で安定な共有結合閉環状DNA(cccDNA)を形成し、ウイルス複製の鋳型として機能します。核酸アナログ製剤はウイルス複製を強力に抑制できますが、肝細胞内のcccDNAを除去することは依然として困難です。そのため、治療中止後に再燃する可能性があり、機能的治癒の達成率は限られています[6]。
また、HBsAgやHBeAgなどのウイルス抗原に長期間曝露されることで、宿主では免疫寛容が誘導されます。その結果、HBV特異的CD8+ T細胞の疲弊(exhaustion)が進み、ナチュラルキラー(NK)細胞などの自然免疫細胞の機能も低下します。したがって、免疫寛容の解除に加え、cccDNAの分解またはエピジェネティックなサイレンシングを実現することが、創薬研究上の重要な課題となっています。
図3. HBVの病態形成機序の模式図[7]。
I型インターフェロン(Type I IFN):抗ウイルス応答の主要因子
I型インターフェロン(主にIFN-α/β)は、抗ウイルス免疫に関与する主要なエフェクター分子です。細胞表面のヘテロ二量体受容体であるIFNAR1およびIFNAR2に結合すると、JAK-STATシグナル伝達経路が活性化されます。具体的には、IFNAR1はTYK2と、IFNAR2はJAK1と会合しており、受容体のリン酸化後にSTAT1/STAT2がリクルートされます。その後、STAT1/STAT2はIRF9とともにISGF3複合体を形成し、核内へ移行してインターフェロン刺激遺伝子(ISGs、MX1、OAS1、ISG15など)の発現を誘導します。これにより、HBVの転写および複製が直接抑制されるとともに、NK細胞やT細胞を含む免疫応答が増強され、免疫調節とウイルス排除の両面から抗ウイルス作用が発揮されます[8-10]。
図4. I型IFN(IFN-α/β)による抗HBV JAK-STAT-ISGsシグナル伝達経路[8]。
IFNAR1/IFNAR2受容体とJAK-STATシグナル伝達経路
hIFNAR1/hIFNAR2は、I型IFNに特異的なヘテロ二量体受容体です。細胞外ドメインはリガンド結合特異性を規定し、細胞内ドメインは下流シグナル伝達を担います。そのため、IFNを介した抗HBV免疫応答を解析するうえで重要な分子群とされています[9]。
従来の野生型マウスIFNARはヒトIFNに対する親和性が低く、ヒト体内で生じるIFN依存的な抗HBV応答を十分に再現できない場合があります。Cyagenが提供するhIFNAR1/R2-ECヒト-マウスIFNキメラ受容体マウス(製品番号:C001998)は、遺伝子編集により、ヒトIFNAR1/IFNAR2の細胞外ドメインとマウス由来の膜貫通・細胞内ドメインを組み合わせたモデルです。この設計により、マウスの免疫系を維持しながら、ヒトIFN-α/βへの結合および応答を可能にし、ヒトIFNシグナル伝達経路と抗HBV免疫応答の解析に用いることができます[11]。
図5. hIFNAR1/R2-ECマウスの構築戦略および発現検証結果[11]。
このキメラ受容体設計は、従来モデルで課題となっていた種差によるヒトIFN応答性の不足を補い、ヒト由来IFN類似体、小分子IFNアゴニスト、免疫調節薬を含む併用療法のin vivo評価に利用できます。hIFNAR1/R2-ECマウスを用いたHBV複製モデルでは、臨床で使用されている長時間作用型PEG-IFN-α2の抗ウイルス効果が評価されています。その結果、HBV DNA、RNAおよび抗原レベルの広範な抑制が確認された一方、B型肝炎表面抗原に対する抗体産生は一部のマウスに限られました[11]。
図6. hIFNAR1/R2-ECマウスにおけるPEG-IFN-α2の抗ウイルス効果評価[11]。
結語:慢性B型肝炎の機能的治癒研究を支えるin vivo評価基盤
慢性B型肝炎の機能的治癒を目指す研究では、ヒトでの薬理作用や免疫応答を適切に評価できる動物モデルが、基礎研究と臨床応用の橋渡しに重要です。hIFNAR1/R2-ECマウスモデル(製品番号:C001998)は、ヒトIFNへの応答性とマウスの免疫機能を組み合わせることで、種差に起因する評価上の制約を軽減することを目的に設計されています。新規長時間作用型IFNの薬物動態評価や、標的分子を組み合わせた併用療法の検討など、慢性B型肝炎研究におけるin vivo評価プラットフォームとして利用できます。
ワンストップ・マウスモデル検索プラットフォーム:MouseAtlas
MouseAtlas(マウスアトラス)は、KOマウスからヒト化マウスまで、遺伝子や製品モデル名で検索できるプラットフォームです。生体マウスか精子凍結状態か、リアルタイムの在庫状況、検証データ、詳細な説明を直感的に確認でき、直接注文も可能です。社内の製品管理システムと連携して常に最新情報が更新されており、現在39,000種類以上のモデルマウスを収録しています。研究者の皆様にとって非常に便利なワンストップソリューションです。
Cyagenについて
Cyagen Biosciences Inc.(「サイヤジェン(Cyagen)」)は2006年、医薬品開発業務受託機関及び細胞関連製品メーカーとして創業しました。現在、世界に1000名以上の社員が勤務しています。本社をアメリカ・カリフォルニア州シリコンバレーに置き、中国の蘇州と広州を製造拠点にしています。2016年に日本支店(サイヤジェン株式会社)を開設しました。遺伝子改変アニマルモデル作製のリーディングカンパニーとして、リーズナブルな価格帯で、高品質の試薬・ツールを提供しています。Cyagenはマウスモデルの提供だけでなく、眼科、神経科学、腫瘍免疫など様々な分野で契約研究機関(CRO)サービスも提供しています。私たちは遺伝性疾患の研究を支援し、遺伝子治療薬の開発を促進することを目指しています。
FAQ
慢性B型肝炎における「機能的治癒」とは何を指しますか?
一般に、HBsAgの消失とHBV DNAの陰性化を伴う状態を指します。ウイルス複製を長期に抑えるだけでなく、治療中止後も再燃リスクを低減できることから、慢性B型肝炎研究における重要な目標とされています。
核酸アナログ製剤だけでは機能的治癒が難しいのはなぜですか?
核酸アナログ製剤はHBV複製を強力に抑制できますが、肝細胞核内に残存するcccDNAを十分に除去することは難しいためです。そのため、治療中止後の再燃や抗原持続が課題として残ります。
I型インターフェロンはHBV研究でどのような役割を果たしますか?
I型インターフェロンはIFNAR1/IFNAR2を介してJAK-STAT経路を活性化し、ISGsの発現を誘導することで、HBVの転写・複製抑制と免疫応答の増強の両面から抗ウイルス作用を発揮します。
従来の野生型マウスではヒトIFN製剤の評価に限界があるのはなぜですか?
マウスIFNARはヒトIFNに対する親和性が低いため、ヒトで想定されるIFN依存的な薬理作用や免疫応答を十分に再現できない場合があるためです。種差が、薬効評価や作用機序解析の外挿性を制限します。
hIFNAR1/R2-ECマウスモデルの特徴は何ですか?
ヒトIFNAR1/IFNAR2の細胞外ドメインとマウス由来の膜貫通・細胞内ドメインを組み合わせたキメラ受容体を有する点が特徴です。これにより、マウスの免疫系を維持しながらヒトIFN-α/βへの応答性を持たせています。
hIFNAR1/R2-ECマウスはどのような研究に活用できますか?
ヒト由来IFN製剤の薬理評価、HBV複製モデルにおける抗ウイルス効果の検証、長時間作用型IFNの薬物動態評価、さらに免疫調節薬や他の標的分子との併用療法検討などに活用できます。



