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がん研究

PROTAC時代の幕開け:VEPPANU承認とCRBNヒト化マウスモデル

Cyagen Technical Content Team | August 07, 2026
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目次
01 VEPPANU承認が示したPROTAC創薬の転換点 02 CRBNヒト化マウスが必要とされる理由 03 hCRBNモデルの検証データと製品ラインアップ 04 次世代CRBN標的治療への展望 05 MouseAtlasとサイヤジェン(Cyagen)の研究支援 06 FAQ

VEPPANU承認が示したPROTAC創薬の転換点

2026年5月1日、ArvinasとPfizerが共同開発した経口PROteolysis TArgeting Chimera(PROTAC)であるVEPPANU(vepdegestrant)が、ESR1変異を有するER陽性/HER2陰性の進行または転移性乳がんを対象にFDA承認を取得しました。この承認は、ESR1変異を有する同集団に特化した治療選択肢であるだけでなく、ヘテロ二機能性PROTACタンパク質分解薬として初めての規制承認であり、標的タンパク質分解(TPD)の臨床的成立を示す重要な節目といえます。

VEPPANUは、E3ユビキチンリガーゼであるCRBN(Cereblon)をエストロゲン受容体(ER)へリクルートし、ERをユビキチン・プロテアソーム系による分解へ誘導します。従来の小分子阻害薬がシグナルを遮断するのに対し、PROTACは標的タンパク質そのものを取り除く点が大きく異なります。第III相VERITAC-2試験では、ESR1変異サブグループにおいてfulvestrantと比較して疾患進行または死亡リスクを43%低減し、無増悪生存期間中央値を2.1か月から5.0か月へ延長したと報告されています。

VEPPANU(vepdegestrant)のPROTAC作用機序を示す図

図1. VEPPANU(vepdegestrant)の作用機序。

この成功は、PROTACが「大きな二機能性分子でも経口投与、組織移行性、治療域を両立できるのか」という長年の懸念に対し、臨床的な回答を示しました。1日1回経口投与の治療薬として承認されたことは、がん領域だけでなく、中枢神経系、免疫疾患、希少疾患などへTPDモダリティが広がるための基盤にもなります。

PubMedにおけるPROTAC関連の前臨床研究・臨床試験・レビューの推移

図2. PubMedにおけるPROTAC関連の前臨床研究、臨床試験、レビューの推移。

CRBNヒト化マウスが必要とされる理由

CRBNは、VEPPANUを含む多くのCRBNリクルート型PROTACおよび分子接着剤において、標的タンパク質を分解経路へ導く中核的なE3リガーゼです。PROTACの一端がCRBNに結合し、もう一端が疾患関連タンパク質に結合することで、標的タンパク質が細胞内分解機構へ引き込まれます。そのため、CRBNとリガンドの結合様式、三者複合体の形成、標的タンパク質の分解効率は、薬効を左右する重要因子です。

一方で、ヒトCRBNとマウスCRBNはアミノ酸配列全体では高い相同性を有するものの、薬物結合領域には機能的に重要な種差があります。特にヒトではバリンである部位がマウスではイソロイシンとなっており、このわずかな違いが立体的な障害となって、新規基質タンパク質のリクルートや分解を妨げる場合があります。その結果、ヒト細胞では高い活性を示す化合物であっても、野生型マウスでは標的結合、三者複合体形成、PK/PD、毒性評価を正確に再現できないことがあります。

CRBNの非保存アミノ酸によってマウスがIMiDsに抵抗性を示す機構

図3. CRBNの非保存アミノ酸により、マウスがIMiDsに抵抗性を示す理由。

CRBN ヒト化マウスモデルは、この種差を解消するために設計された前臨床研究ツールです。ヒトCRBNを発現することで、ヒトで想定される薬物リクルートとタンパク質分解プロセスをin vivoで評価でき、PROTACや分子接着剤の薬効、安全性、組織分布の検証精度を高めます。

hCRBNモデルの検証データと製品ラインアップ

サイヤジェン(Cyagen)は、CRBN依存性タンパク質分解薬の前臨床評価を支援するため、C57BL/6背景のhCRBN(製品番号:C001683)およびBALB/c背景のhCRBN(BALB/c)(製品番号:C001724)を提供しています。これらのモデルは、ヒトCRBNタンパク質を発現することで、薬物分布、標的分解、毒性評価のヒト関連性を高めることを目的としています。

hCRBN(BALB/c)モデルの発現検証

hCRBN(BALB/c)マウスでは、ヒトCRBN遺伝子およびタンパク質のin vivo発現が確認されています。BALB/c背景は腫瘍移植研究でも利用されやすく、CDX/PDX関連の腫瘍薬効評価とCRBN依存的な分解薬評価を組み合わせる際に有用です。

hCRBN(BALB/c)ヒト化マウスにおけるヒトおよびマウスCRBN遺伝子・タンパク質発現の検出

図4. hCRBN(BALB/c)ヒト化マウスにおけるヒトおよびマウスCRBN遺伝子・タンパク質発現のin vivo検出。

CC-885によるCRBN依存的毒性とGSPT1分解の検証

CC-885は、GSPT1などの基質分解を誘導するCRBN分子接着剤です。マウスとヒトのCRBNは高い相同性を持つものの、免疫調節薬結合領域の差異により、野生型マウスCRBNを介した基質分解を十分に誘導できません。検証試験では、CC-885投与後の明確な毒性がCRBNヒト化マウスでのみ観察されました。

野生型マウスとhCRBN(BALB/c)マウスにおけるCC-885投与後の生存率と体重変化

図5. 野生型マウスおよびホモ接合hCRBN(BALB/c)マウスにおけるCC-885のin vivo毒性解析。

さらに、Western blot解析では、CC-885投与によりhCRBN(BALB/c)マウスでGSPT1の分解が誘導される一方、野生型マウスでは同様の効果が確認されませんでした。これは、CRBNヒト化モデルがCRBN依存性薬物作用の検出に適していることを示す代表的な結果です。

CC-885投与後の心臓および脾臓におけるCRBN、GSPT1、CK1εタンパク質レベルのWestern blot解析

図6. CC-885投与後の野生型マウスおよびhCRBN(BALB/c)マウスにおけるCRBN、GSPT1、CK1εタンパク質レベルのWestern blot解析。

関連モデル

製品名製品番号背景系統タイプ主な用途
hCRBN Mouse C001683 C57BL/6 CRBNヒト化マウス CRBNリクルート型PROTACおよび分子接着剤のin vivo薬効・安全性評価
hCRBN(BALB/c) Mouse C001724 BALB/c CRBNヒト化マウス 腫瘍モデル、CDX/PDX関連評価、CC-885などのCRBN依存的作用検証

次世代CRBN標的治療への展望

VEPPANUの承認は、PROTACが臨床応用可能な治療モダリティであることを明確に示しました。今後は、より高い選択性、より強い分解能、組織特異的な送達、不要なオフターゲット分解の抑制などが重要な開発テーマになります。Bristol Myers Squibb、Amgen、Merckなどの企業が進めるCRBNベースの分子接着剤や次世代分解薬は、血液悪性腫瘍から固形がん、さらに神経変性疾患領域へと拡張しつつあります。

同時に、標的タンパク質分解薬の成功には、ヒト標的結合を正確に反映するモデルシステムが不可欠です。特にCRBN依存性の薬物では、野生型マウスの種差が候補化合物の有効性や毒性の評価を大きく歪める可能性があります。CRBNヒト化マウスは、初期探索からin vivo薬効、安全性、組織分布、併用療法評価まで、臨床移行性を高める基盤として重要性を増しています。

PROTAC時代は始まったばかりです。今後、CNSや難治性固形がんなど、従来創薬が難しかった標的にパイプラインが広がるほど、信頼性の高い予測モデルが研究開発の成否を左右します。サイヤジェン(Cyagen)のCRBNヒト化モデルおよび前臨床評価プラットフォームは、次世代TPD創薬の基盤構築を支援します。

MouseAtlasとサイヤジェン(Cyagen)の研究支援

ワンストップ・マウスモデル検索プラットフォーム:MouseAtlas

MouseAtlas(マウスアトラス)は、KOマウスからヒト化マウスまで、遺伝子や製品モデル名で検索できるプラットフォームです。生体マウスか精子凍結状態か、リアルタイムの在庫状況、検証データ、詳細な説明を直感的に確認でき、直接注文も可能です。社内の製品管理システムと連携して常に最新情報が更新されており、現在39,000種類以上のモデルマウスを収録しています。研究者の皆様にとって非常に便利なワンストップソリューションです。

>> MouseAtlasで目的の遺伝子を検索する

Cyagen Biosciences Inc.(「サイヤジェン(Cyagen)」)は2006年、医薬品開発業務受託機関及び細胞関連製品メーカーとして創業しました。現在、世界に1000名以上の社員が勤務しています。本社をアメリカ・カリフォルニア州シリコンバレーに置き、中国の蘇州と広州を製造拠点にしています。2016年に日本支店(サイヤジェン株式会社)を開設しました。遺伝子改変アニマルモデル作製のリーディングカンパニーとして、リーズナブルな価格帯で、高品質の試薬・ツールを提供しています。Cyagenはマウスモデルの提供だけでなく、眼科、神経科学、腫瘍免疫など様々な分野で契約研究機関(CRO)サービスも提供しています。私たちは遺伝性疾患の研究を支援し、遺伝子治療薬の開発を促進することを目指しています。

FAQ

PROTACとは何ですか?

PROTACは、標的タンパク質とE3ユビキチンリガーゼを近接させ、ユビキチン・プロテアソーム系を利用して標的タンパク質そのものを分解へ導く二機能性分子です。

VEPPANU(vepdegestrant)の承認はなぜ重要ですか?

VEPPANUは、初めて規制承認を受けたヘテロ二機能性PROTACタンパク質分解薬であり、TPDモダリティが経口薬として臨床的有効性を示し得ることを証明した点で重要です。

CRBNはPROTAC創薬でどのような役割を果たしますか?

CRBNはE3ユビキチンリガーゼ複合体の構成因子であり、PROTACや分子接着剤が標的タンパク質を分解経路へ導く際の主要なリクルート先として機能します。

CRBNヒト化マウスモデルが必要な理由は何ですか?

ヒトCRBNとマウスCRBNには薬物結合領域に重要な種差があるため、野生型マウスではCRBN依存性分解や毒性を正確に評価できない場合があります。ヒト化モデルはこのギャップを補います。

hCRBN(BALB/c)マウスはどのような研究に適していますか?

hCRBN(BALB/c)マウスは、CRBN依存性PROTACや分子接着剤の薬効、安全性、GSPT1などの基質分解評価、腫瘍モデルを用いたin vivo検証に適しています。

参考文献

  1. FDA approves vepdegestrant for ER-positive, HER2-negative, ESR1-mutated advanced or metastatic breast cancer [Internet]. U.S. Food and Drug Administration; 2026 May 1.
  2. Campone M, De Laurentiis M, Jhaveri K, Hu X, Ladoire S, Patsouris A, Zamagni C, et al. Vepdegestrant, a PROTAC Estrogen Receptor Degrader, in Advanced Breast Cancer. N Engl J Med. 2025 Aug 7;393(6):556-568.
  3. Vepdegestrant (ARV-471) [Internet]. Pfizer Oncology Development Website.
  4. Arvinas. Arvinas Announces FDA Approval of VEPPANU (vepdegestrant) for the Treatment of ESR1m, ER+/HER2- Advanced Breast Cancer [Internet]. 2026 May 1.
  5. Gentile G, D'Aguanno S, Di Martile M, Petricca A, Valentini E, Scalera S, Del Bufalo D. PROTAC-based protein degradation: a window of opportunity for melanoma therapy. J Biomed Sci. 2026 Feb 27;33(1):23.
  6. Gemechu Y, Millrine D, Hashimoto S, Prakash J, Sanchenkova K, Metwally H, Gyanu P, Kang S, Kishimoto T. Humanized cereblon mice revealed two distinct therapeutic pathways of immunomodulatory drugs. Proc Natl Acad Sci U S A. 2018 Nov 13;115(46):11802-11807.
  7. Yamamoto J, Ito T, Yamaguchi Y, Handa H. Discovery of CRBN as a target of thalidomide: a breakthrough for progress in the development of protein degraders. Chem Soc Rev. 2022 Aug 1;51(15):6234-6250.
  8. Lindner S, Krönke J. The molecular mechanism of thalidomide analogs in hematologic malignancies. J Mol Med (Berl). 2016 Dec;94(12):1327-1334.
  9. Gough SM, Flanagan JJ, Teh J, Andreoli M, Rousseau E, Pannone M, Bookbinder M, et al. Oral Estrogen Receptor PROTAC Vepdegestrant (ARV-471) Is Highly Efficacious as Monotherapy and in Combination with CDK4/6 or PI3K/mTOR Pathway Inhibitors in Preclinical ER+ Breast Cancer Models. Clin Cancer Res. 2024 Aug 15;30(16):3549-3563.

本記事のテーマに関連するサイヤジェンのマウスモデル

カタログ番号名称ベース系統操作
C001683hCRBNC57BL/6JCya
C001724hCRBN(BALB/c)BALB/cAnCya
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