CyagenのAI研究成果が学術誌に掲載|PPBind-3D/1D、構造と配列を統合し、タンパク質・抗体医薬品のバーチャルスクリーニングを支援

2026年10月13日、韓藍青(ハン・ランチン)主任が率いるサイヤジェン(Cyagen)と清華珠三角研究院人工知能センターのチームが、『Antibody Therapeutics』に研究成果を発表し、タンパク質間相互作用の結合親和性を予測する汎用AIフレームワーク「PPBind-3D/1D」を公開しました。本研究では、PPBind-3D構造モデルとPPBind-1D配列モデルからなる二つのモデル体系を構築。タンパク質親和性予測分野におけるデータの異質性、高品質な実験データの不足、複合体の三次元構造取得の難しさといった課題に対応し、抗体・タンパク質医薬品の研究開発に高スループットのバーチャルスクリーニングツールを提供することで、革新的なタンパク質医薬品の開発加速を目指します。

画像出典:Antibody Therapeutics(doi:10.1093/abt/tbag053)
二つのモデルが連携し、構造・配列の双方に対応
タンパク質医薬品の治療効果は、タンパク質間結合(PPB)の親和性に大きく左右されます。高親和性分子は標的により特異的に結合し、薬効を高めるとともに、オフターゲット作用による副作用を抑えることが期待されます。そのため、タンパク質相互作用の親和性を迅速かつ正確に評価することは、タンパク質医薬品および抗体医薬品の初期スクリーニングにおける重要な工程です。現在、親和性測定はタンパク質マイクロアレイ、Octetなどの実験技術に大きく依存しています。測定精度は高い一方、手順が複雑でコストも高く、高スループットで多数の候補分子をスクリーニングする需要に応えることは容易ではありません。
計算による予測法は高スループットスクリーニングの有力な選択肢となっていますが、既存アルゴリズムの実用化には複数の課題があります。実験的に検証された高品質な親和性サンプルは限られています。また、SPR、ITC、ELISA、DMSなど異なる測定法に由来するデータは異質性が大きく、指標の不統一やノイズのために、そのまま統合して学習に用いることが困難です。さらに、結合機構の解析には三次元構造情報が重要ですが、多くの標的では高分解能の結晶構造が得られていません。配列データは入手しやすい一方、構造データが欠けているケースは少なくありません。
こうした課題に対応するため、研究チームはPPBind統合予測フレームワークを開発しました。中核となるのはPPBind-3D構造モデルとPPBind-1D配列モデルです。さらに、抗体およびナノボディの親和性ランキングにおける実用性を、段階的に設計した三つのバーチャルスクリーニング事例で検証しました。

PPBind-3DとPPBind-1Dのモデル構成
1. PPBind-3D(構造駆動型モデル):タンパク質複合体の三次元構造を対象とし、自己・相互注意(Self & Mutual Attention:S&M-Attention)に基づく幾何学的エンコーダを設計しました。また、単調ニューラルネットワーク制約を取り入れた多タスク学習(MMTL)を導入し、SPR、DMS(深部変異スキャン)など異種実験データに対応します。ΔG形式でない高スループット実験データも学習セットに加えることで、利用可能なデータを拡充しました。さらに、iDistアルゴリズムに基づく厳密なクラスタリング分割法を提案し、業界で広く懸念されるデータリークの回避を目指しました。厳格なデータセット分割条件下でPearson相関係数は0.6を上回り、PRODIGY、ProBANなど主要なベースラインツールを総合的に上回る性能が示されました。モデルは公開ウェブツールとして提供され、オンラインで利用できます。
2. PPBind-1D(配列駆動型モデル):実際の研究開発で問題となるタンパク質複合体の三次元構造不足に対応するモデルです。PPBind-3Dを教師モデルとして、特徴量アラインメント(Feature Alignment)による学習方式を開発しました。複合体42,108件を含むラベルなしのDIPS-Plusデータセットを用いて知識蒸留を行い、タンパク質配列のみを入力として、構造モデルに近い予測精度を実現しました。複合体構造の解析や予測を必要とせず、大規模な抗体配列ライブラリのスクリーニングに適用できます。次元削減による可視化では、アラインメント学習を行ったPPBind-1DはPPBind-3Dに近いデータトポロジーを保持していましたが、アラインメントを行わなかったモデルの特徴量は散在していました。
実構造に基づく抗体・抗原親和性予測
学習データに含まれていないCTLA-4、PD-1、PD-L1抗体複合体データを用い、PPBind-3Dが解析済み構造に基づいて親和性を予測しました。全体のPearson相関係数は0.52で、実際の構造が得られている条件で、抗体候補分子の選別に直接活用できる可能性が示されました。

HELナノボディの配列ベース親和性ランキング
AlphaFold 3が予測した複合体構造を用いた検証では、予測構造のipTMが低く、界面構造にずれがある場合、PPBind-3Dの予測性能は限定的になる一方、特徴量アラインメントを行ったPPBind-1Dは安定した予測能力を維持し、相関係数は0.4を超えました。

抗PD-L1抗体の配列ベース親和性ランキング
事例2と同様に、AlphaFold 3が予測した複合体構造を用いてPPBind-3Dで親和性を予測しました。AlphaFold 3の複合体ipTM値は高かったものの、エピトープやドッキング姿勢のずれが影響し、PPBind-3Dによる予測は十分な性能を示しませんでした。一方、PPBind-1D-Alignmentが最も高い性能を示し、Pearson相関係数は0.66に達しました。特徴量アラインメントを行っていないPPBind-1D-NoAlignmentを大きく上回っており、AIによる予測構造の信頼性が低い場面でも、アラインメント後の配列モデルが安定した性能を発揮することが示されました。

三つの検証事例から得られた知見・限界・展望
三つの事例から、実験で決定された複合体構造がある場合はPPBind-3Dが適しており、AlphaFoldによる予測構造の品質が十分でない場合にはPPBind-1Dがより堅実な高スループットスクリーニング手段となることが示されました。バーチャルスクリーニングや候補分子の順位付けといった研究開発の実務におけるPPBindの主な強みは、高親和性分子と低親和性分子を識別し、医薬品開発初期における候補分子の優先順位付けを支援できる点です。
研究チームは、モデルの現時点での限界についても明示しています。PPBind-3Dの予測精度は複合体構造の品質に大きく依存するため、AlphaFold予測構造のipTMが低い場合は結果を慎重に解釈する必要があります。PPBind-1Dは特徴量アラインメントによって全体的な順位付け性能が向上しますが、個々のサンプルにおける絶対親和性の数値予測には依然として誤差があります。親和性の絶対値予測は、実験ノイズやデータ規模など複数の要因に左右される、分野共通の課題です。
今後、AlphaFoldなどのタンパク質構造予測技術がさらに進歩すれば、実験構造がない条件におけるPPBind-3Dの適用範囲も広がると見込まれます。RDEモジュールを備えるPPBind-3Dは、抗体エンジニアリングにおける大量の変異体の迅速な評価にも適しています。実験で測定された親和性データセットを継続的に拡充することで、PPBindシリーズの可能性がさらに高まることが期待されます。
研究チームとサイヤジェンの取り組み
サイヤジェンはAIを活用した完全ヒト抗体医薬品の創薬に取り組み、HUGO-Ab®完全ヒト抗体マウスとAbSeek®インテリジェント抗体計算プラットフォームを組み合わせた、ウェット・ドライ一体型の研究開発体制を構築しています。標的検証、抗体スクリーニング、配列最適化、in vitro・in vivo検証まで、創薬プロセスを幅広く支援します。今回発表したPPBind-3D/1Dは汎用的なタンパク質親和性予測AIフレームワークであり、抗体医薬品の研究開発で十分に検証されました。配列から親和性を予測する計算能力を強化し、抗体・タンパク質医薬品の初期スクリーニングコストの低減と研究開発期間の短縮に貢献します。
本研究は、清華珠三角研究院人工知能イノベーションセンター主任であり、サイヤジェン董事長を務める韓藍青が主導しました。陳沛逸、劉華清が共同筆頭著者です。中山大学附属第三病院、中山大学附属第七病院、深圳大学南山人民病院との共同研究として実施されました。
サイヤジェンは産学研究の連携を継続して推進し、大学・研究機関やバイオ医薬品企業との技術協業に取り組んでいます。タンパク質工学および新規抗体医薬品の研究開発に携わる皆様との交流を歓迎します。
論文情報
文献タイトル:PPBind-3D/1D: Protein-Protein Binding Affinity Prediction for Structural and Sequence Data
掲載誌:Oxford University Press刊『Antibody Therapeutics』
よくある質問
Q. PPBind-3DとPPBind-1Dの主な違いは何ですか?
A. PPBind-3Dはタンパク質複合体の三次元構造を入力する構造駆動型モデルです。PPBind-1Dは配列のみを入力するため、複合体構造が得られない場合や大規模な配列ライブラリを扱う場合に活用できます。
Q. 予測構造の品質が低い場合、どのモデルを検討できますか?
A. 本稿で紹介した検証事例では、AlphaFold予測構造のipTMが低い場合や界面構造にずれがある場合、特徴量アラインメントを行ったPPBind-1Dが安定した結果を示しました。
Q. PPBindは親和性の絶対値を高精度に予測できますか?
A. 研究チームは、個々のサンプルの絶対親和性予測には偏差が残ると報告しています。現時点では、高・低親和性分子の識別や候補分子の優先順位付けへの活用が示されています。
AI解析と完全ヒト抗体マウスを活用した抗体創薬支援
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