なぜメスのマウスは自分の赤ちゃんを食べるのか?原因と予防策


「動物飼育」シリーズでは、毎週マウスの飼育と健康に関する最新情報をご紹介し、マウスケアの専門家を目指す方々への教育を目的としています。本記事のテーマは、マウス飼育においてよく見られる「メスマウスによる新生児殺傷(infanticide)」という問題です。
本記事では、メスマウスが子を食べる理由、その予防法、および関連するよくある質問と回答について解説します。
メスマウスが子を食べる理由とは?マウスは食人種か?
メスマウスが子を食べる主な理由は、栄養状態、環境要因、その他の関連要因の3つに大別され、以下に詳述します。
栄養状態
(1) 母乳産生不足
授乳期における栄養不足や高温環境は、母乳の産生量を低下させる原因となります。また、産仔数が多い場合も、母乳の供給量が相対的に不足し、新生児が乳頭を噛みついてしまうことがあります。その結果、母体が痛みを感じて授乳を拒否し、場合によっては子を噛み殺すことがあります。過剰な産仔数と母乳不足が重なると、母体は多数の子の生存を確保するため、一部の産仔を食する傾向が見られます。
(2) 栄養不足
特定栄養素の欠乏は、メスマウスの新生児殺傷行動を促進します。研究では、飼料中のタンパク質含有量が16%以下の場合、新生児殺傷の発生頻度が上昇し、繁殖効率が低下することが示されています。
環境要因
(1) 高密度飼育環境
高密度飼育とは、空間が狭く、温度が高くなる状態を指します。強い照明や騒音は、授乳期のメスマウスに神経系への負荷をかけ、ストレス反応を引き起こします。過密環境によるストレスは、不安や易怒性などの症状を引き起こし、結果として新生児を噛み殺す原因となることがあります。
(2) 気味(匂い)の変化
動物は嗅覚情報を用いて、他の個体との関係性を記憶し、自身の子であるかどうかを判断します。特にノルアドレナリンの関与が大きいとされています。環境の匂いが変化すると、たとえばケージの床材交換による異臭、または人間の接触による新生児の匂いの変化など、母体が子を「自分の子」と認識できなくなることがあり、その結果、子を食べてしまうことがあります。
その他の要因
(1) 死産や虚弱な新生児
一部のメスマウスは、死産を確認した直後にそれを食べ始め、その後、習慣的に新生児殺傷を繰り返すようになります。また、産仔数が多い場合、発育不全により弱体化した新生児が生まれることがあります。こうした状況下では、次世代の生存率を高めるために、メスマウスは弱い子を食べ、健康な子の生存を確保する傾向があります。
(2) メス以外の個体による新生児殺傷
繁殖期には、メス・オスともに攻撃性が高まりますが、オスの攻撃性はメスよりも高い傾向にあります。両性ともに、相手との馴染みが深くなるほど攻撃性は低下します。
(3) 血の味の経験
通常、マウスは従順な動物ですが、一度血を味わったことで攻撃的行動が誘発され、新生児殺傷の習慣が定着することがあります。したがって、一度子を噛んだマウスは、その後も同様の行動を繰り返す傾向があります。
(4) 母性本能の未発達
初産のメスマウスは経験が不足しており、母性本能が十分に発達していない場合があります。その結果、怒りや焦燥感といった否定的な感情が生まれ、新生児を食べる現象が見られることがあります。
実験マウスにおける新生児殺傷の予防法
栄養管理
☑ 適切な遺伝子背景のマウスに合った飼料を選定し、徹底した滅菌処理を行う。
☑ 高温高圧滅菌処理を施した飼料は、栄養成分の一部が損傷する可能性があるため、注意が必要。
環境管理
☑ 適切な光量、温度、湿度、静音環境を提供する(国際基準を参照)。飼育密度を適切に管理し、出産後3日以内はマウスの移動を避ける。一部の系統では、出産後7日目以降にケージ交換を検討する。
☑ 授乳期のマウスのケージ交換頻度は、適切に低減する。
☑ 明るすぎる照明は避ける。特に白化マウスやアルビノマウスは、ケージラックの下層に設置する。
母性が強いメスマウスの選抜と共飼い
☑ 共飼いの際は、2~4回目の出産経験を持つメスマウスを選ぶのが望ましい。繁殖能力と母性が安定しており、新生児殺傷のリスクが低い。
☑ 腹部が著しく膨らんでいることが確認されたら、妊娠中のマウスは個別飼育に移す。取り扱いは優しく行い、ストレスを避けることで、出産後の新生児殺傷リスクを低減する。
☑ 出産3日前から3日後までは、ケージの移動を避けることを推奨。
母乳代替の活用
☑ 母乳代替が必要な場合は、母体の匂いを付加した乳剤を用いるのが効果的。たとえば、授乳中の母体の尿を乳剤に塗布してから与える。
死亡または虚弱な新生児の適切な処理
☑ 死亡した新生児は、早期に処理する。産仔数が多い場合(1匹のメスが8匹程度が適正)、母体が子を食べ始める前に、弱体化した新生児を除去する。そうでないと、弱体児が噛まれた後に、健康な新生児も被害を受けるリスクが高まる。
関連する質問と回答
Q1: 手術後のメスマウスは新生児を食べやすい。この問題の解決法は?
A: 個別ケースに応じた分析が必要です。手術の種類、母性段階、適切な鎮痛処置の有無、ケージ内の匂いの変化など、複数の要因が関与している可能性があります。
メスマウスが新生児を食べる主な要因は以下の通りです:
- ストレス反応。手術によるストレスがメスマウスに与える影響は?環境に不安を感じ、強いストレスを受けると新生児殺傷のリスクが高まる。
- 鎮痛処置。手術前後における適切な鎮痛は、ストレス反応を緩和する効果がある。推奨される薬剤にはチリジン、イブプロフェンなどがある。
- 匂いの変化。ケージ内に他の異臭が混入していないか。
Q2: C57BL/6背景の新生児マウスは、何週齢まで殺傷のリスクがあるか?
A: 一般的に、生後1週間以内の新生児は殺傷リスクが高くなります。生後1週間を過ぎると、リスクは低下します。
ただし、5~7日齢の新生児に爪切りなどの手術を行う場合、手術によるストレスや異臭の導入により、殺傷リスクが著しく上昇する可能性があります。




