マーカーだけでは分からない免疫細胞の違い: 免疫ツールマウス選択ガイド


マーカーひとつでは見分けにくい免疫細胞
免疫細胞は種類が多く、複雑な細胞集団の中から目的のサブセットを見分けることは、多くの免疫学研究における課題です。
研究では、細胞マーカー(Marker)を用いて免疫細胞を識別します。例えば、F4/80はマウスの組織マクロファージの識別に広く使われ、CD11bは単球、マクロファージ、好中球などの骨髄系細胞によく見られます。CD11cは樹状細胞(DC)のマーカーとしてよく用いられます。一方、単球、マクロファージ、樹状細胞には表現型の重なりがあるため、単一のマーカーだけでは細胞集団を十分に区別できない場合があります[1]。

(a)形質細胞様樹状細胞(pDC)、(b)1型通常型樹状細胞(cDC1)、(c)2型通常型樹状細胞(cDC2)の主な表面マーカー、病原体センサー分子および機能的特徴[2]。
免疫ツールマウスの選び方
サイヤジェンの免疫ツールマウスには、細胞特異的ドライバー、蛍光レポーター、DTRを用いた細胞除去など、複数のツールがあります。研究目的に合った系統を選ぶ際は、次の三つの点を確認します。
三つのステップで選ぶ
- 目的の細胞を明確にする:組織マクロファージ、樹状細胞、それともT・B・NK細胞を対象としますか?
- 実験目的を明確にする:遺伝子操作、蛍光シグナルの観察、または標的細胞の除去が必要ですか?
- 適用条件を確認する:細胞のカバー範囲、遺伝的背景、誘導の要否、検証データを確認します。
代表的なツールの使い分け:Cre/Dreドライバー系統は特定細胞に関連する遺伝子操作に、蛍光レポーター系統は蛍光シグナルによる標的細胞や関連遺伝子の発現観察に用いられます。DTRツールは、必要な発現条件を満たしたうえでジフテリア毒素(DT)を組み合わせ、標的細胞の除去を検討する研究に用いられます。
単球・マクロファージ:骨髄系マーカーから細胞サブセットへ
組織や由来によってマクロファージのマーカーと機能は異なり、すべてのマクロファージが同じ集団に属するわけではありません。肝臓では、Kupffer細胞と単球由来マクロファージをCD163、TIMD4、MARCOなどのマーカーで区別できます[3]。
| ツールタイプ | 製品番号 | 製品名 | 主な対象細胞 |
|---|---|---|---|
| Cre/Dreドライバー | C002216 | C3ar1-CreERT2 | C3AR1陽性マクロファージ、好酸球など |
| Cre/Dreドライバー | C002221 | Cd163-CreERT2 | マウスCD163陽性の組織常在性マクロファージ(脾臓赤脾髄マクロファージ、Kupffer細胞など) |
| Cre/Dreドライバー | C002227 | Clec7a-P2A-CreERT2 | CLEC7A/Dectin-1陽性マクロファージ、樹状細胞、好中球などの骨髄系細胞 |
| Cre/Dreドライバー | C002340 | Timd4-P2A-iCre | TIMD4陽性の一部の組織常在性マクロファージ(Kupffer細胞など) |
| Cre/Dreドライバー | I001082 | Ltb4r1-P2A-Cre | LTB4R1陽性の好中球、好酸球、エフェクターT細胞など |
| Cre/Dreドライバー | C002049 | Ms4a3-IRES-iCre | 顆粒球・単球前駆細胞(GMP)および下流の骨髄系細胞(好中球、単球など)。リンパ球と樹状細胞は標識しません[4] |
| 蛍光レポーター | C002048 | Ms4a3-IRES-tdTomato | |
| 蛍光レポーター | I001172 | Cd68-P2A-iCre | CD68陽性の単球・マクロファージなどの骨髄系細胞 |
| 蛍光レポーター | C001734 | Cd68-P2A-CreERT2 | |
| 蛍光レポーター | C002284 | Mrc1-P2A-EGFP | MRC1/CD206陽性の組織マクロファージおよび一部の樹状細胞 |
| ドライバー+蛍光レポーター | C001999 | Mrc1-iCre-tdTomato | |
| ドライバー+蛍光レポーター | C002217 | C5ar1-P2A-iCre-T2A-EGFP | C5AR1陽性の好中球、単球/マクロファージなどの骨髄系細胞 |
| ドライバー+蛍光レポーター | C002252 | Gpr84-P2A-CreERT2-T2A-EGFP | GPR84陽性の単球、マクロファージ、好中球、小膠細胞など |
| ドライバー+蛍光レポーター | C002282 | Marco-EGFP-P2A-CreERT2 | MARCO陽性の脾臓辺縁帯マクロファージなど、一部の組織マクロファージ |
| 細胞除去 | C001750 | Cd68-LSL-DTR | CD68陽性の単球・マクロファージなどの骨髄系細胞 |
| 蛍光レポーター+細胞除去 | C001672 | Retnlg-P2A-DTR-EGFP | RETNLG陽性の顆粒球(主に好中球) |
樹状細胞と抗原提示:幅広いDCマーカーから特定サブセットへ
CD11cは樹状細胞の識別に広く用いられますが、CD11cだけでは各サブセットを十分に区別できません。例えば、XCR1は1型通常型樹状細胞(cDC1)を示すマーカーとして利用できます。ZBTB46は通常型樹状細胞(cDC)とその系統決定済み前駆細胞の識別に用いられますが、形質細胞様樹状細胞(pDC)は標識しません[5–6]。
| ツールタイプ | 製品番号 | 製品名 | 主な対象細胞 |
|---|---|---|---|
| Cre/Dreドライバー | C001573 | Xcr1-IRES-iCre | XCR1陽性1型通常型樹状細胞(cDC1) |
| Cre/Dreドライバー | C001574 | Zbtb46-IRES-iCre | 通常型樹状細胞(cDC)およびその系統決定済み前駆細胞 |
| Cre/Dreドライバー | C001575 | Zbtb46-P2A-CreERT2 | |
| Cre/Dreドライバー | C002352 | Zbtb46-IRES-DreERT2 | |
| Cre/Dreドライバー | C001662 | Itgax-Dre | CD11c陽性の樹状細胞、単球、マクロファージ、顆粒球など |
| Cre/Dreドライバー | C002272 | Itgax-DreERT2 | |
| Cre/Dreドライバー | C002255 | H2-Aa-P2A-iCre | MHC-II陽性の抗原提示細胞(樹状細胞、B細胞、マクロファージなど) |
| Cre/Dreドライバー | C001979 | Ciita-P2A-iCre | CIITA/MHC-II関連の抗原提示細胞(樹状細胞、B細胞、マクロファージなど) |
T・B・NK細胞:主要なリンパ球集団に焦点を当てる
リンパ球は系統マーカーや機能的特徴が異なります。GZMBは細胞傷害性リンパ球に関連し、IFN-γはTh1、一部の活性化CD8 T細胞、NK細胞で見られます。CD19、MB1、CD23は、それぞれ異なるB細胞集団の研究に利用できます。
| ツールタイプ | 製品番号 | 製品名 | 主な対象細胞 |
|---|---|---|---|
| Cre/Dreドライバー | C002224 | Cd8a-IRES-CreERT2 | CD8α陽性T細胞。一部のcDC1もCD8αを発現します |
| Cre/Dreドライバー | I001090 | Rosa26-Cd8a-Cre | |
| Cre/Dreドライバー | C001907 | H11-E8I-Cd8a-iCre(BALB/c) | |
| Cre/Dreドライバー | C002254 | Gzmb-P2A-iCre | GZMB陽性のエフェクターCD8 T細胞、NK細胞および一部のNKT細胞 |
| Cre/Dreドライバー | C002266 | Il5-iCre | IL-5発現細胞(2型自然リンパ球(ILC2)、Th2細胞など) |
| Cre/Dreドライバー | I001173 | Klrd1-P2A-iCre | KLRD1/CD94陽性のNK細胞および一部の活性化CD8 T細胞 |
| Cre/Dreドライバー | C002291 | Ncr1-IRES-CreERT2 | NK細胞および一部のNKp46陽性自然リンパ球 |
| Cre/Dreドライバー | C002223 | Fcer2a-P2A-iCre | CD23陽性の成熟濾胞性B細胞 |
| Cre/Dreドライバー | C001741 | Cd19-P2A-iCre | CD19陽性のBリンパ球系細胞 |
| Cre/Dreドライバー | I001184 | Cd19-Cre(2) | |
| Cre/Dreドライバー | C001552 | Mb1-iCre | CD79A(MB1)陽性のBリンパ球系細胞。初期B細胞の発生段階で活性が高い |
| 蛍光レポーター | C002265 | Ifng-IRES-EYFP | IFN-γ発現細胞(Th1、一部のエフェクターCD8 T細胞、NK細胞など) |
| ドライバー+蛍光レポーター | C002233 | Cxcr3-EGFP-T2A-CreERT2 | CXCR3陽性の活性化Th1、エフェクターCD8 T細胞、NK細胞など |
| ドライバー+蛍光レポーター | C002344 | Trbc1-P2A-CreERT2-T2A-EGFP | TRBC1陽性のαβT細胞サブセット |
| 細胞除去 | C002334 | Tbx21-LSL-P2A-DTR | T-bet関連細胞(Th1、一部のエフェクターCD8 T細胞、NK/ILC1など) |
使用上の注意:CreERT2およびDreERT2系統では通常タモキシフェンによる誘導が必要です。LSL-DTRなどの系では、まず対応するCre組換え条件を満たし、その後DTを投与します。
対象細胞を決めてから適切なツールを選ぶ
免疫ツールマウスは、まず対象となる細胞を定め、次に実験目的に応じてドライバー、蛍光レポーター、細胞除去ツールを選択します。
- 1型通常型樹状細胞(cDC1)を研究する場合:Xcr1-IRES-iCreを候補として検討できます。
- 組織常在性マクロファージを研究する場合:対象集団に応じて、Cd163-CreERT2、Timd4-P2A-iCre、Marco-EGFP-P2A-CreERT2などを比較できます。
- NK細胞を研究する場合:Ncr1-IRES-CreERT2、Klrd1-P2A-iCreを候補とし、標識される細胞範囲も踏まえて選択します。
- B細胞系統を研究する場合:発生段階と実験目的に応じて、Cd19、Mb1、Fcer2a関連のツールを比較します。
同じマーカーが複数の細胞集団をカバーする場合がある一方、同じ細胞集団でも組織、発生段階、炎症状態によって発現特性が異なることがあります。実際の使用前に、系統の構築情報を確認してください。
サイヤジェンでは免疫ツールマウスのラインアップを拡充しています。対象細胞や研究分野に応じた製品情報と検証資料をご確認ください。
参考文献
- [1]Guilliams M,Ginhoux F,Jakubzick C,et al.Dendritic cells,monocytes and macrophages:a unified nomenclature based on ontogeny.Nat Rev Immunol.2014;14(8):571–578.doi:10.1038/nri3712.
- [2]Collin M,Bigley V.Human dendritic cell subsets:an update.Immunology.2018;154(1):3-20.doi.org/10.1111/imm.12888
- [3]Nusse Y,Kubes P.Liver macrophages:development,dynamics,and functions.Cell Mol Immunol.2025;22:1178–1189.doi:10.1038/s41423-025-01298-3.
- [4]Liu Z,Gu Y,Chakarov S,et al.Fate Mapping via Ms4a3-Expression History Traces Monocyte-Derived Cells.Cell.2019;178(6):1509–1525.e19.doi:10.1016/j.cell.2019.08.009.
- [5]Anderson DA III,Murphy KM,Briseño CG.Development,Diversity,and Function of Dendritic Cells in Mouse and Human.Cold Spring Harb Perspect Biol.2018;10(11):a028613.doi:10.1101/cshperspect.a028613.
- [6]Satpathy AT,KC W,Albring JC,et al.Zbtb46 expression distinguishes classical dendritic cells and their committed progenitors from other immune lineages.J Exp Med.2012;209(6):1135–1152.doi:10.1084/jem.20120030.
よくある質問
Q1. 免疫細胞の識別に単一のマーカーだけでは不十分なのはなぜですか?
単球、マクロファージ、樹状細胞などでは表現型が重なることがあり、同じ細胞でも組織や状態によってマーカー発現が異なります。複数のマーカーと機能的特徴をあわせて確認することが大切です。
Q2. 免疫ツールマウスはどのような基準で選べばよいですか?
対象細胞、遺伝子操作・蛍光観察・細胞除去などの実験目的、細胞カバー範囲や遺伝的背景、誘導条件、検証データを確認して選択します。
Q3. CreERT2やDreERT2マウスでは誘導が必要ですか?
通常はタモキシフェンによる誘導が必要です。具体的な条件は各系統の構築情報と検証資料をご確認ください。
Q4. LSL-DTR系統で標的細胞を除去するには何が必要ですか?
まずCreによる組換え条件を満たし、DTRの発現が可能な状態にした後、ジフテリア毒素(DT)を組み合わせて細胞除去を検討します。
Q5. cDC1の研究ではどのマウスを検討できますか?
本文では、XCR1陽性cDC1を対象とするツールの例としてXcr1-IRES-iCreを紹介しています。
本記事のテーマに関連するサイヤジェンのマウスモデル
| カタログ番号 | 名称 | ベース系統 | 操作 |
|---|---|---|---|
| I001172 | Cd68-P2A-iCre | C57BL/6JCya | |
| I001173 | Klrd1-P2A-iCre | C57BL/6JCya | |
| C001552 | Mb1-iCre | C57BL/6JCya | |
| I001184 | Cd19-Cre(2) | C57BL/6JCya | |
| C001573 | Xcr1-IRES-iCre | C57BL/6JCya | |
| C001574 | Zbtb46-IRES-iCre | C57BL/6JCya | |
| C001575 | Zbtb46-P2A-CreERT2 | C57BL/6JCya | |
| C001672 | Retnlg-P2A-DTR-EGFP | C57BL/6JCya | |
| C001734 | Cd68-P2A-CreERT2 | C57BL/6JCya | |
| I001082 | Ltb4r1-P2A-Cre | C57BL/6JCya | |
| I001090 | Rosa26-Cd8a-Cre | C57BL/6JCya | |
| C001741 | Cd19-P2A-iCre | C57BL/6JCya | |
| C001750 | Cd68-LSL-DTR | C57BL/6JCya | |
| C001979 | Ciita-P2A-iCre | C57BL/6JCya | |
| C001907 | H11-E8I-Cd8a-iCre(BALB/c) | BALB/cAnCya | |
| C001999 | Mrc1-iCre-tdTomato | C57BL/6JCya | |
| C002049 | Ms4a3-IRES-iCre | C57BL/6JCya | |
| C002048 | Ms4a3-IRES-tdTomato | C57BL/6JCya | |
| C002252 | Gpr84-P2A-CreERT2-T2A-EGFP | C57BL/6Cya | |
| C002284 | Mrc1-P2A-EGFP | C57BL/6Cya | |
| C002217 | C5ar1-P2A-iCre-T2A-EGFP | C57BL/6Cya |



