BALB/cとC57BL/6マウスの違い|背景品系の特徴と遺伝子改変技術の選び方


背景品系を選ぶ理由と基本的な考え方
遺伝子組換えマウスには多くの種類があります。実際の研究では、目的に合った遺伝子改変方式だけでなく、背景品系、編集対象遺伝子、修飾形式、構築技術を総合的に選択することで、再現性の高い実験結果を得やすくなります。本記事では、研究でよく使われるC57BL/6マウスとBALB/cマウスの特徴、免疫学的な違い、そして遺伝子改変マウスの構築技術の選び方を整理します。
遺伝子組換えマウスを選ぶ際、「なぜある研究では黒色のマウスが多く、別の研究では白色のマウスが好まれるのか」と疑問に思うことがあります。その理由の一つが背景品系の違いです。背景品系が異なると、同じ遺伝子改変を導入しても、表現型の強さ、発症率、免疫応答、繁殖性、薬剤反応性が変わることがあります。
実験用マウスは、大きく近交系と遠交系(閉鎖群)に分けられます。遠交系はヘテロ接合性が高く、個体差も大きくなりやすい一方、近交系は遺伝背景が安定し、同一系統内で表現型を比較しやすいという利点があります。そのため、遺伝子機能、免疫学、腫瘍、感染症、薬効評価などの生物医薬研究では、近交系マウスが広く使用されています。
現在、実験室で最もよく使われる近交系の代表例がC57BL/6とBALB/cです。C57BL/6マウスは遺伝子改変、神経科学、代謝、免疫学など幅広い分野で標準的に用いられます。一方、BALB/cマウスは抗体産生、ハイブリドーマ、腫瘍、炎症、感染症、アレルギー関連研究で重要な背景品系です。免疫不全モデルや腫瘍移植モデルを検討する場合は、ヌードマウス、NOD-SCIDマウス、SCIDマウスなどの背景や免疫特性もあわせて確認すると、モデル選定の精度が高まります。
図1: C57BL/6マウス
C57BL/6マウスの特徴
C57BL/6は、ヒトに続いてゲノム配列解析が進められた代表的な哺乳類モデルの一つであり、国際マウス表現型解析コンソーシアム(IMPC)などでも遺伝子機能解析に広く利用されています。近交系で遺伝背景が安定しているため、異なる個体間で観察される発現や表現型の変化を、標的遺伝子や処理条件に起因するものとして解釈しやすい点が大きな利点です。
C57BL/6は、多くの遺伝子改変マウス、ノックアウトマウス、ノックインマウス、条件付きノックアウトマウスの標準的な背景品系として使われます。既存モデルや公開データが豊富であるため、遺伝子改変研究の出発点として選ばれることが多い品系です。
特徴:
- 各種腫瘍の自然発生率が比較的低い。乳癌の自然発生率は低く、発癌物質を使用しても発癌しにくい傾向があります。一方で、高齢マウスではリンパ腫や白血病がみられる場合があり、照射後の肝がん発生率には注意が必要です。
- 放射線に対する耐性は中等度とされています。
- 補体活性が高い傾向があります。
- 免疫耐性を誘導しやすい背景品系として知られています。
- 結核菌に感受性を示す一方、マウス天然痘ウイルスに対しては一定の抵抗性が報告されています。
- インターフェロン産生量が高い傾向があります。
- アルコール嗜好性が高く、アドレナリン類脂質濃度が低く、ヒスタミン感受性因子に関連する反応にも特徴があります。
- 食餌誘導性肥満(DIO)や慢性実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)など、代謝疾患や自己免疫性神経疾患モデルの研究でよく用いられます。
- 貪食細胞は炭疽致死毒素の作用に対して耐性を示すことがあります。
C57BL/6を使用する際の重要な注意点は、C57BL/6J、C57BL/6Nなどのサブストレイン間にも差が存在することです。代謝、行動、免疫応答、繁殖効率、既存遺伝子改変アレルの由来に影響する場合があるため、文献比較や再現実験では「C57BL/6」とだけ記録するのではなく、サブストレインまで確認することが推奨されます。
BALB/cマウスの特徴
BALB/cマウスは、腫瘍、炎症、自己免疫、感染症、抗体作製などの研究分野でよく使われる白色の近交系マウスです。特に、ハイブリドーマ作製やモノクローナル抗体産生において重要な背景品系であり、細胞融合に使われる多くのマウス骨髄腫細胞はBALB/c系統に由来します。
BALB/cマウスは、体液性免疫応答やTh2型応答を示しやすい特徴があるため、抗体反応、アレルギー反応、寄生虫感染、特定の感染症モデルなどで利用されます。また、BALB/c nudeなどの派生免疫不全モデルは、腫瘍移植や薬効評価にも用いられます。BALB/c背景の免疫不全モデルを検討する場合は、BALB/c nu/nuを含むヌードマウスの特徴も確認してください。
図2: BALB/cマウス
特徴:
- 鉱油誘導性プラズマ細胞腫に感受性を示します。
- BALB/c由来の脾臓細胞は、ハイブリドーマ作製やモノクローナル抗体産生に広く利用されています。
- 乳腺腫瘍の自然発生率は比較的低い一方、乳腺腫瘍ウイルス(MTV)で誘導すると発生率が高くなる場合があります。
- 加齢に伴い、肺癌や腎臓癌など一部の腫瘍発生リスクが上昇することがあります。卵巣腫瘍、副腎腫瘍、白血病についても、研究目的に応じて背景情報を確認する必要があります。
- 単核細胞増殖性リステリアに感染しやすい傾向があります。
- Hc1対立遺伝子によりクリプトコックス・ネオフォルマンスに対する反応に特徴があります。また、リケッチア感染、麻疹ウイルス、リーシュマニア、マンソン住血吸虫、トキソプラズマなどの感染モデルで感受性が問題になることがあります。
- 肺炎にかかりやすい傾向があるため、別の近交系マウスとの同居飼育には注意が必要です。
C57BL/6とBALB/cの免疫学的な違い
C57BL/6とBALB/cは、いずれも近交系として安定した遺伝背景を持ちますが、免疫学、腫瘍、感染症、自己免疫、抗体作製などの研究で示す反応は大きく異なる場合があります。したがって、同じ遺伝子改変を導入する場合でも、どちらの背景品系を選ぶかによって表現型の見え方が変わる可能性があります。
主な違い
- C57BL/6とBALB/cではTh1型・Th2型免疫応答の傾向が異なります。C57BL/6ではTh1型免疫応答やIFN-γ産生が優位になりやすく、BALB/cではTh2型免疫応答や体液性免疫応答を誘導しやすい傾向があります。
- BALB/cマウスはC57BL/6マウスと比較して、より強い抗体反応を示す場面があります。そのため、抗体産生、ハイブリドーマ、アレルギー、寄生虫感染などの研究でよく選ばれます。
- BALB/cマウスのMHCハプロタイプはH-2d、C57BL/6はH-2bです。この違いは抗原提示、T細胞応答、移植・腫瘍免疫研究の解釈に影響します。抗血清や抗体によっては、両系統の細胞に交差反応を示す場合があるため、品系特異性の確認が必要です。
- 樹状細胞(DC)による早期IL-12産生などにも違いがあり、単核細胞増殖性リステリアなど感染症モデルでの感受性差に関与すると考えられます。
研究目的別の選択ポイント
| 研究目的 | C57BL/6が適する場面 | BALB/cが適する場面 |
|---|---|---|
| 遺伝子改変モデル作製 | 既存データ、標準系統、遺伝子改変モデルの豊富さを重視する場合 | BALB/c背景で抗体、腫瘍、炎症、感染研究を行いたい場合 |
| 免疫応答解析 | Th1型応答、細胞性免疫、自己免疫モデルを重視する場合 | Th2型応答、抗体産生、アレルギー、寄生虫感染を重視する場合 |
| 腫瘍研究 | 遺伝子改変腫瘍モデル、免疫応答解析、C57BL/6由来腫瘍細胞株との組み合わせ | ハイブリドーマ、移植腫瘍、一部の炎症・腫瘍免疫研究 |
| 免疫不全モデルへの展開 | NOD-SCID、SCID、NSG/NOGなどの背景や免疫欠損内容を比較して選択 | BALB/c nudeなどBALB/c由来免疫不全モデルを利用する場面 |
以上のように、C57BL/6とBALB/cはいずれも近交系として遺伝背景が安定しているという利点を持ちますが、免疫学、腫瘍、感染性疾患などの研究で応用する際には、多くの違いを考慮する必要があります。研究内容、既存データ、必要な免疫応答、使用する細胞株や抗体、繁殖計画を踏まえて背景品系を選択してください。
構築技術の選択
次に、遺伝子改変マウスの構築技術の選択について説明します。CRISPR/Cas9技術は種の制限が比較的少なく、操作が簡便で、コストを抑えやすく、作製期間も短いという利点があります。一方で、オフターゲット評価、複雑な挿入・置換設計、知的財産権の扱いなどを事前に確認する必要があります。
ESターゲティング技術は、精密な相同組換えに基づいて複雑な遺伝子改変を行える技術です。条件付きノックアウト、複雑なノックイン、長い挿入、選択マーカーを含む設計などに適しており、オフターゲットの懸念を抑えやすい点も利点です。ただし、利用できるES細胞系や背景品系に制限が生じる場合があります。
一般的には、単純な完全ノックアウトマウス、比較的小規模なノックインマウス、C57BL/6以外の背景品系での迅速なモデル構築にはCRISPR/Cas9技術が有用です。一方、複雑なマウスモデルの構築、条件付きノックアウト、精密な改変、または動物モデルの知的財産権やオフターゲット評価を重視する研究では、ESターゲティング技術に基づくTurboKnockout™遺伝子ターゲティング技術を検討できます。
ここで、「研究目的としてはBALB/c背景が望ましいが、ESターゲティングに使いやすいES細胞系はC57BL/6、129S3、C57BL/6と129のF1系が中心ではないか」という疑問が生じる場合があります。CRISPR/Cas9を選ぶと、複雑なプロジェクトの難易度やオフターゲット評価が問題になることもあります。では、BALB/c背景とESターゲティングの利点を同時に得ることはできないのでしょうか。
解決方法は主に2つあります。1つ目は、ESターゲティング技術でC57BL/6背景に遺伝子改変を導入し、その後、野生型BALB/cマウスへ10世代以上戻し交配する方法です。ただし、この方法では繁殖とジェノタイピングに長い時間と労力が必要です。2つ目は、BALB/c品系ES細胞を用いて、BALB/c背景で直接ESターゲティングモデルを構築する方法です。CyagenではBALB/c品系ES細胞の培養・選抜・性別鑑定・核型安定性評価・多能性評価・生殖系列伝達能評価を行い、BALB/c背景でのESターゲティングモデル構築を支援しています。BALB/c背景で精密な遺伝子改変を検討する場合は、BALB/c品系ES細胞を用いたモデル構築も参考になります。
構築技術選択の詳細は前の文章を参照してください:CRISPR/Cas9とES細胞はどっちが良い?どっちのほうが最適ですか?
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関連モデル・参考ページ
C57BL/6とBALB/cの背景品系選択は、免疫不全マウス、腫瘍移植モデル、遺伝子改変モデル、ES細胞ターゲティングモデルの選定にもつながります。以下の関連ページでは、研究目的に応じた品系選択や免疫不全モデル選定の詳細を確認できます。
| 確認したい内容 | 関連ページ | 主な利用場面 |
|---|---|---|
| BALB/c背景の免疫不全モデル | ヌードマウスとは | BALB/c nu/nu、腫瘍移植、T細胞欠損モデルを検討する場合 |
| NOD-SCID背景の特徴 | NOD-SCIDマウス | 高度免疫不全、ヒト細胞移植、腫瘍・免疫研究を検討する場合 |
| SCID系統の基本 | SCIDマウス | T細胞・B細胞欠損モデル、免疫不全モデルを比較する場合 |
| 免疫不全マウス選定の注意点 | 免疫不全マウスの選び方 | ヌード、SCID、NOD-SCID、NOG/NSG系統の使い分けを整理する場合 |
| BALB/c背景でのESターゲティング | BALB/c品系ES細胞モデル | BALB/c背景で精密な遺伝子改変や複雑なモデル構築を行う場合 |
| マウス品系と飼育管理 | 実験用マウスの健康管理 | 背景品系の差に加えて、飼育・健康状態が実験結果へ与える影響を確認する場合 |
FAQ
BALB/cマウスとC57BL/6マウスはどのように使い分けますか。
C57BL/6は遺伝子改変、代謝、神経、免疫耐性、Th1型応答の研究で広く用いられます。BALB/cは抗体産生、ハイブリドーマ、腫瘍、炎症、Th2型応答、感染・アレルギー関連研究でよく選択されます。研究目的、既存データ、必要な免疫背景に基づいて選ぶことが重要です。
C57BL/6マウスを使う際の注意点は何ですか。
C57BL/6にはC57BL/6JやC57BL/6Nなどのサブストレインがあり、代謝、行動、免疫応答、繁殖成績に違いが出る場合があります。既報データや既存モデルと比較する研究では、サブストレインまで確認する必要があります。
BALB/cマウスの特徴は何ですか。
BALB/cマウスは白色被毛の近交系マウスで、体液性免疫応答やTh2型応答を示しやすく、抗体作製、ハイブリドーマ、腫瘍、炎症、感染症、アレルギー研究で広く利用されます。
BALB/c背景で遺伝子改変マウスを作製する場合、CRISPR/Cas9とESターゲティングのどちらを選びますか。
単純なKOや小規模ノックインではCRISPR/Cas9が効率的です。一方、複雑な条件付きノックアウト、長い挿入、精密な遺伝子改変、知的財産権やオフターゲット評価を重視する場合は、ESターゲティングを検討します。
本記事のテーマに関連するサイヤジェンのマウスモデル
| カタログ番号 | 名称 | ベース系統 | 研究応用 | 操作 |
|---|---|---|---|---|
| C001316 | C-NKG | NOD.Cg | Immune system and tumor immunity research; Hematopoietic development and blood disorders research; Infectious disease studies such as HIV and AIDS; Tumor transplantation and anti-tumor efficacy studies; CDX, PDX, GvHD, and humanized immune system (HIS) research. |




