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神経科学

Tau標的AD創薬の転換点:Morphomer®小分子とTauヒト化モデル

Cyagen Technical Content Team | April 10, 2026
検証済みhuTau-P301Lヒト化マウスモデルをご紹介
中枢神経系(CNS)への薬物送達、Tau標的化、および治療効果の評価を最適化します。
検証済みhuTau-P301Lヒト化マウスモデルをご紹介
目次
01. Tau病理:アルツハイマー病治療の重要な突破口 02. Tau標的薬開発の進展と中核戦略 03. サイヤジェンのTauヒト化モデル:ヒトAD病理を精密に再現 04. まとめ 05. ワンストップ・マウスモデル検索プラットフォーム:MouseAtlas 06. サイヤジェン(Cyagen)について 07. FAQ 08. 参考文献

2026年2月19日、Johnson & Johnsonは、AC Immuneと共同開発していた抗Tau免疫療法ACI-35.030(JNJ-2056)について、第2b相Retain試験における新規患者登録を停止すると発表しました。AC Immuneは、この自主的な一時停止は新たな安全性所見に起因するものではなく、試験継続に必要な免疫原性基準も達成されていると説明しましたが、同日の同社株価は10%下落しました[1]。

市場が慎重な見方を示すなか、Eli Lillyは2026年4月7日、2018年の原契約を基盤としたAC Immuneとの提携拡大を発表し、アルツハイマー病(AD)およびその他の神経変性疾患領域における共同開発を強化しました。提携の中心となるのは、細胞内Tauタンパク質を標的とするMorphomer®小分子凝集阻害剤です。両社は、2026年上半期に新薬臨床試験開始届(IND)申請の準備を開始する予定です[2]。この候補化合物は経口投与が可能で、血液脳関門(BBB)を効率的に通過し、病的コンフォメーションを持つTauタンパク質に選択的に結合することを目指しています。高いBBB通過性は、逆風下でもLillyがTau領域への投資を継続する重要な理由となっています。

この研究領域を支えるため、サイヤジェン(Cyagen)はhuTFRC/huTau二重標的ヒト化マウスモデル(製品番号:C001923)を開発しました。このモデルは、完全長のヒトMAPT遺伝子(イントロンおよび3'UTRを含む)と、ヒトTFRC遺伝子の細胞外ドメインコード配列を導入しており、従来モデルと異なり、ヒトTauタンパク質の複数スプライシングアイソフォーム(3Rおよび4R)を生理的に発現します。さらに、P301L(C001835)およびP301S(C001836)病理変異を持つTauヒト化モデルと、それぞれに対応するTFRC組み合わせモデルも整備しています。これらのモデルは、Tauタンパク質のリン酸化・凝集、神経細胞構造の乱れ、記憶機能障害などの主要病理を再現します。BBB薬物送達の協調標的であるTFRCとMAPTを組み合わせることで、TFRC/MAPT標的治療法の開発に適した信頼性の高い前臨床研究プラットフォームを提供します。

Morphomer®小分子免疫療法アプローチ
経口投与が可能注射または点滴など侵襲的投与
中枢神経系への高い移行性中枢神経系への移行は限定的
細胞膜透過性を有する細胞外標的化においてMorphomer®を補完
細胞内外の病理を標的化—

表1. AC ImmuneのMorphomer®技術プラットフォームと免疫療法薬の比較[3]。

Tau病理:アルツハイマー病治療の重要な突破口

アルツハイマー病(AD)領域では、長年にわたりβアミロイド(Aβ)が中心的な研究標的とされてきました。しかし、LecanemabやDonanemabに代表されるAβ標的療法は、疾患進行を一定程度遅らせることはできるものの、神経変性変化そのものを根本的に阻止するには限界があります。そのため、研究開発の焦点は、単一のAβ標的から、より広範な病理機序、特にTauタンパク質へと移行しつつあります[4]。

ADの病理過程では、βアミロイドとTauタンパク質は互いに独立した病因ではなく、疾患進展の連鎖を構成する重要な要素です。βアミロイド沈着は早期の誘因とみなされることが多く、脳内で形成される病理斑は神経炎症と細胞毒性損傷のカスケードを引き起こします。一方、Tauタンパク質は異常リン酸化と異常凝集を通じて神経細胞骨格を破壊し、神経原線維変化を形成します。これらのTau病理は、認知機能低下との関連がより強いと考えられています。

この理解に基づき、研究領域では疾患の終末経路により近いTau標的への注目が高まっています。これは、AD治療がより多様なアプローチへ進みつつあることを示しています。Tauタンパク質を対象とする研究では、Tau病理を精密に再現する動物モデルが不可欠な基盤となります。

アルツハイマー病治療の変遷:AβからTauへ

図1. アルツハイマー病治療の変遷:AβからTauへ[4]。

Tau標的薬開発の進展と中核戦略

現在、Tauタンパク質を標的とする治療研究は多様な戦略に広がっています。アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)やsiRNAなどの遺伝子サイレンシング技術、ワクチン、抗体医薬、PROTAC、酵素阻害剤などが含まれます。なかでもASO薬BIIB080は、初期試験で可溶性Tauと凝集Tauの双方を有意に低下させ、後続試験を加速するためのファストトラック指定を受けています[5]。また、抗体医薬bepranemabは第2相試験において、すべての事前設定エンドポイントを満たしたわけではないものの、特定の患者群で認知機能低下を遅らせる進展を示しました[6]。一方、初期の複数のN末端抗体は、標的領域の選択が適切でなかったため、疾患進行を十分に阻止できず、大きな開発上の挫折を経験しました[4]。

これらの進展は、成功するTau標的療法には三つの中核要素が必要であることを示しています。第一に、病理的に重要なTauコンフォメーションを精密に標的化すること、第二に、先進的な脳画像技術を用いて適切な患者を選択すること、第三に、臨床的に意味のある機能改善を実現できる十分な薬効を確保することです。Eli LillyとAC Immuneが共同開発する抗Tau小分子薬は、この戦略を体現する候補です。この薬剤は高いBBB通過性を目指して設計され、細胞内外のTau病理に同時に対応することを狙っています。AC Immuneの小分子候補は、Tg4510マウスモデルにおいてTau凝集体を有意に減少させ、明確な神経保護作用を示しました[7]。この前臨床結果は、Lillyが提携を拡大した重要な要因となりました。薬物開発において、Tg4510などのマウスモデルはTau病理の脳内伝播を模倣し、機序研究とヒト臨床試験をつなぐ重要な橋渡し役を担っています。

臨床試験におけるTau標的療法の分類

図2. 臨床試験におけるTau標的療法の分類[8]。

サイヤジェンのTauヒト化モデル:ヒトAD病理を精密に再現

Tau標的創薬への需要拡大に対応するため、サイヤジェン(Cyagen)はTauヒト化マウスモデルシリーズを開発しました。

その代表例であるhuTau-P301Lマウス(製品番号:C001835)は、遺伝子編集技術によりマウスMapt遺伝子をヒトMAPT遺伝子へ完全に置換し、Tg4510マウスと同じ中核変異であるP301Lを導入しています。これにより、マウス体内でヒトTauタンパク質が生理的な発現とスプライシングを示し、ヒト病態生理により近い状態を再現できます。

このヒト化モデルは、複数の重要な病理過程を解析する際に、従来のCDSヒト化モデルよりも大きな利点を持ち、代替困難な研究プラットフォームを提供します。

製品名製品番号正式系統名
huTau(MAPT)マウス C001410 C57BL/6JCya-Mapttm1(hMAPT)/Cya
huTau-P301Lマウス C001835 C57BL/6JCya-Mapttm2(hMAPT*P301L)/Cya
huTau-P301Sマウス C001836 C57BL/6JCya-Mapttm3(hMAPT*P301S)/Cya
huTau/huTFRCマウス C001923 C57BL/6JCya-Mapttm1(hMAPT) Tfrctm2(hTFRC)/Cya
huTau-P301L/huTFRCマウス C001924 C57BL/6JCya-Mapttm2(hMAPT*P301L) Tfrctm2(hTFRC)/Cya
huTau-P301S/huTFRCマウス C001925 C57BL/6JCya-Mapttm3(hMAPT*P301S) Tfrctm2(hTFRC)/Cya
huTau/hTFRCマウス I001209 C57BL/6JCya-Mapttm1(hMAPT) Tfrctm1(hTFRC)/Cya
huTau-P301L/hTFRCマウス C001687 C57BL/6N;6JCya-Mapttm2(hMAPT*P301L) Tfrctm1(hTFRC)/Cya
huTau-P301S/hTFRCマウス C001688 C57BL/6N;6JCya-Mapttm3(hMAPT*P301S) Tfrctm1(hTFRC)/Cya
huTau/huTNF(B6;DBA/1)マウス C001898 C57BL/6J;DBA/1Cya-Mapttm1(hMAPT) Tnfem1(hTNF)/Cya

以下は代表的な検証データです。詳細データは各製品仕様書をご参照ください。

行動学評価:新規物体認識試験(6か月齢・9か月齢)

新規物体認識(NOR)試験では、huTau-P301LおよびhuTau-P301Sマウスは新規物体に対する有意な選好を示さず、エピソード記憶機能の明確な障害が示されました。これに対し、野生型(WT)マウスとhuTauマウスでは正常な選好行動が確認されました。

WT、huTau、huTau-P301L、huTau-P301Sマウスの新規物体認識試験における物体選好率

図3. WT、huTau、huTau-P301L、huTau-P301Sマウスにおける新規物体認識試験での物体選好率。データはt検定で解析され、nsは有意差なし、*p<0.05、**p<0.001を示します。

病理変化の検証:hTau系統(9か月齢)

huTau、huTau-P301L、huTau-P301Sマウスの海馬組織では、ヒトTauタンパク質(HT7)の発現が検出されました。特にhuTau-P301LおよびhuTau-P301Sマウスでは、神経細胞構造の乱れを伴う病理像も観察されましたが、huTauおよび野生型(WT)マウスではこのような異常は認められませんでした。

*HT7はヒトTauの全アイソフォームに存在するエピトープを認識するモノクローナル抗体で、総Tau発現の可視化に用いられます。

C57BL/6J WT、huTau、huTau-P301L、huTau-P301Sモデルの海馬におけるDAPI、NeuN、HT7染色

図4. C57BL/6J WT、huTau、huTau-P301L、huTau-P301Sモデルの海馬におけるDAPI(青)、NeuN(赤)、HT7(緑)染色。

huTau-P301LおよびhuTau-P301Sマウスの海馬組織では、リン酸化Tauタンパク質(AT8)の顕著な蓄積が検出され、神経細胞構造の乱れを伴っていました。一方、WTマウスおよびhuTauマウスではこのような病理変化は認められませんでした。

*AT8はSer202およびThr205でリン酸化されたTauを選択的に認識し、アルツハイマー病および関連タウオパチーで観察される病的Tau過剰リン酸化のマーカーとして用いられます。

C57BL/6J WT、huTau、huTau-P301L、huTau-P301Sモデルの海馬におけるDAPI、NeuN、AT8染色

図5. C57BL/6J WT、huTau、huTau-P301L、huTau-P301Sモデルの海馬におけるDAPI(青)、NeuN(赤)、AT8(黄)染色。

siRNA薬は、huTauマウスにおけるヒトMAPT mRNA発現を有意に低下させることができます。huTauヒト化マウスは、MAPTを標的とするsiRNA薬の薬効検証に広く活用されています。

ヒトTau標的siRNAの前臨床薬効評価に用いられたhuTauマウス

図6. ヒトTau標的siRNAの前臨床薬効評価に用いられたhuTauマウス(データはサイヤジェンの顧客提供)。

まとめ

2026年のTau領域における転換点は、アルツハイマー病研究開発における戦略的シフトを明確に示しています。Johnson & Johnsonによる提携試験の新規登録停止が市場の慎重姿勢を招く一方で、Eli LillyがAC Immuneへ1,250万米ドルの追加投資を行ったことは、Tau標的の価値を改めて裏付けるものです。また、高いBBB通過性を備え、細胞内Tauの病的コンフォメーションを精密に標的化できる小分子療法が、AD研究開発の重要な突破口になりつつあることも示しています。

Lillyの追加コミットメントはTau領域への長期的な期待を反映しており、サイヤジェンのTauヒト化マウスモデルは、その研究開発を支える重要なツールとなります。今後、Eli LillyとAC Immuneの提携が進展し、IND申請準備が本格化するにつれ、Tau関連療法は新たな臨床段階へ進む可能性があります。精密な前臨床モデルは引き続き研究開発を支え、AD治療を「進行抑制」から「病態阻止」へと近づけるための基盤となります。

ワンストップ・マウスモデル検索プラットフォーム:MouseAtlas

MouseAtlas(マウスアトラス)は、KOマウスからヒト化マウスまで、遺伝子や製品モデル名で検索できるプラットフォームです。生体マウスか精子凍結状態か、リアルタイムの在庫状況、検証データ、詳細な説明を直感的に確認でき、直接注文も可能です。社内の製品管理システムと連携して常に最新情報が更新されており、現在39,000種類以上のモデルマウスを収録しています。研究者の皆様にとって非常に便利なワンストップソリューションです。

>> MouseAtlasで目的の遺伝子を検索する

サイヤジェン(Cyagen)について

Cyagen Biosciences Inc.(「サイヤジェン(Cyagen)」)は2006年、医薬品開発業務受託機関及び細胞関連製品メーカーとして創業しました。現在、世界に1000名以上の社員が勤務しています。本社をアメリカ・カリフォルニア州シリコンバレーに置き、中国の蘇州と広州を製造拠点にしています。2016年に日本支店(サイヤジェン株式会社)を開設しました。遺伝子改変アニマルモデル作製のリーディングカンパニーとして、リーズナブルな価格帯で、高品質の試薬・ツールを提供しています。Cyagenはマウスモデルの提供だけでなく、眼科、神経科学、腫瘍免疫など様々な分野で契約研究機関(CRO)サービスも提供しています。私たちは遺伝性疾患の研究を支援し、遺伝子治療薬の開発を促進することを目指しています。

FAQ

Tau標的療法がアルツハイマー病研究で注目される理由は何ですか?

Tau病理は神経原線維変化や認知機能低下と密接に関連しており、Aβ標的療法だけでは十分に抑えにくい神経変性の下流過程を評価するうえで重要な標的と考えられています。

Morphomer®小分子は抗体療法と何が異なりますか?

Morphomer®小分子は経口投与が想定され、血液脳関門を通過して細胞内外の病的Tau構造を標的とする点が特徴です。一方、免疫療法は主に注射または点滴投与で、細胞外Tauを補完的に標的とします。

huTau-P301LおよびhuTau-P301Sマウスはどのような研究に使えますか?

これらのモデルはヒトMAPT遺伝子を生理的に発現し、P301LまたはP301S病理変異を持つため、Tauリン酸化、Tau凝集、神経構造異常、記憶機能障害の解析やTau標的薬の薬効評価に利用できます。

huTau/huTFRCモデルの利点は何ですか?

ヒトTau病理の評価に加え、TFRCを介した血液脳関門送達戦略を同一個体内で検討できるため、MAPT標的薬や脳内送達技術の前臨床評価に適しています。

参考文献

  • [1] Adams B. J&J halts enrollment in phase 2 trial of AC Immune-partnered Alzheimer’s therapy [Internet]. Fierce Biotech. 2024 Jan 31 [cited 2024 May 22]. Available from: https://www.fiercebiotech.com/biotech/jj-halts-enrollment-phase-2-trial-ac-immune-partnered-alzheimers-therapy
  • [2] AC Immune SA. AC Immune announces amendment to Morphomer® Tau license and collaboration agreement with Lilly [Internet]. Lausanne (CH): AC Immune SA; 2026 Apr 7 [cited 2026 Apr 10]. Available from: https://ir.acimmune.com/news-releases/news-release-details/ac-immune-announces-amendment-morphomer-r-tau-license-and-0
  • [3] AC Immune SA. AD/PD™ 2026 Symposium: From Treatment to Prevention in Parkinson's Disease. Supporting Materials [PDF]. Presented at: AD/PD™ 2026 International Conference on Alzheimer's and Parkinson's Diseases; March 18, 2026; Bella Center Copenhagen, Copenhagen, Denmark. Available from: https://ir.acimmune.com/static-files/be5144bb-6bb3-4bb0-a038-4d674ff62d0d
  • [4] Courade JP, Zetterberg H, Höglinger GU, Dewachter I. The evolving landscape of Alzheimer's disease therapy: From Aβ to tau. Cell. 2025 Dec 24;188(26):7337-7354. doi: 10.1016/j.cell.2025.11.033. PMID: 41448139.
  • [5] Shulman M, Wu S, Ziogas N, Edwards A, Collins J, Lin L, Tien I, Curiale G, Li Y, Mummery C, Lane R, Junge C, Beaver J, Tian Y, Landen J, Bullain S, Gallagher D. Exploratory analyses of clinical outcomes from the BIIB080 phase 1b study in mild Alzheimer's disease. Nat Aging. 2026 Feb;6(2):445-453. doi: 10.1038/s43587-025-01031-9. Epub 2026 Feb 11. PMID: 41673497; PMCID: PMC12920120.
  • [6] UCB. Strong Execution Fueling Sustained Company Growth [press release]. Brussels (Belgium): UCB; February 26, 2026. Available from: https://www.ucb.com/newsroom/press-releases/article/strong-execution-fueling-sustained-company-growth
  • [7] AC Immune. Investor Presentation, April 2026. NASDAQ: ACIU. Available at: https://ir.acimmune.com/static-files/3e06b41a-db5a-4e63-81cc-7cd94b47836d
  • [8] Mummery CJ, Li-Hsian CC, Lasagna-Reeves CA, Ossenkoppele R, Rowe CC, Scharre DW, Wang H, Kyaga S, Cummings JL. Tau in Alzheimer's disease: Shaping the future patient journey. J Prev Alzheimers Dis. 2026 Feb;13(2):100447. doi: 10.1016/j.tjpad.2025.100447. Epub 2026 Jan 1. PMID: 41478818; PMCID: PMC12869042.

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カタログ番号名称ベース系統操作
C001835hutau-P301LC57BL/6JCya
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