血友病A・B・Cの創薬を支えるヒト化マウスモデルと前臨床CRO


2026年4月17日の世界血友病デーに向けて、医療・研究コミュニティは「Diagnosis: The First Step to Care(診断はケアへの第一歩)」という重要なテーマのもとに連携しています[1]。このテーマは、患者が必要な支援に到達するためには、まず疾患を見つけ、正しく診断することが不可欠であることを示しています。診断の拡大が重要である一方、患者数の把握が進むほど、より有効でアクセスしやすい治療法への需要も高まります。血友病治療は従来の凝固因子補充療法を越えて急速に進歩しており、抗体療法、siRNA治療、遺伝子治療などの革新的な選択肢が登場しています。これらの治療は投与頻度を大幅に減らし、これまで困難と考えられていた活動的な生活を患者が目指せる可能性を広げています。
この進歩を継続するには、ヒトの生物学的特徴をより正確に再現できるヒト化マウスモデルをはじめとする、堅牢な研究ツールが欠かせません。こうしたモデルは、臨床応用前に新規治療薬の安全性と有効性を確認するための信頼性の高い前臨床データを提供します。世界血友病デーを機に、血友病への啓発だけでなく、血友病を希望と可能性に満ちた疾患管理へと変えつつある科学的イノベーションにも注目が集まっています。
図1. 世界血友病デー[1]。
血友病A・B・C:遺伝学的原因と凝固機構の理解
血友病は、血液凝固カスケードを構成する重要なタンパク質の欠乏によって生じる遺伝性出血性疾患です。主に内因系凝固経路が影響を受け、通常であれば血管損傷後に特定の凝固因子がトロンビン生成を増幅し、フィブリン血栓を安定化させます[2]。
正常な止血では、少量のトロンビン生成をきっかけとして、血小板表面上で内因系テンナーゼ複合体が活性化されます。この複合体はトロンビン産生を指数関数的に増幅し、フィブリノゲンを安定したフィブリン血栓へ変換します。血友病では、この増幅段階が変異によって障害され、トロンビンが十分に産生されません。その結果、血小板血栓は脆弱なままとなり、関節や筋肉で長引く出血または自然出血が生じます[3]。
血友病はX連鎖劣性遺伝形式を示し、主に男性に発症し、女性は一般に保因者となります[4]。重症度は残存凝固因子活性と相関し、重症型(活性1%未満)では頻回の自然出血、中等症(1~5%)では外傷を契機とした出血、軽症型(5%超)では主に手術や外傷後の出血がみられます[3]。分子レベルでは、反転、点変異、欠失など2,000種類以上の変異が同定されており、それぞれがタンパク質の合成、分泌、機能を障害します[5]。この機序から、血友病はタンパク質分解カスケードにおける酵素増幅の破綻を示す代表的疾患モデルといえます。
図2. 血友病における凝固異常[6]。
比較病態生理:第VIII因子、第IX因子、第XI因子
血友病は、内因系凝固経路における障害因子に基づいて3つのタイプに分類されます。最も一般的な血友病Aは第VIII因子の欠乏によって生じ、血友病Bは第IX因子の不足によって生じます。第VIII因子および第IX因子の遺伝子はいずれもX染色体上に位置するため、これらのタイプは主に男性に発症します。血友病Cは第XI因子に関わる常染色体劣性疾患であり、男女ともに発症し得ますが、凝固過程のより上流に位置するため、症状は比較的軽いことが多いとされています[7]。
図3. 血友病の種類[8]。
これらの欠乏による臨床的影響は、安定した血栓形成に必要なトロンビンバーストに集中しています。正常な凝固系では、初期のわずかなトロンビン生成が内因系を動員し、第XIa因子が第IX因子を活性化します[9]。第IX因子は活性化第VIII因子と結合してテンナーゼ複合体を形成します。この生物学的増幅装置は血小板表面で第X因子の活性化を最大100万倍まで高め、フィブリノゲンを強固なフィブリン網へ変換するために必要な大量のトロンビンを生み出します[10]。
血友病AおよびBでは、この増幅エンジンが機能しません。テンナーゼ複合体が十分に形成されなければ、安定した足場を作るためのトロンビンを十分に産生できず、容易に崩壊する脆弱な血栓となります。血友病Cが一般に比較的軽症であるのは、第XI因子が二次的なフィードバックループとして機能し、他の経路が多くの状況で十分なトロンビン生成を補えるためです[11]。最終的に、各タイプの重症度は、このトロンビン生成エンジンがどの程度制限されているかによって左右されます。
図4. 血友病A、血友病Bおよびフォン・ヴィレブランド病の病態生理[12]。
遺伝子治療、抗体ミメティクス、siRNAが変える血友病治療
血友病A、B、Cの治療は、改良型凝固因子補充療法、遺伝子治療、抗体ベース戦略の統合によって大きく変化しています。これらのイノベーションの評価には、重度出血表現型を再現するF8、F9、F11ノックアウト(KO)マウスなどの専門的な前臨床ツールが用いられます。さらに、ヒト遺伝子またはヒト免疫成分を発現するヒト化モデルは、ヒトにおける薬物動態、有効性、免疫原性を予測する上で重要です[13]。
図5. hF9モデルはヒト様の第IX因子発現レベルを示す[13]。
凝固因子補充療法は依然として基盤的治療であり、組換え製剤や半減期延長型濃縮製剤により予防的な出血管理が可能になっています。しかし、生涯にわたる静脈内投与が必要であることは大きな治療負担であり、ブレイクスルー出血のリスクも残ります[14]。
遺伝子治療では、valoctocogene roxaparvovecやetranacogene dezaparvovecのようなAAVベース治療が大きな成果を上げてきました。これらの治療は安定した凝固因子レベルを提供し、出血率を90%低下させたと報告されています[15]。一方で、F8およびF9 KOマウスで最適化されてきたにもかかわらず、免疫関連のトランスアミナーゼ上昇や凝固因子レベルの低下など、重要な課題が残っています。2025~2026年にBeqvezおよびRoctavianが撤退したことに示されるように、市場面・臨床面の課題が続く中、患者反応をより適切に予測するヒト化モデルの必要性は高まっています[16-17]。
emicizumabに代表される抗体およびリバランシング療法は、皮下投与の利便性と高い患者満足度をもたらしました。marstacimab(Hympavzi)やfitusiran(siRNA、Qfitlia)などの新しい薬剤は、その利点を血友病AおよびBの双方へ広げ、最長2か月ごとの投与で出血を有意に低減します[18]。一方、血友病Cは一般に軽症であり、現在も第XI因子補充または支持療法が中心で、専用の抗体療法はまだ確立されていません。ただし、F11 KOマウスは機序研究および有効性評価を支えるモデルとして利用されています。
図6. 血友病治療[18]。
Cyagenの血液学マウスモデル:血友病研究を支える強力なツール
血友病の病態研究と治療開発を前進させるため、サイヤジェン(Cyagen)は血友病A、B、C研究に対応する多様なマウスモデルを提供しています。
たとえば、huF9ヒト化マウスモデル(製品番号:C001644)は、遺伝子編集によりマウスF9遺伝子をヒトF9遺伝子へ完全置換したモデルです。さらに、血友病の遺伝的特徴を再現するノックアウトモデルの開発にも注力しており、疾患研究および医薬品開発に適したツールを提供しています。
| 製品名 | 製品番号 | 研究用途 |
|---|---|---|
| huF9ヒト化マウス | C001644 | 第IX因子発現、血友病B関連治療、遺伝子治療および抗体・siRNA治療の前臨床評価 |
| hF11マウス | C001272 | 第XI因子関連凝固機能、血友病Cおよび凝固カスケード調節薬の研究 |
代表的な検証データの一部を以下に示します。詳細は各品系の仕様書をご参照ください。
ヒト第IX因子タンパク質発現の検出
ELISAの結果、雌雄のhuF9マウス血漿中のヒト第IX因子発現は、野生型マウスより有意に高いことが示されました(n=5、バーは平均±SD)。
図7. 6週齢の野生型(WT)およびhuF9マウス血漿におけるヒト第IX因子発現の検出。
huF9の凝固検査
雌雄のhuF9マウスでは、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、プロトロンビン時間(PT)、トロンビン時間(TT)、フィブリノゲン(FIB)の各指標において、野生型マウスと比較して統計学的に有意な差は認められませんでした(nhuF9=5、nWT=4、バーは平均±SEM)。
図8. 6週齢の野生型(WT)およびhuF9マウスにおける凝固パラメータ比較。
hF11の凝固検査
雌のhF11マウスでは、APTTに個体差がみられるものの、PT、FIB、TT、APTTは野生型対照と比較して有意差を示しませんでした。雄のhF11マウスでもPTおよびAPTTは同程度でしたが、野生型マウスと比較してTT延長およびFIB低下が認められました。
図9. 6週齢の野生型(WT)およびhF11マウスにおける凝固パラメータ比較。
血友病R&Dを加速するモデルとCROサービス
世界血友病デー2026が「Diagnosis: The First Step to Care」を強調する中、医療・研究分野は従来の凝固因子補充療法から、遺伝子治療や抗体ミメティクスなどの変革的治療へ移行し続けています。これらの「機能的治癒」に近づく治療の長期的成功には、先進的なノックアウトおよびヒト化マウスモデルを用いた厳密な前臨床検証が不可欠です。ヒト凝固カスケードと免疫応答をより正確に再現することで、Cyagenの専門モデルは、血友病A、B、Cに対する治療の最適化を高精度に支援します。早期診断と堅牢な科学的イノベーションを組み合わせることが、血友病を長期安定管理が可能な疾患へ進化させる鍵になります。
ワンストップ・マウスモデル検索プラットフォーム:MouseAtlas
MouseAtlas(マウスアトラス)は、KOマウスからヒト化マウスまで、遺伝子や製品モデル名で検索できるプラットフォームです。生体マウスか精子凍結状態か、リアルタイムの在庫状況、検証データ、詳細な説明を直感的に確認でき、直接注文も可能です。社内の製品管理システムと連携して常に最新情報が更新されており、現在39,000種類以上のモデルマウスを収録しています。研究者の皆様にとって非常に便利なワンストップソリューションです。
サイヤジェン(Cyagen)について
Cyagen Biosciences Inc.(「サイヤジェン(Cyagen)」)は2006年、医薬品開発業務受託機関及び細胞関連製品メーカーとして創業しました。現在、世界に1000名以上の社員が勤務しています。本社をアメリカ・カリフォルニア州シリコンバレーに置き、中国の蘇州と広州を製造拠点にしています。2016年に日本支店(サイヤジェン株式会社)を開設しました。遺伝子改変アニマルモデル作製のリーディングカンパニーとして、リーズナブルな価格帯で、高品質の試薬・ツールを提供しています。Cyagenはマウスモデルの提供だけでなく、眼科、神経科学、腫瘍免疫など様々な分野で契約研究機関(CRO)サービスも提供しています。私たちは遺伝性疾患の研究を支援し、遺伝子治療薬の開発を促進することを目指しています。
参考文献
[1] World Federation of Hemophilia. World Hemophilia Day 2026 theme revealed. https://wfh.org/article/world-hemophilia-day-2026-theme-revealed/. Published October 1, 2025. Accessed April 8, 2026.
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[17] Becker Z. BioMarin pulls hemophilia gene therapy Roctavian. Fierce Pharma. 2026.
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