B6NとB6Jの違い|C57BL/6亜系の遺伝・表現型比較


C57BL/6(B6)マウスは、生物医学研究で広く用いられている近交系実験動物です。C57BL/6J(B6J)はJackson Laboratory(JAX)が樹立したB6の原型となる亜系で、多くの研究で使用されています。現在利用されているほかのB6亜系も、この系統から派生しました。C57BL/6N(B6N)は最初に分離されたB6亜系で、1951年に樹立されました。数百世代にわたる繁殖を経て、B6JとB6Nの間には遺伝的・表現型の差があることが多数の論文で報告され、さまざまな生物学的指標で亜系間の違いが確認されています[1]。研究を始める前に既報の特徴を把握しておくことは、研究目的に合った系統を選ぶ際の参考になります。
本稿では、Genome Biologyに掲載されたSimonらの古典的な亜系比較研究(文献2)を中心に、ほかの研究報告もあわせて紹介します。
B6NとB6Jのゲノム・表現型比較
Simonらは、2つの亜系についてゲノム解析と表現型解析を組み合わせ、配列変異の特徴を明らかにしました。コード配列では、B6JとB6Nの間に34個のコード領域一塩基多型(SNP)と、フレームシフトを起こす2個のコード領域小規模挿入・欠失変異が報告されています。2つの変異はいずれも1塩基欠失で、Crb1およびCilp遺伝子にそれぞれ生じていました[2]。
検証済みのゲノム構造変異(SV)は計43個同定され、そのうち15個が遺伝子領域と重複していました。15個のうち12個は遺伝子の非コード領域にあり、残る3個はコード領域または遺伝子全体に影響していました。該当するのはVmn2r65、Nnt、および遺伝子全体が影響を受けたCyp2a22です。同研究ではB6NとB6Jの遺伝型・表現型が広く調べられています。以下ではこの研究とほかの報告をもとに、両亜系の違いを整理し、系統選択の参考情報を紹介します。
| タンパク質コード遺伝子 | C57BL/6Jのアミノ酸 | C57BL/6Nのアミノ酸 | SNPが特有の系統 | PROVEAN予測(スコア)b | MP用語 | B6J vs B6N2 | B6N vs B6Jc |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Adcy5 | バリン(V) | メチオニン(M) | B6N | 許容 (-1.712) | 協調運動障害_MP:0001405 活動性低下_MP:0001402 | NR NR | P P |
| Pmch | イソロイシン(I) | スレオニン(T) | B6N | 許容 (0.493) | 血中グルコース濃度低下_MP:0005560 耐糖能異常_MP:0005291 酸素消費量増加_MP:0005289 | NR NR NR | A A P |
| Pdzk1 | アスパラギン(N) | アスパラギン酸(D) | B6J | 許容 (0.95) | 血中コレステロール濃度上昇_MP:0001556 | A | NR |
| Nlrp12 | リシン(K) | アルギニン(A) | B6J | 許容 (0.781) | IV型過敏反応異常_MP:0002534 | P | NR |
| Crb1 | - | - | B6N | 光線過敏_MP:0001999 眼底形態異常_MP:0002864 網膜変性_MP:0001326 網膜形態異常_MP:0001325 網膜視細胞層異常_MP:0003728 | NR NR NR NR NR | P P P P P | |
| Chl1 | - | - | B6J | - | 学習/記憶異常_MP:0001449 空間性作業記憶異常_MP:0008428 | A A | NR NR |
| Rptor | - | - | - | - | 除脂肪体重増加_MP:0003960 酸素消費量増加_MP:0005289 活動性低下_MP:0001402 血中グルコース濃度低下_MP:0005560 耐糖能改善_MP:0005292 | P A A P A | NR NR NR NR NR |
| Nnt | - | - | B6J | 耐糖能低下_MP:0005293 | P | NR |
表1. C57BL/6NとC57BL/6Jの表現型差に関連する可能性がある、既報SNPおよびSVの予測機能影響(文献2より)
① 形態学的特徴と眼科表現型
この比較研究では、骨格のX線画像解析で6Nと6Jの明確な差は検出されませんでした。一方、仮想視運動ドラムを用いた検査では、眼科関連の表現型にいくつかの違いが認められました。B6N亜系はB6Jより視力が弱く、B6Nマウスの網膜では白色の斑点状病変が高頻度に観察されました。この病変は同研究のB6Jマウスでは検出されていません。別の研究では、この現象がB6NマウスのCrb1変異と関連する可能性が示されています[3]。
② 代謝
代謝ケージを用いた間接熱量測定では、B6Nマウスと比べてB6Jマウスのガス交換レベルが低く、エネルギー消費(熱産生/代謝率)も低下していました。この差は雌でより顕著でした。腹腔内ブドウ糖負荷試験では、B6Jマウスの耐糖能はB6Nより低いことが示されました。この糖代謝表現型は、B6Jに特有のNnt遺伝子欠失と関連する可能性が報告されています[4]。Nntは膵β細胞のインスリン応答の調節に関与します。
別の研究では、同程度の出生前アルコール曝露を受けた場合、B6J胚はB6N胚より催奇形性に対する感受性が高く、この現象もB6J特有のNnt変異と関連する可能性が示されました[5]。
そのほかにも、複数の生理学的側面でB6NとB6Jの表現型差が報告されています。CCl4誘導NASHモデルでは、B6Jマウスの肝臓でB6Nより強い酸化ストレスと線維化が認められました。高脂肪食誘導NASHモデルでは、B6Jマウスの肝内トリグリセリド沈着は多い一方、体重増加と肝障害の程度はB6Nより低い結果でした[6]。
アルコール摂取行動について、Eriksonらが2022年にNeuropharmacologyで発表した研究では、遺伝的背景が近いB6Jマウスと比べ、B6Nマウスのアルコール摂取量が少ないことが示されました。この結果は味覚感受性とは無関係であり、著者らはB6Nマウスが低エタノール摂取の機序を解析する潜在的なモデルになると述べています[7]。
さらに、PLOS ONEの研究では、B6JとB6Nの代謝関連7組織(iWAT、eWAT、BAT、骨格筋、肝臓、視床下部、海馬)で差次的発現遺伝子(DEG)が解析されました。Nntを含む6個のDEGで亜系間の発現差が認められ、その発現パターンは食餌介入の影響を受けませんでした。Ide、Adss2、Entpd4はB6JでB6Nより有意に高発現し、Nnt、Wdfy1、Dynlt1はB6Jで有意に低発現していました[8]。
③ 神経・行動・感覚
Simonらの研究では、オープンフィールド試験における雄の総移動距離はB6JでB6Nより長く、明暗箱試験でB6Nマウスが暗所へ入るまでの潜時が有意に長かったこととも整合していました。著者らは、この結果から雄のB6Jマウスでは運動能力が高い可能性を示しました。
Toxicsに掲載された別の研究も行動差を報告しています。オープンフィールド試験では、B6J雄の自発活動性はB6N雄より高く、B6J雌は最初の5分間でより高い活動性を示しました。一方、続く20分間ではB6N雌の活動性が高く、著者らはB6N雌が試験装置に適応するまでにB6J雌より時間を要する可能性を推測しています[9]。
Matsuoらは驚愕反応・プレパルス抑制(PPI)試験を独立して行い、B6Nマウスではベースラインの驚愕振幅が低い一方、プレパルス抑制レベルが高いことを示しました。統合失調症モデルなど、PPI機能の低下が予想される変異マウスモデルでは、遺伝的背景としてB6Nを優先的に検討できると著者らは提案しています[10]。
薬物応答に関して、Kumarらが2013年にScienceで発表した研究によると、B6NはCyfip2M1N変異のホモ接合体です。この変異により、運動活性で評価したコカインに対するストレス応答が約45%低下しますが、B6Jにはこの変異がありません[11]。
④ 免疫機能とアレルギー
比較研究で構築されたリステリア感染モデルでは、両亜系の雌マウスはいずれも感染に対する感受性が高く、宿主感受性の性差はB6NでB6Jより小さいことが観察されました。B6J雄と比べ、B6N雄では感染4日目のリステリア排除能が高く、この結果は感染3日目にB6N雄の炎症促進反応がより強かったことと一致します。
著者らは、ジニトロフルオロベンゼン(DNFB)誘導接触性過敏反応(CHS)ではB6Jの応答がより強く、両亜系とも雌のCHS応答は雄より高いことも示しました。また、B6Nと比べB6JのNK細胞は、IL-12単独またはIL-12とIL-2の併用刺激に対する活性化レベルが高く、この応答差は雌でより顕著でした。
2016年にはUllandらが両亜系の免疫系を独立して調べ、B6Nと比べてB6Jでは各種炎症刺激に対する好中球の動員能が低いと報告しました。この免疫表現型はNlrp12のミスセンス変異によるとされ、B6JおよびNLRP12欠損マウスでは好中球の遊走障害を背景に細菌感染への抵抗性が低下していました。著者らは、Nlrp12ミスセンス変異による機能異常があるため、B6JをNLRP12機能研究の対照に使うことは推奨しないと述べています。B6Jまたはその背景のノックアウトマウスを好中球応答・感染防御の実験に使う場合、NLRP12の異常が結果の解釈に影響する可能性があります[12]。

⑤ 心血管
Genome Biologyの古典的研究における非侵襲的血圧測定では、B6Jの収縮期血圧はB6Nより明らかに高く、B6Nの脈拍数はB6Jより有意に高いことが示されました。心臓病理と遺伝子に焦点を当てたWilliamsらの独立研究では、B6Jマウスは18か月齢になっても心筋症を発症しませんでした。一方、B6Nマウスでは加齢に伴って自然発症の心筋症が認められ、この病理表現型はB6JおよびNntを再導入したB6Jマウスには見られませんでした。著者らは、Nntの単独不活化では心筋症は起こらず、B6Nに特有のMylk3ナンセンス変異がB6Nの心筋症に関連すると述べています[13]。

本研究ではB6Nマウスに拡張型心筋症(CM)が観察されました(文献13より)。
⑥ 加齢研究
Ogisoらが2025年にExperimental Animalsで発表した研究では、C57BL/6NCrSlc(B6N)とB6Jの加齢表現型が比較されました。B6J雌では3か月齢から脱毛が高頻度に認められました。24か月齢まではB6Jの生存率が高く、24か月齢以降はB6Nの生存率がB6Jを上回りました。24か月齢まではB6Nの体温が低く、B6Nでは皮膚の潰瘍性感染と肝病変が起こりやすい一方、B6Jでは特に雄で腎障害が多く見られました。著者らは、これらの結果が老齢マウスを老年医学研究に活用する際の参考になるとしています[14]。
研究で系統を選ぶ際の留意点
既報ではC57BL/6NとC57BL/6Jの間に、ゲノム、代謝、免疫、血管生理など複数の側面で系統差が報告されています。NntやCrb1などの代表的な変異で説明できる表現型もありますが、すべての生物学的差を説明できるわけではありません。未解析の遺伝修飾座位も多く、新たな表現型差も継続して報告されています[8]。動物の供給元や性別も表現型の変動を大きくする要因となり、文献で報告された現象の再現性が実験条件によって限られる場合もあります[15]。したがって、既報の亜系差は参考情報として捉え、実際の研究では使用する動物の由来と実験系に応じて検証する必要があります。
参考文献
1. Bryant, C.D., The blessings and curses of C57BL/6 substrains in mouse genetic studies. Ann N Y Acad Sci, 2011. 1245: p. 31-3.
2. Simon, M.M., et al., A comparative phenotypic and genomic analysis of C57BL/6J and C57BL/6N mouse strains. Genome Biol, 2013. 14(7): p. R82.
3. Mattapallil, M.J., et al., The Rd8 mutation of the Crb1 gene is present in vendor lines of C57BL/6N mice and embryonic stem cells, and confounds ocular induced mutant phenotypes. Invest Ophthalmol Vis Sci, 2012. 53(6): p. 2921-7.
4. Freeman, H., et al., Nicotinamide nucleotide transhydrogenase: a key role in insulin secretion. Cell Metab, 2006. 3(1): p. 35-45.
5. Boschen, K.E., et al., Transcriptomic analyses of gastrulation-stage mouse embryos with differential susceptibility to alcohol. Dis Model Mech, 2021. 14(6).
6. Kawashita, E., et al., A comparative analysis of hepatic pathological phenotypes in C57BL/6J and C57BL/6N mouse strains in non-alcoholic steatohepatitis models. Sci Rep, 2019. 9(1): p. 204.
7. Erikson, C.M., et al., Independent of differences in taste, B6N mice consume less alcohol than genetically similar B6J mice, and exhibit opposite polarity modulation of tonic GABA(A)R currents by alcohol. Neuropharmacology, 2022. 206: p. 108934.
8. Nemoto, S., T. Kubota, and H. Ohno, Metabolic differences and differentially expressed genes between C57BL/6J and C57BL/6N mice substrains. PLoS One, 2022. 17(12): p. e0271651.
9. Ashworth, A., et al., Comparison of Neurological Function in Males and Females from Two Substrains of C57BL/6 Mice. Toxics, 2015. 3(1): p. 1-17.
10. Matsuo, N., et al., Behavioral profiles of three C57BL/6 substrains. Front Behav Neurosci, 2010. 4: p. 29.
11. Kumar, V., et al., C57BL/6N mutation in cytoplasmic FMRP interacting protein 2 regulates cocaine response. Science, 2013. 342(6165): p. 1508-12.
12. Ulland, T.K., et al., Nlrp12 mutation causes C57BL/6J strain-specific defect in neutrophil recruitment. Nat Commun, 2016. 7: p. 13180.
13. Williams, J.L., et al., Mylk3 null C57BL/6N mice develop cardiomyopathy, whereas Nnt null C57BL/6J mice do not. Life Sci Alliance, 2020. 3(4).
14. Ogiso, N., et al., Biological characteristics of age-related changes in C57BL/6 mice sub-strains in the national center for geriatrics and gerontology aging farm. Exp Anim, 2025. 74(2): p. 229-238.
15. Sil, A., et al., How stra(i)nge are your controls? A comparative analysis of metabolic phenotypes in commonly used C57BL/6 substrains. PLoS One, 2023. 18(8): p. e0289472.
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