うつ病は抗ウイルス免疫にどのような影響を与えるのでしょうか?


目次
01 研究材料と方法 02 技術ルート 03 研究結果 04 結論 05 ワンストップ・マウスモデル検索プラットフォーム:MouseAtlas気分の良し悪しは、心臓や脳の健康に影響を与えることが研究で明らかになっています。近年、うつ病は公衆衛生上における深刻な問題の1つだとされています。通常の気分変動や短期間の感情反応とは異なり、うつ病は再発し、中等度または重度になると、深刻な健康問題につながる可能性があります。大うつ病性障害(MDD)の患者は、生活の質(QOL)が著しく低下し、最終的に約15%の方が自殺で亡くなられています。
また、うつ病は患者のQOLを低下させるだけでなく、他の病気を誘発・悪化させることもあります。これまでの研究で、うつ病は重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)やヒト免疫不全ウイルス(HIV)の疾患進行や合併症と強い関連があることが分かっています。MDD患者は水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)感染のリスクが高いことから、精神疾患は患者のウイルス感染に対する感受性を高める可能性があることが示唆されています。しかし、うつ病がウイルス感染に対する自然免疫反応にどのように影響するかは、まだ明らかになっていません。
蘇州大学の研究チームは、2022年7月12日にCell Research誌に研究成果を発表し、うつ病による抗ウイルス免疫機能不全のシグナル伝達機構の理解を深め、メプタジノール(Meptazinol)がうつ病患者における抗ウイルス自然免疫の増強剤となり得ることを明らかにしました。
研究材料と方法
研究材料:研究者らは、MDD患者から血液を採取し、うつ病のモデルマウスであるAhi1-/-マウスとOtud1-/-マウス(後者はCyagen社から提供)を樹立しました。
研究方法:qRT-PCR、Western blot、RNA sequencingによる遺伝子発現差解析、TCID50アッセイおよびウイルスプラークアッセイによるウイルス力価解析。
技術ルート
01 うつ病は、マクロファージにおけるAbelson helper integration site 1(AHI1)の減少を誘導する。
02 AHI1欠損は、I型インターフェロン(IFN-I)シグナルと抗ウイルス免疫を減退させる。
03 AHI1がOTUD1をリクルートしてTyk2タンパク質を安定化させる。
04 うつ病は、AHI1の発現を抑制するアルギニン・バソプレシン(AVP)の分泌を促進する。
05 メプタジノールはAHI1の発現を促進し、抗ウイルス免疫力を高める。
研究結果
AHI1欠損による抗ウイルス性自然免疫の減弱
抗ウイルス自然免疫は、ウイルス感染に対する最初の防御線です。感染すると、自然免疫細胞のパターン認識受容体(PRR)がウイルスの病原体関連分子パターン(PAMP)を認識し、IFN-Iの発現を促します。これまでの研究で、AHI1タンパク質の欠損がうつ病と関連していること、AHI1タンパク質は視床下部や扁桃体だけでなく、マクロファージなど様々な細胞種に多く存在することが確認されています。
研究チームはさらに、AHI1欠損が抗ウイルス自然免疫にどのような影響を及ぼすかを探りました。シークエンスの結果、AHI1欠損はインターフェロン誘導遺伝子(ISG)の発現を著しく低下させることがわかり、AHI1がIFN-Iによるシグナル強度と細胞の抗ウイルス活性を調節していることが示唆されました。Ahi1-/-マウスの複数組織におけるISGの基底発現量は、対照群マウスに比べて大幅に低下しており、うつ病モデルマウスにおけるISGの基底発現量およびIFN-I誘導発現量も有意に低下していました。これらの結果から、AHI1はIFN-Iシグナル伝達の重要な安定化因子であり、その欠損は抗ウイルス自然免疫を減弱させることが明らかになりました。
図1. AHI1欠損によるIFN-Iシグナル伝達と抗ウイルス自然免疫の減弱
AHI1によるIFN-Iシグナル伝達の制御機構
研究チームはさらに、AHI1がIFN-Iシグナル伝達の制御機構を調べました。その結果、AHI1が細胞内のTyk2タンパク質の発現量を厳密に制御していることが確認されました。Tyk2はヤヌスキナーゼ(JAK)ファミリーの一員で、IFN-Iシグナルの活性化において重要な役割を果たすと考えられています。研究チームは、AHI1と相互作用する可能性のあるタンパク質を質量分析で解析したところ、脱デユビキチン化酵素OTUD1に注目しました。OTUD1をノックダウンすると、AHI1が介在するTyk2レベルのアップレギュレーションが抑制されました。さらに解析の結果、OTUD1はAHI1に依存してTyk2のユビキチン化およびタンパク質量を調節し、Tyk2タンパク質の安定性を維持していることが判明されました。
MDDの病態形成には、ホルモンや内分泌機能の変化が不可欠であると考えられてきました。そこで、その後の解析では、ホルモンに着目しました。その結果、うつ病は視床下部-下垂体-副腎(HPA)系からのアルギニン・バソプレシン(AVP)の分泌を促進し、末梢血中のAVP濃度を著しく上昇させることが判明しました。AVPはマウスAhi1発現をダウンレギュレーションします。AHI1の減少は、AHI1が介在するデユビキチナーゼOTUD1による細胞内Tyk2の安定化を破壊し、IFN-I抗ウイルス免疫活性を減弱させます。
メプタジノールによる抗ウイルス免疫の増強
研究者らは、いくつかの臨床薬をスクリーニングした結果、強力な鎮痛剤であるメプタジノールが、初代マクロファージにおけるAHI1 mRNAの発現を有意に促進することに気づきました。さらに、AHI1およびTyk2のタンパク質レベルを上昇させ、ISGの発現を促進することができました。これらの結果は、メプタジノールがAHI1の発現を促進し、Tyk2タンパク質レベルをアップレギュレートすることにより、IFN-IシグナルとIFN-I抗ウイルス活性を高めることが示唆されました。
次に、研究グループは、うつ病モデルマウスを用いたin vivo実験を実施しました。メプタジノール注射後、マウスではAhi1およびTyk2タンパク質の発現がISGと同様に上昇し、うつ病モデルマウスはウイルス感染に対してより抵抗力を持つようになることを見いだしました。したがって、うつ病モデルマウスにメプタジノールを投与すると、AHI1の発現を促進することにより、うつ病による宿主の抗ウイルス免疫の阻害をほぼ回復できることが明らかになりました。
結論
図2. うつ病を介した抗ウイルス性免疫機能不全モデル
要約すると、うつ病で上昇したAVPは、マクロファージにおいて、AHI1の減少を誘導し、さらに脱デユビキチナーゼOTUD1を介した細胞内Tyk2の安定化を阻害し、基礎的なIFN-Iシグナルと宿主の抗ウイルス免疫防御を減弱させることが確認されました。重要なことは、メプタジノールがAHI1の発現を増加させる強力な薬剤であり、最終的に細胞内IFN-Iシグナルを改善し、うつ病モデルマウスの抗ウイルス免疫力を回復させることが明らかになった点です。この研究は、うつ病患者のQOLを回復させる1つの方法として、抗ウイルス免疫力を高めるための新たな戦略を提供するものです。
ワンストップ・マウスモデル検索プラットフォーム:MouseAtlas
MouseAtlas(マウスアトラス)は、KOマウスからヒト化マウスまで、遺伝子や製品モデル名で検索できるプラットフォームです。生体マウスか精子凍結状態か、リアルタイムの在庫状況、検証データ、詳細な説明を直感的に確認でき、直接注文も可能です。社内の製品管理システムと連携して常に最新情報が更新されており、現在39,000種類以上のモデルマウスを収録しています。研究者の皆様にとって非常に便利なワンストップソリューションです。
References:
[1] Zhang HG, Wang B, Yang Y, Liu X, Wang J, Xin N, Li S, Miao Y, Wu Q, Guo T, Yuan Y, Zuo Y, Chen X, Ren T, Dong C, Wang J, Ruan H, Sun M, Xu X, Zheng H. Depression compromises antiviral innate immunity via the AVP-AHI1-Tyk2 axis. Cell Res. 2022 Oct;32(10):897-913. doi: 10.1038/s41422-022-00689-9. Epub 2022 Jul 12. PMID: 35821088; PMCID: PMC9274186.




