• お問合せフォーム

    通常1〜2営業日以内でご回答いたします。

マウス疾患モデルの構築及び薬物の非臨床試験に関する考え方

シェア Facebook Twitter Line
2021年7月01日

多くの人間の疾患は、遺伝子の突然変異と直接に関係している。研究によると、15000以上の遺伝子突然変異が腫瘍、代謝、神経、循環系などの疾患に関連している。また、これまでに報告されている希少疾患(孤児疾患とも呼ばれる)は7000種以上となり、その80%以上が突然変異と密接に関わっている。遺伝性希少疾患は3.5億以上の人口に影響を及ぼしており、その多くは子供(~ 50%)である。これらの疾患は通常、重篤で、臨床診断や治療が複雑で、また慢性的に進行することが多い。今まで、ほとんどの遺伝性希少疾患(~ 95%)はまだ有効な治療法がない。また、従来の薬物の研究開発と比べると、遺伝性希少疾患の薬物の研究開発投入は比較的に少ない。そのため、遺伝性疾患に対する治療法や薬物の研究開発は、科学者やバイオ製薬業界が非常に関心を持つ分野となっている。しかし、このような遺伝的希少疾患の患者数が少ないため、薬物(孤児薬)研究開発における臨床試験の展開に不利であり、それはこのような薬物の研究開発の課題となっている。

モデル生物の中に、マウスモデルが持つ特有の総合的な優位性は、遺伝学的・生理学的にヒトと似ていることに表れているだけでなく、低コスト、便利に迅速で繁殖・飼育できること、遺伝的背景が明確であること及び、遺伝子編集技術が成熟であることなどの有利な要素が挙げられている。それで、遺伝子機能及び病気を引き起こす過程、ヒトと関連する疾患モデルの構築や薬物の非臨床試験などを含め、生物医学分野の研究にとって最も重要なモデル動物となっている。マウスの疾患モデルを構築することは、原因遺伝子の潜在的なメカニズムを解明することに役立ち、非臨床試験にツールを提供することができ、薬物研究開発の基礎研究と臨床的な疾患治療の適用とがつながる重要な架け橋となる。

 

マウスの疾患モデルは遺伝性疾患の原因遺伝子の発見と検証に役立つ

ここでは、周斌教授が2020年に発表した成功の研究事例を引用し、マウス疾患モデルをトランスレーショナル医療に応用する発想と戦略を簡単に説明する。当研究は臨床患者から潜在的な原因遺伝子をクリーニングし、相応の遺伝子編集技術を通じて人関係疾患の病理的表現型と関連できるマウス疾患モデルを構築し、またそれとヒトの疾患病理症状の特徴と関係の遺伝子を関連付ける。それによって原因遺伝子が疾患の表現型を誘導する作用機序を解明し検証する。

著者はまず、家族性高コレステロール血症の臨床患者の集団から、低密度リポタンパク質受容体(LDLR)の未知の新しい突然変異E207Xをスクリーニングし、またin vitro細胞実験で、突然変異を表現するLDLR遺伝子とその機能変化との相関を確認した。さらにin vivoでこのLDLR遺伝子突然変異と高コレステロール血症/アテローム性動脈硬化との因果関係を確認するために、サイヤジェン株式会社はCRISPR/Cas9の遺伝子編集技術を利用し、著者にLdlr-E208X (ヒトのLDLR-E207Xに対応)点変異マウスモデルをカスタマイズした。研究結果によると、このLdlr-E208X点変異マウスモデルは高脂肪食の誘導で、臨床患者に似ている高コレステロール血症及びアテローム性動脈硬化の表現型を表した。それによって家族性ヒトコレステロール血症及びアテローム性動脈硬化症患者をシミュレーションするマウス疾患モデルを構築し、この疾患の遺伝子治療の非臨床試験は可能となった。

著者は、Ldlr-E208X点変異マウス疾患モデルをもとに、遺伝子編集修復療法でこの疾患を治す可能性と効果を検証した。構築したAAV8ベクターを介したCRISPR/Cas9編集遺伝子を突然変異マウスの肝臓に注射することで、マウス体内の正常なLdlrタンパク質の発現レベルとそれに伴う表現型の変化を観察したところ、Ldlrタンパク質の発現がある程度回復しただけでなく、元の高コレステロール血症とアテローム性動脈硬化の表現型もある程度の改善が確認された。

 

マウス疾患モデルの研究はヒト関連疾患の薬物研究開発の出発点でもある

初期段階の科学的仮説及び疾患に対する潜在的薬物の治療効果の評価は、マウス疾患モデルの構築及び実験室での試験から始まる。CRISPR編集技術の誕生と発展により、遺伝子編集マウス疾患モデルを構築することでヒト関連疾患をシミュレーションすることがより簡単かつ効率的になった。マウス疾患モデルは、脊髄性筋萎縮症(SMA)、遺伝性網膜疾患(IRD)、アルツハイマー病(AD)などの遺伝性に関連する疾患の発症機序の研究や潜在的な薬物の非臨床試験に積極的に役割を果たしている。

ノバルティス社が開発した脊髄性筋萎縮症(SMA)の乳児患者を治療する遺伝子治療法(Zolgensma)は、2019年に米国FDAから承認を取得した。この薬は、承認を取得した初めての1回限りの遺伝子治療法(価格は212.5万ドル)で、現在では最も高価な遺伝子代替治療法の画期的な治療法でもあるので、画期的な意味を持つ。

 SMN遺伝子ノックアウトマウスを利用し、SMAの早期遺伝子治療の効果を確認した結果、SMNノックアウトマウスの生後1日にscAAV9-SMN遺伝子治療を行った場合、SMAマウスの神経筋生理学、運動機能障害及び、生存期間が有意に改善した。生後5日と10日後のマウスに同じ注射治療を行った場合、効果が有意に低下した。遺伝子治療の時期が治療効果と密接に関係していることが示唆されている。

 

眼は遺伝子治療の理想的な標的臓器だと認められている

  1. 眼には緊密な血液網膜関門(BRB)があり、網膜を相対的な免疫特権組織にしている。外来抗原(例え、ウイルスベクターなど)に対して忍容性があり、重度の免疫炎症反応を起こさない。
  2. 眼局所にウイルスベクターを注射するので、ウイルスが広い範囲に拡散するリスクも低く、全身性副作用の発生可能性が低くなる。
  3. 眼の組織が小さいので、必要なウイルスベクターの量も少ない。それで潜在的な毒性副作用も低くなる。
  4. 眼に対する手術は比較的に容易に操作でき、硝子体内や網膜下にウイルスベクターを注射し、標的エリアに達することが容易である。
  5. 網膜細胞は分化細胞と非分裂細胞であり、非統合型ベクター(例えAAV)を利用しても遺伝子導入の紛失も心配しない。
  6. 非侵襲の手段を利用すると、遺伝子治療後の視力機能や網膜構造などの変化を容易に検査できる。
  7. 典型的な遺伝性網膜疾患は両側対称性変性であり、比較治療のデザインが容易である。

 

先天性黒内障(LCA)は眼科疾患を遺伝子治療する場合の理想的な選択肢

光受容(PR)細胞よりもRPE65遺伝子は網膜色素上皮細胞(RPE)層に発現しているため、AAVベクターの効果がより発揮しやすくなる。また、RPE65遺伝子の欠損による重度視力低下は、20 ~ 30年の間に跨り、また網膜構造の変化は比較的に保存的に維持される。これは遺伝子治療が視力回復機能を発揮する良い機会にもなる。2017年、米国FDAは、先天性黒内障(LCA)患者の視力を回復・改善する遺伝子治療法として、スパーク社のAAV-RPE65 (Luxturna)を承認した。この治療法の価格は75万ドル・一眼(150万人/患者)までです。

Rpe65遺伝子ノックアウトマウスのモデルを構築し、先天性黒内障(LCA)マウスの疾患モデルを作製した研究では、マウスの錐体光伝導特異性に関連する遺伝子の発現が有意に低下し、マウスの早期錐体細胞欠損を引き起こし、光受容細胞のバランスが崩れ、網膜細胞が死亡することが発見された。9-または11-シスレチナールを2週齢のRpe65ノックアウトマウスに注射すると、当マウスの注射部位の錐体細胞密度が2倍に増加した。シスレチナールの不足が早期錐体細胞変性に関与している可能性が示唆されている。

 

遺伝性疾患に対する遺伝子治療の主要策略につき

  • DNA遺伝子代替・追加療法:新しい遺伝子を導入し、突然変異遺伝子を代替する。しかし、優性突然変異の場合は、突然変異遺伝子の活性を抑制することが第一の治療策略となる
  • CRISPR/Cas9遺伝子編集療法:変異遺伝子を体内で直接修復することと、患者由来の関連細胞を体外で修復してから、編集した細胞を治療部位に戻し保護することを含む2つの治療策略がある。主要課題:これらの細胞はHDRのメカニズムがないことが多いため、非分裂細胞のゲノム組み換え修復効率を高める方法は課題となる。
  • RNA遺伝子治療法:遺伝子を細胞核に転送する必要がなく、遺伝子が宿主ゲノムに組み込まれるリスクを大幅に低減できるという利点がある。治療策略としては、RNA切断修飾、転写後遺伝子切断及び、RNA編集などがある。主要課題:mRNA転送過程に発生可能の免疫原性を低下させ、安定性を高めること。

 

組換え型AAVウィルスベクターにつき

遺伝子治療の発展は希少疾患の治療に希望を与えている。しかし、実際に人の治療が始まる前に、基礎として多くの前臨床研究が必要となる。その中にベクターの選定、治療策略の決定などが含まれている。現在、体内での遺伝子治療の場合、明らかにアデノ随伴ウイルスが支配的地位を占めている。組換え型AAVウイルスベクターは、現在の遺伝子治療に最も一般的なウイルスベクターである。

利点:通常は明らかな免疫反応を起こさず、宿主ゲノムに組み込まれることもなく、プロモーターの制御で発現する。

欠点:細胞のDNAに組み込まれていないため、細胞が分裂すると紛失されてしまう。

 

AAVベクターは2種類ある:一本鎖AAV (ssAAV)と自己相補的なAAV (scaav)ベクター。ssAAVによって細胞が伝達されると、一本鎖のウイルスDNAがまず二本鎖に変換されてしまう。これは減速のステップで、阻害要因となる。但し、scAAVベクターのウイルスが細胞に感染すると、すぐ自己相補の方式で二本鎖DNAを形成し、ウイルスの複製と遺伝子発現の過程を加速させ、効率を向上した。しかし、scAAVベクターのパッケージング容量はssAAVベクターの半分(~ 2.4kb)にすぎない。これまでに、ヒトと霊長類では12種類以上(約100種類の変異体)のAAVベクターが発見・同定された。このうち血清型2、5、7、8、9が、現在最も一般的なAAVウイルスベクターである。

 

来期内容予告:中編では、マウス疾患モデルを利用した薬物非臨床試験の課題をご紹介しますのでご期待ください

お問合せフォーム
通常1〜2営業日以内でご回答いたします。
マウスモデルカタログ