免疫学研究におけるCreマウスの選択・活用ガイド


免疫学研究で適切なCreマウスが重要な理由
Cre-loxPシステムは、遺伝子機能解析で広く用いられる条件付き遺伝子発現制御系です。組織・細胞特異的プロモーターでCreを発現するマウスと、標的遺伝子にloxP配列を導入したfloxマウスを交配することで、特定の細胞種に限定した条件付きノックアウトまたはノックインが可能になります。さらに、誘導型Creモデルを用いれば、遺伝子改変を誘導する時期も制御できます。
免疫学研究では、B細胞、T細胞、樹状細胞、マクロファージ、好中球、ミクログリア、造血幹細胞など、さまざまな細胞集団の機能解析にCreマウスが利用されています。免疫系は細胞系譜が複雑で、組織分布が広く、発生段階に応じて動的に変化します。そのため、モデル選択ではCre発現の有無だけでなく、標的細胞、プロモーター特異性、組換え効率、誘導方法、検証データを総合的に評価することが重要です。
条件付きノックアウト、免疫細胞の系譜追跡、Creリコンビナーゼ活性の検証をご計画の場合は、『Cre-loxPリコンビナーゼシステム活用ガイド』をご参照ください。システムの原理、モデル選択の考え方、誘導条件、実験上の留意点をまとめています。
活用ガイドをダウンロード マウスを検索免疫研究用Creマウス選択時の主な検討事項
免疫学研究では、標的細胞が単一組織に限局しない、プロモーター活性が発生段階や組織によって異なる、といった課題が生じます。また、誘導型Creではタモキシフェン投与条件の最適化が必要です。レポーター遺伝子によって組換え領域を可視化できますが、研究目的への適合性を判断するには、フローサイトメトリー、免疫蛍光染色、組織学的解析などを組み合わせた検証が欠かせません。
標的細胞は明確ですか?
B細胞、骨髄系細胞、マクロファージ、ミクログリア、造血幹細胞など、対象によって適切なプロモーターと系統は異なります。複数の免疫細胞サブセットを扱う場合は、主要な細胞由来と評価項目をあらかじめ明確にします。
構成的発現型と誘導型のどちらが適していますか?
構成的発現型iCreは持続的な組換えに適しています。CreERT2などの誘導型モデルは、組換え時期を制御したい実験、特に成体期の遺伝子機能解析や発生初期への影響を回避したい研究に適しています。
蛍光レポーターによる検証は必要ですか?
CreマウスをRosa26-LSL-tdTomatoなどのレポーターマウスと組み合わせることで、Cre活性と組換え領域を可視化できます。これは、その後の条件付きノックアウトや系譜追跡実験を設計するうえで重要な判断材料となります。
実測の検証データはありますか?
検証済みモデルであれば、組換え効率と発現範囲を事前に評価しやすくなります。本ページで紹介するMb1-iCre、Cx3cr1-iCre、H11-Vav1-iCreのケーススタディは、モデル選択と実験設計の参考としてご活用いただけます。
サイヤジェン(Cyagen)のマウスが免疫研究を支援
サイヤジェン(Cyagen)は、数百種類のCreマウスモデルを提供しており、免疫系、神経系、消化管、肝臓など、多様な組織・臓器におけるリコンビナーゼ活性の検証に対応しています。免疫研究向けモデルは、細胞特異的マーカー、主要転写因子、組織特異的プロモーターを基盤に設計され、特定の細胞集団における遺伝子機能解析、細胞運命追跡、疾患メカニズムの検証を支援します。
研究計画の初期段階では、まず標的細胞種から候補モデルを絞り込み、カタログ番号から各モデルの詳細をご確認ください。交配戦略、レポーターマウスとの組み合わせ、誘導条件、検証方法については、研究目的に応じた個別相談も承ります。
免疫細胞特異的Creマウス
以下に、T細胞、B細胞、NK細胞、樹状細胞、マクロファージ、好中球、ミクログリア、造血幹細胞などを対象とする、代表的な免疫細胞特異的Creマウスをまとめました。モデル名をクリックすると詳細ページへ移動し、モデル情報の確認やお問い合わせが可能です。
| 免疫細胞 | カタログ番号 | モデル名 | プロモーター | リコンビナーゼ |
|---|---|---|---|---|
| CD8+ T細胞 | I001090 | Rosa26-Cd8a-Cre | Cd8a | Cre |
| B細胞 | C001552 | Mb1-iCre | Cd79a | iCre |
| B細胞 | I001184 | Cd19-Cre | Cd19 | Cre |
| T細胞、B細胞 | I001170 | Cd2-P2A-CreERT2 | Cd2 | CreERT2 |
| T細胞、B細胞 | I001171 | Cd2-IRES-iCre | Cd2 | iCre |
| 胚中心B細胞、濾胞性ヘルパーT細胞(Tfh細胞) | I001071 | Bcl6-P2A-CreERT2 | Bcl6 | CreERT2 |
| NK細胞 | I001173 | Klrd1-P2A-iCre | Klrd1 | iCre |
| NK細胞、CD8+ T細胞 | I001110 | Nkg7-iCre | Nkg7 | iCre |
| 樹状細胞 | C001662 | Itgax-Dre | Itgax | Dre |
| 古典的樹状細胞 | C001574 | Zbtb46-IRES-iCre | Zbtb46 | iCre |
| 古典的樹状細胞 | C001575 | Zbtb46-P2A-CreERT2 | Zbtb46 | CreERT2 |
| 1型古典的樹状細胞(cDC1) | C001573 | Xcr1-IRES-iCre | Xcr1 | iCre |
| マクロファージ | I001169 | Adgre1-P2A-CreERT2 | Adgre1 | CreERT2 |
| クッパー細胞 | C001353 | Clec4f-iCre | Clec4f | iCre |
| 好酸球 | I001140 | Epx-iCre | Epx | iCre |
| 好中球 | I001072 | Cxcr2-P2A-CreERT2-T2A-EYFP | Cxcr2 | CreERT2 |
| 単球、マクロファージ | I001172 | Cd68-P2A-iCre | Cd68 | iCre |
| 単球、マクロファージ | C001734 | Cd68-P2A-CreERT2 | Cd68 | CreERT2 |
| 単球、マクロファージ、顆粒球 | C001358 | Lyz2-IRES-iCre | Lyz2 | iCre |
| 単球、マクロファージ、顆粒球 | C001499 | Lyz2-IRES-CreERT2 | Lyz2 | CreERT2 |
| 単球、マクロファージ、ミクログリア | C001391 | Cx3cr1-iCre | Cx3cr1 | iCre |
| マクロファージ、樹状細胞、骨髄由来顆粒球 | I001160 | Csf1r-IRES-iCre | Csf1r | iCre |
| 樹状細胞、マクロファージ、造血幹細胞、Clec3b陽性細胞 | C001652 | Clec3b-iCre | Clec3b | iCre |
| 好酸球、エフェクターT細胞、好中球など | I001082 | Ltb4r1-P2A-Cre | Ltb4r1 | Cre |
| ミクログリア、マクロファージ、樹状細胞、単球、Trem2陽性細胞 | I001080 | Trem2-P2A-Cre | Trem2 | Cre |
| ミクログリア、マクロファージ、樹状細胞、単球、Trem2陽性細胞 | C001677 | H11-Trem2-iCre | Trem2 | iCre |
| ミクログリア、マクロファージ、樹状細胞、単球、Trem2陽性細胞 | C001678 | Trem2-IRES-CreERT2 | Trem2 | CreERT2 |
| 好塩基球、Cpa3陽性細胞 | C001661 | H11-Cpa3-Cre | Cpa3 | Cre |
| 免疫系(リンパ球および前駆細胞) | C001572 | Il7r-iCre | Il7r | iCre |
| 造血幹細胞 | C001357 | H11-Vav1-iCre | Vav1 | iCre |
免疫細胞蛍光標識モデル
Creリコンビナーゼと蛍光レポーター遺伝子を組み合わせることで、特定の免疫細胞を蛍光標識し、系譜を追跡できます。細胞の由来、移動経路、組織浸潤、炎症反応の経時変化を解析する実験では、標的細胞集団を直接観察できる蛍光標識モデルが有用です。
| 免疫細胞 | カタログ番号 | モデル名 | プロモーター | リコンビナーゼ | 蛍光タンパク質 |
|---|---|---|---|---|---|
| 好中球 | I001072 | Cxcr2-P2A-CreERT2-T2A-EYFP | Cxcr2 | CreERT2 | EYFP |
| 肥満細胞、好塩基球、Cpa3陽性細胞 | I001146 | Cpa3-P2A-iCre-EGFP | Cpa3 | iCre | EGFP |
| 樹状細胞、マクロファージ、Cd209a陽性細胞 | C001651 | Cd209a-IRES-iCreERT2-P2A-EGFP | Cd209a | iCreERT2 | EGFP |
| マクロファージ、活性化T細胞、ミクログリア、Cxcl10陽性細胞 | C001653 | Cxcl10-P2A-EGFP | Cxcl10 | Cxcl10 | EGFP |
検証データ:モデル選択から実験結果の評価まで
Creマウスが研究目的に適しているかどうかは、最終的に実験データで確認する必要があります。以下では、B細胞、ミクログリア/マクロファージ、造血幹細胞を対象とした3つのケーススタディを通じて、レポーターマウスとの交配後に、フローサイトメトリーや組織蛍光解析からCre活性の分布と組換え効率を評価する方法を示します。
ケーススタディ1:Mb1-iCreマウスB細胞における組換え効率の検証
図1 末梢血、脾臓、骨髄のBリンパ球(mCD45+ mCD19+)におけるCreリコンビナーゼ活性
Mb1-iCreマウスと、tdTomato蛍光タンパク質を条件付きで発現するROSA26-LSL-tdTomatoマウスを交配し、仔マウスの末梢血、脾臓、骨髄を採取して、フローサイトメトリー(FACS)によりtdTomato発現を解析しました。Cre陽性マウス(Mb1-iCre[KI/+]; ROSA26-LSL-tdTomato[CKI/+])では、末梢血Bリンパ球に極めて強いtdTomato発現が認められ、組換え効率は98%以上でした。脾臓Bリンパ球では約80%、骨髄Bリンパ球では76.93~80.66%の組換え効率を示しました。
本データは、検証済みのB細胞特異的Creマウスが、B細胞の発生・機能や液性免疫の研究において、細胞特異的組換え系の構築と、組織ごとの組換え特性の評価に有用であることを示しています。
ケーススタディ2:Cx3cr1-iCreマウスミクログリアおよびマクロファージ研究への応用
図2 脳、肺、腸管、腎臓、肝臓におけるCreリコンビナーゼ活性
Cx3cr1-iCreマウスとRosa26-LSL-tdTomatoマウスを交配し、仔マウスから脳、肺、腸管、腎臓、肝臓を採取しました。ミクログリアマーカーであるIBA1抗体とTomato赤色蛍光抗体を用いて共局在を解析した結果、Cre活性は主に脳組織のミクログリアに認められました。一方、肺、腎臓、肝臓、腸管の一部でもtdTomato赤色蛍光が検出され、これらの組織ではマクロファージにCre活性が存在する可能性が示唆されました。
Cx3cr1関連モデルを選択する際は、ミクログリア研究への有用性に加え、Cre活性の組織分布と評価項目を考慮し、末梢組織で検出される組換えシグナルを適切に解釈する必要があります。
ケーススタディ3:H11-Vav1-iCreマウス造血系研究への応用
図3 末梢血、脾臓、骨髄におけるCreリコンビナーゼ活性
H11-Vav1-iCreマウスとRosa26-LSL-tdTomatoマウスを交配して二重ヘテロ接合仔を作製し、末梢血、脾臓、骨髄を採取してフローサイトメトリーで蛍光を解析しました。その結果、骨髄および脾臓の造血幹細胞に強いtdTomato組換え蛍光が認められました。
本ケーススタディは、造血系Creマウスが、免疫細胞の起源、造血分化、複数の免疫細胞系譜の解析に有用であることを示します。免疫細胞の発生、腫瘍免疫微小環境、炎症細胞の由来を研究する際に、造血系Creモデルは重要な研究ツールとなります。
免疫研究用Creマウスの推奨ワークフロー
モデル選択と検証に伴う不確実性を低減するため、研究計画の初期段階から「研究課題 → 標的細胞 → Creモデルの種類 → レポーター検証 → 機能解析」の順に検討することを推奨します。
- 研究課題を明確化:遺伝子機能解析、条件付きノックアウト、系譜追跡、疾患モデル作製、免疫細胞動態の観察など、研究目的を明確にします。
- 標的細胞を特定:B細胞、T細胞、骨髄系細胞、ミクログリア、樹状細胞、造血幹細胞など、対象に応じて候補プロモーターとCreモデルを絞り込みます。
- リコンビナーゼの種類を選択:時間制御の必要性に応じて、構成的発現型Cre/iCreまたは誘導型CreERT2などを選択します。
- レポーターで検証:Rosa26-LSL-tdTomatoなどのレポーターマウスを併用し、フローサイトメトリー、免疫蛍光染色、組織学的解析によって組換え領域と効率を確認します。
- 機能解析へ移行:モデルの適合性を確認した後、floxマウスとの交配、条件付きノックアウト、疾患表現型解析へ進みます。
FAQ
免疫学研究でCreマウスが広く利用されるのはなぜですか?
Creマウスは、特定の免疫細胞または組織でCreリコンビナーゼを発現します。floxマウスやレポーターマウスと組み合わせることで、条件付き遺伝子ノックアウト、条件付き発現誘導、細胞系譜追跡、リコンビナーゼ活性の検証が可能となり、免疫細胞の発生・分化・遊走・機能制御メカニズムの解析に適しています。
免疫細胞特異的Creマウスを選ぶ際、何を優先して確認すべきですか?
標的細胞種、プロモーター特異性、リコンビナーゼの種類、誘導制御の要否、検証データの有無、さらに実験目的が遺伝子ノックアウト、系譜追跡、蛍光標識のいずれであるかを総合的に評価します。標的細胞が複数の組織に存在する場合は、Cre活性の組織分布と標的外細胞での発現にも注意が必要です。
構成的発現型iCreと誘導型CreERT2は、どのように使い分けますか?
特定の細胞種で安定かつ持続的に組換えを起こす場合は、構成的発現型iCreが適しています。組換えの時期を制御したい場合や、成体期に遺伝子改変を開始したい場合は、CreERT2などの誘導型モデルを選択し、タモキシフェン投与条件を検証します。
免疫研究用CreマウスをRosa26-LSL-tdTomatoなどのレポーターマウスと組み合わせるのはなぜですか?
レポーターマウスはCre依存的組換え後に蛍光を発するため、標的細胞・組織におけるCre活性、組換え効率、発現範囲を可視化できます。条件付きノックアウトや系譜追跡を行う前の重要な品質確認として有用です。
表に掲載されている免疫研究用モデルについて、見積りやプロジェクト相談はできますか?
各モデル名から詳細ページをご覧いただけます。カタログ番号、標的細胞、研究領域、今後の実験計画を添えて、お問い合わせまたはお見積りをご依頼ください。
Cre-loxPシステム活用ガイドは、どのような研究者に適していますか?
条件付きノックアウト、細胞系譜追跡、誘導型Cre実験、マウスの交配計画を検討している研究者に適しています。Cre-loxPシステムの原理、誘導条件、一般的な注意点を確認したい研究チームにもご活用いただけます。



