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遺伝疾患とゲノミクス

遺伝子研究の「スーパーヒーロー」——Trp53ノックアウトマウスモデル

Cyagen Technical Content Team | April 24, 2026
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目次
01 p53/Trp53研究における基礎的な位置づけ 02 Trp53ノックアウトマウスモデルの特徴 03 Trp53改変マウスの主な研究用途 04 近年の研究動向:単純な欠失モデルを超えて 05 Trp53関連マウスモデルのラインアップ 06 参考文献 07 ワンストップ・マウスモデル検索プラットフォーム:MouseAtlas 08 サイヤジェン(Cyagen)について 09 FAQ:Trp53ノックアウトマウスモデルに関するよくある質問

p53/Trp53研究における基礎的な位置づけ

p53は、細胞がDNA損傷や発がんストレスにさらされた際に、細胞周期停止、DNA修復、アポトーシス、細胞老化などの応答を制御する代表的ながん抑制因子です。マウスでは対応する遺伝子がTrp53として表記され、ヒトTP53研究の基礎的な理解を深めるうえで重要な研究対象となっています。

p53タンパク質は1979年に報告されました。当初はSV40ウイルス関連タンパク質との関係から発がん促進因子のように解釈された時期もありましたが、その後の研究により、野生型p53はがん抑制に中心的な役割を果たすことが明らかになりました。LaneとCrawfordは1992年にp53を「ゲノムの守護者」と表現し、ゲノム安定性の維持における重要性を示しました。

TP53は多くのヒトがんで変異が認められる代表的ながん関連遺伝子です。そのため、p53機能を失わせたマウスモデル、または特定のp53変異を導入したマウスモデルは、がん発症の初期過程、腫瘍抑制経路、治療反応性を検討するための基盤的ツールとして利用されています。

p53ネットワークに関与する細胞応答と調節経路の概念図

図1:p53ネットワークの概念図[1]

Trp53ノックアウトマウスモデルの特徴

Trp53ノックアウトマウスは、1990年代初期に複数の研究グループによって作製されました。代表的な設計では、Trp53遺伝子の一部または複数のエクソンを欠失させることで、p53機能を全身で失わせます。

多くの腫瘍抑制遺伝子欠損モデルとは異なり、Trp53-/-マウスの多くは胚発生段階を通過して出生します。この点は、p53が通常の胚発生において必須ではない一方、DNA損傷応答や腫瘍抑制において極めて重要であることを示す特徴として理解されています。

表現型としては、自発性腫瘍に対する高い感受性がよく知られています。Donehowerの総説によると、Trp53-/-マウスではリンパ腫が多く、Trp53+/-マウスではリンパ腫、軟部肉腫、骨肉腫などが報告されています。Trp53+/-マウスの腫瘍スペクトラムは、Li-Fraumeni症候群にみられる腫瘍素因の理解にも関連します。

また、Kimらの2019年の報告では、遺伝子編集で作製されたp53ノックアウトマウスにおいて高頻度の腫瘍発生が観察され、主な腫瘍型としてリンパ腫と肉腫が示されています。このような特徴により、Trp53ノックアウトマウスは、がん発生機構の解析や発がんリスク評価に広く利用されています。

Trp53改変マウスの主な研究用途

がん発生機構の解析

Trp53ノックアウトマウスは、p53経路の破綻がどのように腫瘍形成を促進するかを解析するための代表的なモデルです。DNA損傷応答、細胞周期制御、アポトーシス、老化、炎症性微小環境との関係など、複数の研究テーマに適用できます。

発がん性評価モデルとしての利用

p53機能の低下は遺伝毒性発がん物質に対する感受性を高めるため、p53ヘテロ欠損マウスは候補化合物の発がん性評価にも用いられてきました。Pritchardらの包括的な試験では、p53+/-マウスが複数の遺伝毒性発がん物質を識別できることが示されています。

Li-Fraumeni症候群研究

Li-Fraumeni症候群はTP53変異に関連する家族性がん症候群で、若年発症の複数腫瘍が問題となります。Trp53+/-マウスは、腫瘍素因、修飾遺伝子、環境要因、治療介入の影響を検討するための実験モデルとして利用できます。

遺伝子相互作用の検討

Trp53改変マウスは、他の遺伝子改変マウスと交配され、複合変異背景における腫瘍発生を解析する目的で用いられてきました。たとえばRb欠損モデルとの組み合わせでは、腫瘍発生の加速や、単独変異ではみられない腫瘍スペクトラムが報告されています。

近年の研究動向:単純な欠失モデルを超えて

近年のp53研究では、単にTrp53を欠失させるだけでなく、下流標的遺伝子、組織特異性、ホットスポット変異、機能獲得変異を組み合わせたモデルの重要性が高まっています。

Brennanらは2024年に、TP53が制御する複数の標的遺伝子が腫瘍抑制に果たす役割を解析しました。PUMA、p21、ZMAT3の組み合わせを欠損させたマウスでは、野生型と比べて腫瘍発生頻度が上昇し、欠損遺伝子の組み合わせによって主な腫瘍型が異なることが報告されています。この結果は、p53下流経路が組織や細胞文脈に応じて異なる腫瘍抑制機能を担う可能性を示します。

また、2025年にはSolierらの研究により、ヒトTP53 Y220Cに対応するマウスTrp53 Y217C変異モデルが報告されています。このモデルでは、炎症、ケモカインシグナル、ミトコンドリア機能、クロマチン可塑性に関連する変化が示され、p53変異が単なる機能喪失にとどまらず、腫瘍促進的な機能獲得に関与し得ることが示唆されています。

乳腺組織におけるp53機能についても、ノックアウトマウスやトランスジェニックマウスを用いた研究から、退縮過程、ホルモン制御、背景系統、修飾遺伝子、他の発がんイベントとの協調作用に関する知見が蓄積されています。

Trp53関連マウスモデルのラインアップ

がん研究、発がん性評価、遺伝子相互作用解析、条件付きノックアウト研究では、研究目的に応じて全身性KOモデルまたはfloxモデルを選択することが重要です。以下は、サイヤジェン(Cyagen)が提供するTrp53関連マウスモデルの例です。各モデルの在庫状況や詳細情報は、MouseAtlasで確認できます。

製品名 製品番号 系統名 タイプ
Trp53-KOマウス C001203 C57BL/6JCya-Trp53em1/Cya Trp53遺伝子ノックアウト
Trp53-KOマウス S-KO-05566 C57BL/6JCya-Trp53em1/Cya Trp53遺伝子ノックアウト
Trp53-KOマウス S-KO-05567 C57BL/6JCya-Trp53em1/Cya Trp53遺伝子ノックアウト
Trp53-KOマウス S-KO-16097 C57BL/6NCya-Trp53em1/Cya Trp53遺伝子ノックアウト
Trp53-floxマウス S-CKO-06449 C57BL/6JCya-Trp53em1flox/Cya Trp53条件付きノックアウト
Trp53-floxマウス S-CKO-06450 C57BL/6JCya-Trp53em1flox/Cya Trp53条件付きノックアウト
Trp53-floxマウス S-CKO-06451 C57BL/6NCya-Trp53em1flox/Cya Trp53条件付きノックアウト

関連モデルを用いた発表文献(抜粋)

  1. Zhou L, Tan JH, Zhou WY, Xu J, Ren SJ, Lin ZY, Chen XM, Zhang GW. P53 Activated by ER Stress Aggravates Caerulein-Induced Acute Pancreatitis Progression by Inducing Acinar Cell Apoptosis. Dig Dis Sci. 2020 Nov;65(11):3211-3222. doi: 10.1007/s10620-020-06052-5. PMID: 31974911.

参考文献

  1. Lane DP. Cancer. p53, guardian of the genome. Nature. 1992 Jul 2;358(6381):15-6. doi: 10.1038/358015a0. PMID: 1614522.
  2. Kastenhuber ER, Lowe SW. Putting p53 in Context. Cell. 2017 Sep 7;170(6):1062-1078. doi: 10.1016/j.cell.2017.08.028. PMID: 28886379; PMCID: PMC5743327.
  3. Donehower LA, Harvey M, Slagle BL, McArthur MJ, Montgomery CA Jr, Butel JS, Bradley A. Mice deficient for p53 are developmentally normal but susceptible to spontaneous tumours. Nature. 1992 Mar 19;356(6366):215-21. doi: 10.1038/356215a0. PMID: 1552940.
  4. Donehower LA. Insights into wild-type and mutant p53 functions provided by genetically engineered mice. Hum Mutat. 2014 Jun;35(6):715-27. doi: 10.1002/humu.22507. PMID: 24415648.
  5. Kim U, Kim CY, Oh H, Lee JM, Chang SN, Ryu B, Kim J, Lee HW, Park JH. Phenotyping analysis of p53 knockout mice produced by gene editing and comparison with conventional p53 knockout mice. Genes Genomics. 2019 Jun;41(6):701-712. doi: 10.1007/s13258-019-00785-y. PMID: 30989490.
  6. Pritchard JB, French JE, Davis BJ, Haseman JK. The role of transgenic mouse models in carcinogen identification. Environ Health Perspect. 2003 Apr;111(4):444-54. doi: 10.1289/ehp.5778. PMID: 12676597; PMCID: PMC1241426.
  7. Williams BO, Remington L, Albert DM, Mukai S, Bronson RT, Jacks T. Cooperative tumorigenic effects of germline mutations in Rb and p53. Nat Genet. 1994 Aug;7(4):480-4. doi: 10.1038/ng0894-480. PMID: 7951317.
  8. Brennan MS, Brinkmann K, Romero Sola G, Healey G, Gibson L, Gangoda L, Potts MA, Lieschke E, Wilcox S, Strasser A, Herold MJ, Janic A. Combined absence of TRP53 target genes ZMAT3, PUMA and p21 cause a high incidence of cancer in mice. Cell Death Differ. 2024 Feb;31(2):159-169. doi: 10.1038/s41418-023-01250-w. PMID: 38110554; PMCID: PMC10850490.
  9. Jaber S, Eldawra E, Rakotopare J, Simeonova I, Lejour V, Gabriel M, Cañeque T, Volochtchouk V, Licaj M, Fajac A, Rodriguez R, Morillon A, Bardot B, Toledo F. Oncogenic and teratogenic effects of Trp53Y217C, an inflammation-prone mouse model of the human hotspot mutant TP53Y220C. Elife. 2025 Apr 14;13:RP102434. doi: 10.7554/eLife.102434. PMID: 40223808; PMCID: PMC11996178.
  10. Blackburn AC, Jerry DJ. Knockout and transgenic mice of Trp53: what have we learned about p53 in breast cancer? Breast Cancer Res. 2002;4(3):101-11. doi: 10.1186/bcr427. PMID: 12052252; PMCID: PMC138724.
  11. Attardi LD, Donehower LA. Probing p53 biological functions through the use of genetically engineered mouse models. Mutat Res. 2005 Aug 25;576(1-2):4-21. doi: 10.1016/j.mrfmmm.2004.08.022. PMID: 16038709.

ワンストップ・マウスモデル検索プラットフォーム:MouseAtlas

MouseAtlas(マウスアトラス)は、KOマウスからヒト化マウスまで、遺伝子や製品モデル名で検索できるプラットフォームです。生体マウスか精子凍結状態か、リアルタイムの在庫状況、検証データ、詳細な説明を直感的に確認でき、直接注文も可能です。社内の製品管理システムと連携して常に最新情報が更新されており、現在39,000種類以上のモデルマウスを収録しています。研究者の皆様にとって非常に便利なワンストップソリューションです。

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サイヤジェン(Cyagen)について

Cyagen Biosciences Inc.(「サイヤジェン(Cyagen)」)は2006年、医薬品開発業務受託機関及び細胞関連製品メーカーとして創業しました。現在、世界に1000名以上の社員が勤務しています。本社をアメリカ・カリフォルニア州シリコンバレーに置き、中国の蘇州と広州を製造拠点にしています。2016年に日本支店(サイヤジェン株式会社)を開設しました。遺伝子改変アニマルモデル作製のリーディングカンパニーとして、リーズナブルな価格帯で、高品質の試薬・ツールを提供しています。Cyagenはマウスモデルの提供だけでなく、眼科、神経科学、腫瘍免疫など様々な分野で契約研究機関(CRO)サービスも提供しています。私たちは遺伝性疾患の研究を支援し、遺伝子治療薬の開発を促進することを目指しています。

FAQ:Trp53ノックアウトマウスモデルに関するよくある質問

Trp53ノックアウトマウスはどのような研究に適していますか?

腫瘍発生機構、腫瘍抑制経路、発がん性評価、遺伝子相互作用、Li-Fraumeni症候群に関連するがん素因の研究などに適しています。特にp53機能低下が腫瘍発生や治療応答に与える影響を検証したい場合に有用です。

Trp53-/-とTrp53+/-では表現型に違いがありますか?

一般にTrp53-/-マウスは腫瘍発生が早く、リンパ腫が多く報告されています。Trp53+/-マウスではリンパ腫、軟部肉腫、骨肉腫などが報告され、ヘテロ変異による腫瘍素因を検討する研究に用いられます。

Trp53-floxマウスを選ぶ利点は何ですか?

Creドライバーと組み合わせることで、特定の組織や時期に限定してTrp53を不活化できます。全身性欠損による影響を避けながら、組織特異的なp53機能を解析したい場合に適しています。

背景系統はTrp53モデルの表現型に影響しますか?

影響する可能性があります。腫瘍発生時期、腫瘍型、免疫応答、修飾遺伝子の影響は背景系統によって変化することがあるため、研究目的に応じてC57BL/6J、C57BL/6Nなどの背景情報を確認することが重要です。

Trp53モデルは薬効評価に使えますか?

研究設計によっては、DNA損傷応答、腫瘍抑制経路、発がんリスク、腫瘍進展に対する薬剤効果の評価に利用できます。ただし、評価系の選択、投与条件、観察期間、腫瘍型の解析方法は目的に合わせて最適化する必要があります。

Trp53モデルを他の遺伝子改変マウスと交配する目的は何ですか?

p53経路と他のがん関連遺伝子、DNA損傷応答、細胞周期制御、アポトーシス経路との相互作用を解析するためです。複合変異背景では、腫瘍スペクトラムや発症時期が変化することがあります。

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カタログ番号名称ベース系統研究応用操作
C001203Trp53-KOC57BL/6JCyaTrp53-KO mice are suitable for applications related to the research of familial breast cancer (such as Li - Fraumeni syndrome), as well as the research of lung, brain and bone tumors, lymphomas, leukemias, and other rare cancers.
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