ノックアウトマウス作成の流れ


ノックアウトマウスとは、特定の遺伝子を置換、欠失、または機能破壊することにより、標的遺伝子の発現または機能を失わせた遺伝子改変マウスです。遺伝子機能解析、疾患発症メカニズムの解明、創薬研究、薬効評価および安全性評価など、基礎研究から前臨床研究まで幅広い領域で利用されています。
標的遺伝子を不活化することで、当該遺伝子が個体発生、生理機能、代謝、免疫応答、神経機能、腫瘍形成などに及ぼす影響を個体レベルで検証できます。そのため、ノックアウトマウスは遺伝子の機能同定やヒト疾患モデルの構築において不可欠な研究ツールの一つです。
ワンストップ・マウスモデル検索プラットフォーム:MouseAtlas
MouseAtlas(マウスアトラス)は、KOマウスからヒト化マウスまで、遺伝子名や製品モデル名で目的のモデルを検索できるプラットフォームです。生体マウスまたは凍結精子での提供可否、リアルタイムの在庫状況、検証データ、モデルの詳細情報を直感的に確認でき、そのままお問い合わせ・ご注文まで進めることができます。社内の製品管理システムと連携して常に最新情報を反映しており、現在39,000種類以上のマウスモデルを収録しています。研究計画の立案からモデル選定までを効率化する、研究者の皆様に有用なワンストップソリューションです。
遺伝子シンボル、疾患領域、表現型、既存モデルの有無などを起点に検索できるため、新規モデルの作製が必要か、既製モデルを利用できるかを早期に判断できます。これにより、研究期間の短縮、コスト削減、実験計画の最適化に貢献します。
ノックアウトマウスの作製フロー
1.ターゲティングベクターを作製する
まず、ノックアウトの対象となる遺伝子および標的領域を決定し、ターゲティングベクターを設計・構築します。従来のES細胞を用いた遺伝子ターゲティングでは、標的遺伝子座と相同な配列を持つホモロジーアームをベクターに組み込み、必要に応じて薬剤選択マーカーやレポーター配列を配置します。ゲノムDNAから目的領域をクローニングする方法、またはPCR法により目的配列を増幅してベクターへ組み込む方法が用いられます。
2.相同組換えES細胞を取得する
構築したターゲティングベクターをES細胞(胚性幹細胞)に導入し、標的遺伝子座で相同組換えが生じた細胞を薬剤選択および分子生物学的解析によりスクリーニングします。得られた陽性クローンは単離・増殖させ、PCR、サザンブロット解析、シークエンシング、核型解析などにより正確な遺伝子改変と染色体の安定性を確認します。ES細胞は多分化能を有するため、胚へ導入することで個体内のさまざまな組織に寄与することができます。
3.キメラマウスを作製する
確認済みのES細胞クローンを胚盤胞へマイクロインジェクションし、その胚盤胞を偽妊娠マウスの子宮へ移植します。着床・発生を経て、ES細胞由来細胞と宿主胚由来細胞の両方を持つキメラマウスが得られます。得られたキメラ個体では、ES細胞が生殖系列へ寄与しているかどうかを評価することが重要です。
4.キメラマウスと野生型マウスを交配する
標的変異を次世代へ伝達させるため、キメラマウスを野生型マウスと交配し、ヘテロ接合性ノックアウトマウスを取得します。その後、ヘテロ接合体同士を交配することで、ホモ接合性ノックアウトマウスを得ることができます。なお、標的遺伝子が胚発生や生存に必須である場合、ホモ接合体が致死となる可能性があるため、コンディショナルノックアウト戦略や組織特異的Creドライバーマウスとの組み合わせが検討されます。
サイヤジェン(Cyagen)のノックアウトマウスモデル作製サービスには、ES細胞を用いた遺伝子ターゲティング技術であるTurboKnockout™と、CRISPR/Cas9を用いた迅速なノックアウトマウス作製技術が含まれます。研究目的、標的遺伝子の構造、必要な改変形式、納期、系統背景などに応じて、最適な作製戦略をご提案します。
TurboKnockout™遺伝子ターゲティングマウス作製サービス
TurboKnockout™は、サイヤジェン(Cyagen)独自のES細胞構築技術と遺伝子改変技術を組み合わせた、効率的な遺伝子ターゲティングマウス作製プラットフォームです。生殖系列伝達能に優れたTurboKnockout™ ES細胞を用いることで、従来法で必要とされるキメラマウスの作製・評価工程を簡略化し、標的遺伝子改変を有するマウスをより効率的に取得できます。特に、大きな領域の置換、正確な挿入、複雑なコンディショナルアレル作製など、精密なゲノム改変が求められる研究に適しています。
本技術では、設計段階からベクター構築、ES細胞ターゲティング、陽性クローンの検証、マウス作製、ファウンダー確認までを一貫して実施します。PCRやサザンブロット解析など複数の検証方法を組み合わせることで、標的遺伝子座における正確な組換えイベントを確認し、信頼性の高いモデル構築を支援します。
TurboKnockout™遺伝子ターゲティング技術によるノックアウトマウス作製フロー:
1. 遺伝子ターゲティング戦略を設計する
標的遺伝子の情報を詳細に解析します。解析対象には、遺伝子構造、エキソン構成、転写産物、機能ドメイン、遺伝子座周辺の遺伝子、既存の動物モデル情報、関連文献情報などが含まれます。
ターゲットES細胞のPCRスクリーニングおよびサザンブロット解析による確認方法を含め、遺伝子ターゲティング戦略を設計します。ノックアウトの目的に応じて、重要エキソンの欠失、開始コドン周辺の破壊、フレームシフト誘導、選択マーカーの配置などを検討します。
設計内容、予想される改変アレル、スクリーニング方法、納品形態を明記した計画案を作成し、お客様にご確認・ご承認いただいたうえでプロジェクトを開始します。
2. TurboKnockout™ターゲティングベクターを構築する
ターゲティングベクターには、標的遺伝子座と相同なホモロジーアーム配列をクローニングし、必要に応じて薬剤耐性遺伝子、レポーター遺伝子、loxP配列、FRT配列などを組み込みます。
構築後のターゲティングベクターは、制限酵素解析およびシークエンシングにより配列と構造の正確性を確認します。これにより、ES細胞導入前の段階で設計通りのベクターが得られていることを検証します。
3. ES細胞ターゲティング
エレクトロポレーションにより、ターゲティングベクターをTurboKnockout™スーパーES細胞へ導入し、薬剤耐性マーカーを利用して候補クローンを選択します。一般的に、サイヤジェン(Cyagen)のES細胞はC57BL/6系統に由来します。また、研究目的に応じてBALB/c由来ES細胞を用いたサービスにも対応可能です。
得られたES細胞クローンに対してPCRスクリーニングを行い、標的遺伝子座で組換えが生じた候補クローンを選別します。
PCR陽性クローンについては、必要に応じてサザンブロット解析やシークエンシングを実施し、ランダム挿入ではなく標的遺伝子座で正確な相同組換えが起きていることを確認します。
さらに、正常な染色体数と核型の維持を確認するため、ES細胞の核型解析を実施します。核型が安定したクローンを用いることで、その後のマウス作製成功率と生殖系列伝達の信頼性を高めます。
4. TurboKnockout™マウスを作製する
検証済みのES細胞を用いて胚操作を行い、偽妊娠マウスへ移植します。得られるF0個体は、TurboKnockout™ ES細胞に由来する標的改変アレルを有するヘテロ接合性マウスとなります。
得られたファウンダーマウスに対してPCRジェノタイピングを行い、標的変異の有無を確認します。必要に応じてシークエンシング解析を追加し、目的の改変が正確に導入されていることを確認したうえで、繁殖・系統確立へ進みます。
CRISPR/Cas9ノックアウトマウス
ヌクレアーゼを用いたゲノム編集技術、特にCRISPR/Cas9は、従来のES細胞を用いた相同組換えに基づくノックアウト動物作製を補完し、より短期間で標的遺伝子を改変できる技術として広く利用されています。マウスゲノム上の特定部位を標的とするgRNAとCas9を受精卵へ同時にインジェクションすると、標的配列でDNA二本鎖切断が生じます。その後、非相同末端結合(NHEJ)などの修復過程で挿入または欠失(indel)が生じることで、フレームシフト変異や早期終止コドンが誘導され、標的遺伝子の機能喪失が期待できます。
切断部位が遺伝子のコード領域に位置する場合、下流の翻訳フレームが乱れ、ノックアウトアレルが形成されます。また、機能的に重要なドメインをコードするエキソンを欠失させる場合には、当該エキソンの上流および下流を標的とする2種類のgRNAとCas9を同時に導入します。これにより、重要領域を欠失させたノックアウトマウス系統を作製できます。CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集では、最短約3か月でファウンダーマウスの取得が可能です。
CRISPR/Cas9法はスピードとコスト面で優れていますが、標的部位の設計、オフターゲット候補の評価、モザイク個体の解析、F1世代でのアレル確認が重要です。サイヤジェン(Cyagen)では、標的遺伝子の構造と研究目的に応じて、最適なgRNA設計、ジェノタイピング方法、繁殖戦略をご提案します。
CRISPR/Cas9ノックアウトマウスの作製フロー:
1.ノックアウト戦略を設計する
ノックアウトをご希望の遺伝子名をご提供いただき、当社にてCRISPR/Cas9を用いたゲノム編集戦略を設計します。標的部位の選定では、ヌクレアーゼ活性を最大化し、オフターゲット効果を最小限に抑えるため、最適化されたアルゴリズムと配列解析に基づいてgRNA候補を評価します。また、必要に応じてCas9およびgRNAの発現ベクターまたはin vitro転写用テンプレートを設計します。ノックアウト成功率を高めるため、通常は少なくとも2か所以上の標的部位を設計し、ファウンダーマウスのスクリーニングに用いるPCRおよびシークエンシングベースのジェノタイピング方法も併せて設計します。
2.ヌクレアーゼ発現ベクターを作製する
ご希望のゲノム編集システムに応じて、ヌクレアーゼまたはgRNAを発現するDNAベクター、あるいはin vitro転写用テンプレートを作製します。必要に応じて、培養細胞を用いた切断活性評価を行い、標的配列に対する編集効率を事前に確認します。
3.マウス受精卵へヌクレアーゼをインジェクションする
ヌクレアーゼ発現ベクターはin vitroで転写し、得られたmRNA産物には哺乳類細胞内での適切な翻訳を促進するため、キャップ構造付加およびポリアデニル化を行います。gRNAについても、標的配列に対応する高品質なRNAを調製します。
in vitroで転写されたヌクレアーゼmRNAおよびgRNAをマウス受精卵へインジェクションし、その受精卵を偽妊娠マウスへ移植して産仔を得ます。ヌクレアーゼ発現ベクターを当社で設計・構築した場合、保証条件を満たすために十分な数の受精卵または標的胚へインジェクションを実施します。ヌクレアーゼ発現ベクターまたはmRNAをご提供いただく場合には、系統やプロジェクト条件に応じて、通常200〜300個以上の受精卵へインジェクションし、目的変異を有するファウンダーのスクリーニングを行います。ファウンダーが得られない場合は、追加インジェクションについてご相談いただけます。
4.ファウンダースクリーニング
得られた産仔がノックアウトマウスのファウンダーであるかを確認するため、PCRによるスクリーニングを実施します。具体的には、ヌクレアーゼの標的部位を含む領域をPCR増幅し、シークエンシングにより挿入・欠失変異や目的エキソン欠失の有無を判定します。少なくとも片アレルにフレームシフトを伴う挿入・欠失変異、または重要エキソンの欠失が認められたマウスは、ノックアウトファウンダー候補とみなされます。場合によっては、両アレルが編集された個体が得られることもあります。
5.F1マウス獲得のための繁殖
プロジェクトによっては、ファウンダーマウスが最終成果物となります。一方で、安定した遺伝的背景で変異アレルを評価するため、F1マウスの取得をご希望されるお客様も多くいらっしゃいます。当社では、野生型マウスと交配可能なファウンダーマウスを選定して繁殖を行い、得られた子孫に対してジェノタイピングを実施します。これにより、目的変異が生殖系列を介して伝達されたF1ノックアウトマウスを取得できます。
以上が、ノックアウトマウスモデル作製サービスの概要です。標的遺伝子の機能解析、疾患モデル作製、薬効評価用モデルの構築、既存モデルの改変など、研究目的に応じた最適なノックアウト戦略をご提案します。
サイヤジェン(Cyagen)株式会社について
サイヤジェン(Cyagen)株式会社は、20年以上にわたり、世界中の数万人の研究者に研究支援サービスを提供してきました。当社の製品・技術は、CNS(Cell、Nature、Science)を含む16,563報以上の学術論文で活用されています。弊社の「ノックアウトマウスライブラリ」は、低価格でご利用いただけるだけでなく、遺伝子名を入力することで、対象モデルの検索からお問い合わせ・ご注文までをスムーズに進めることができます。 ノックアウトマウス、ノックインマウス、コンディショナルノックアウトマウス、トランスジェニックマウス、GFPマウス、免疫不全マウス、無菌マウスなどのカスタムモデル作製サービスに加え、専門の手術・疾患モデルチームにより、多様かつ複雑な小動物手術疾患モデルの作製にも対応しています。




